おはようございます。
さて、今日は、年俸制において年俸額についての労使の合意が成立しない場合の年俸額に関する裁判例を見てみましょう。
日本システム開発研究所事件(東京高裁平成20年4月9日・労判959号6号)
【事案の概要】
Y社は、中央官庁などからの受託調査・研究や会計システムの販売・導入を業とする会社である。
Y社では、一般の賃金体系について定めた就業規則と給与規則を変更しないまま、20年以上前から満40歳以上の研究職員を対象に個別の交渉によって賃金の年間総額と支払方法を決定してきた。
ところが、平成15年度と16年度については、研究室長らが年俸者についての個別業績評価の基礎となる資料の提出を拒んだため、Y社は、個人業績評価ができず、平成14年度の給与のまま凍結して支給した。
さらに、平成17年度にはY社の経営事情が悪化し、債務超過の状態にあることが判明したため、Y社は組織体制の変更や人件費を含む経費削減を行うこととした。
そこで、年俸額の引下げに合意しなかったXら4名が、前年度の年俸額との差額支払を求めて提訴した。
【裁判所の判断】
請求認容。
【判例のポイント】
1 Y社における年俸制のように、期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。上記要件が満たされていない場合は、労働基準法15条、89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。
2 Y社は、年俸額の決定基準は、その大則が就業規則及び給与規則に明記されていると主張する。しかし、Y社の就業規則及び給与規則には、年俸額に関する規定は全くない上、・・・原審においては、Y社において、年俸額の算定基準を定めた規定が存在しないことを認めていたものであり、Y社において、年俸制に関する明文の規定が存在しないことは明らかである。
3 以上によれば、本件においては、上記要件が充たされていないのであり、また、本件全証拠によっても、上記特別の事情を認めることはできないから、年俸額についての合意が成立しない場合に、Y社が年俸額の決定権を有するということはできない。そうすると、本件においては、年俸について、使用者と労働者との間で合意が成立しなかった場合、使用者に一方的な年俸額決定権はなく、前年度の年俸額をもって、次年度の年俸額とせざるを得ないというべきである。
本件は、年俸額についての労使の合意が成立しない場合の年俸額の決定が問題となったものですが、年俸額の決定基準や決定方法などについての定めが一切存在しない点で、他の成果主義・年俸制をめぐる典型的事案ではありません。
年俸額についての労使間の合意が成立しない場合に、翌年度の年俸額は当然に前年度と同額になるのかという問題がありますが、そのような場合についての明確な決定方式が定められている場合には、原則としてそれによることになるとしても、本件のような事情の下においては、特に年俸額が変更されるための根拠がに以上、前年の年俸額が維持されると解するほかありません。
会社としては、本件のような場合を想定した規定を置くことを検討してください。
詳しくは、顧問弁護士にご相談ください。