Daily Archives: 2011年3月11日

配転・出向・転籍3(GEヘルスケア・ジャパン事件)

おはようございます。

今日は、配転に関する裁判例を見てみましょう。

GEヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁平成22年5月25日・労判1017号68頁)

【事案の概要】

Y社は、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)の医療部門であるGEヘルスケア等の出資で設立された、医療用機器の製造等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、期間の定めのない雇用契約を締結して、製造本部EHS(環境・安全衛生)室長であったが、平成20年1月1日付けで物品等の受入検査部門(現在は、製造本部・製造部内に設置されたクオリティチーム内のトランザクションチーム)への配置転換を命じられた。

Y社は、(1)Yにコミュニケーション能力やリーダーシップが不足していること、(2)EHS業務の専門知識が欠如していること、(3)Xには、上司の命令に従わずに、決定済みの事柄を蒸し返して指揮命令系統を無視するなど、業務命令違反等の問題行動があったことを背景に本件配転を行ったと主張する。

これに対し、Xは、(1)EHS室長として十分なコミュニケーション能力やリーダーシップを備えており、それに見合う高い評価を受けていたし、業務命令違反等の問題を起こしたこともなかった。ところが、Y社は、XをEHS室長から外し、単純作業を繰り返すだけの、Xの知識・経験・技能を必要としないトランザクションチームに配置した。このような本件配転は、業務上の必要性に基づかない。

(2)仮に業務上の必要性に基づくものであったとしても、(ア)本件配転は、上司がXをいわれなく嫌悪し、パワハラを重ねたあげくに行われたものであるから、不当な動機・目的をもってなされたものである。しかも、Xが社外の労働組合に加入したことを決定的な動機としており、不当労働行為にも該当する。

などと主張し、配転無効無効確認及び慰謝料300万円等を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(配転命令は有効)

【判例のポイント】

1 配転命令は、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、(中略)他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき」には権利濫用になるものと解される(東亜ペイント事件)。

2 Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないというD本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。本件配転先のトランザクション業務は、EHS室長のそれに比べれば仕事のスケールが小さく、単調なものと考えられるが、そうだとしても、Y社がXを無理矢理当てはめるためにこれを作り出したとか、Xがそこで実質的に仕事を与えられていない状態に置かれているなどとはいえない。したがって、本件配転は、業務上の必要性に基づくものということができる。

3 前記のとおり、Xは、EHS室長当時、同室長の適性を疑われてもやむを得ないというべき言動を繰り返したことから、XがEHS室長の適性を備えていないという本部長の判断は、相当で合理的なものであったと認めることができる。そうだとすると、・・・Xの働きぶりに変化がなかったとはいえないし、本部長がXを嫌悪して、その業績評価を恣意的に下げたとも認められない。

4 Xの資格区分や給与の額は、本件配転を人事上の降格ということはできない。Xは、直属の上司が本部長ではなくなったことから、本件配転によって、実質的に3段階も降格されたと主張するが失当である。
本件配転の前後を通じて、Xの職務の責任範囲や指揮命令の及ぶ範囲が大幅に縮小されたとは認められない。また、Xは、本件配転後、祝日出勤を義務付けられるなど、労働条件が低下していると主張するが、そうだとしても、これは、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。

本件では、XのEHS室長としての資質に疑問があるということで、配転の必要性が認められました。

その裏返しとして、不当な動機・目的は存在しないとも認定されています。

配転と降格が動じに行われるという降格的配転となれば、降格の要件も満たす必要があり、それを欠く場合には両者が一体として無効となります。

しかし、本件では、配転の前後を通じてXの資格区分や給与の額が変更されていないという事情があり、裁判所は、この点に着目して、本件配転が降格的配転ではないと評価しました。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。