Monthly Archives: 2月 2011

賃金10(社会福祉法人賛育会事件)

おはようございます。

さて、今日は、賃金制度の変更に伴う賃金減額に関する裁判例です。

社会福祉法人賛育会事件(東京高裁平成22年10月19日・労判1014号5頁)

【事案の概要】

Y社は、各種社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人である。

Xは、介護職としてY社が経営する病院に勤務していた。

Y社は、職員の担当する職務遂行能力や成績の考課を通して、職員の能力開発・育成を促進し、昇進・昇格・異動配置・賃金・賞与等の処遇を公平妥当に行うための考課システムを作成するとともに、職能資格制度を導入した。

さらに、Y社は、賃金制度の変更についても検討し、新人事制度導入等に伴う就業規則等の見直し等を検討するため、職員就業規則等研究委員会を全6回開催し、その後、就業規則や賃金規程等を改正した。

Xは、主位的に、本件賃金規程等の変更は無効であるとして、変更前の賃金規程等に基づいて得られるべき賃金とすでに支給された賃金との差額等の支払いを求めるとともに、予備的に、Y社が上記差額を是正しないまま放置していることが公序良俗に反する不法行為に該当すると主張して、損害賠償等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

差額の賃金の支払いを命じた。

損害賠償請求は棄却。

【判例のポイント】

1 本件就業規則等の変更は、賃金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼすものである。

2 そして、賃金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきであり、この合理性の有無は、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである

3 本件就業規則等変更、人件費削減を目的とするものではないにもかかわらず、Xを含め従業員の賃金減額をもたらし、代償措置もその不利益を解消するに十分なものとはいえないのであって、新賃金制度の導入目的に照らして賃金減額をもたらす内容への変更に合理性を見出すことは困難であり、そのような基本的な労働条件を変更するには、特に十分な説明と検証が必要であるといえるが、Xを含め従業員ないし労組に対する説明は十分にされたとはいえず、新賃金制度の内容にも問題点があり、導入に当たり内容の検証が十分にされたとはいいがたく、従業員への説明や内容の検証を上記の程度にとどめてまで新賃金制度を導入しなければならないほどの緊急の必要性があったとも認められない。

4 賃金規程の変更に同意しないXに対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、Xにその効力を及ぼさず、Xは、新賃金制度による給与額が旧賃金制度における支給されたであろう額を下回る場合には、その差額の賃金を請求することができる。

本件は、年功序列型から従業員の能力や成果をより強く反映させる賃金制度への変更に関する就業規則の不利益変更が問題となった事案です。

一般論として、前記判例のポイント2のとおり、みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日・労判787号6頁)を引用し、個々の要素を検討しています。

結果的に、本件賃金制度の変更に合理性は認められませんでした。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金9(ハクスイテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、年功序列型から能力・成果主義型への変更に関する裁判例を見てみましょう。

ハクスイテック事件(大阪高裁平成13年8月30日・労判816号23頁)

【事案の概要】

Y社は、化学製品製造・販売とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、Y社の研究所に勤務していた。

Xは、年功序列型体系から能力・成果主義型賃金体系への変更を目指した給与規定の変更につき、新たに導入された給与規定の無効確認を求めた。

【裁判所の判例】

年功序列型から能力・成果主義型への給与規定変更は、合理性を有する。

【判例のポイント】

1 Y社が給与の低下分について調整給や1~10年間分の減額分補償措置を設けていることに加え、B評価以上になれば賃金が減額することはなく、最低のFランクに位置づけられても月額賃金は38万5000円を下らない。

2 Y社の経営状態がいわゆる赤字経営となっている時代には、賃金の増額を期待することはできないというべきであるし、普通以下の仕事ができない者についても、高額の賃金を補償することはむしろ公平を害するものであり、合理性がない

3 現に8割程度の従業員は新給与規定で賃金が増額しているのであって不利益は小さい。

4 近時我が国の企業についても、国際的な競争力が要求される時代となっており、一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められていたといえる。そして、Y社においては、営業部門のほか、Xの所属する研究部門においてもインセンティブ(成果還元)の制度を導入したが、これを支えるためにも、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入する必要があったもので、これらのことからすると、Y社には、賃金制度改定の高度の必要性があったということができる。

本件裁判例の請求は、「就業規則無効確認」です。

このような請求のしかたもあるんですね。

本件は、上記判例のポイント3が大きいですね。

会社側としては、一般論も、大変参考になりますね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金8(医療法人大生会事件)

こんにちは。

さて、今日は、賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人大生会事件(大阪地裁平成22年7月15日・労判1014号35頁)

【事案の概要】

Y社は、病院の経営を業とする医療法人である。

Xは、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結し、総務事務部門で勤務していた(月額基本給18万円)。

Xは、上司から総務管理への配置換えを命じられ、同時に基本給を15万円とすることを通知された。

平成21年3月9日午後9時頃、Xが退勤したところ、上司から午後10時ないし11時頃に電話があり、すぐ戻るよう指示を受けた。しかしXは「帰りの電車がないので行けません」と述べて指示を拒んだところ、翌日Xのタイムカードが撤去され、15日まで打刻できない状態にされたうえ、同月14日に、4月14日をもって解雇する旨通告された。

Xは、Y社に対し、未払基本給の一部や時間外割増賃金、解雇等に対する慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

未払基本給に年14.6%の利率を付した支払を命じた。

慰謝料として合計40万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 一方的に減額された賃金をXが受領したことをもって賃金減額に合意したとは認められず、訴状において減額後の基本給を基礎とする請求を行ったとしても、一部請求をしたにすぎず、減額に合意した自白が成立するわけではない。

2 タイムカードに打刻された出勤時刻から退勤時刻までのうち、休憩時間を除いた時間すべてについてY社の指揮命令下にあった時間と認めるのが相当でありXは自己の意思で残ったにすぎないとのY社の主張について、所定終業時刻以降も行うべき業務は恒常的に存在しており、Xがそのような業務に従事せずに済んだとは考えられず、根拠がない。

3 未払基本給及び割増賃金について、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく年14.6%の利率を付した支払いが命じられた。

4 Y社が時間外・深夜・休日の割増賃金の支払いを全くしておらず、訴訟提起後も時間外、深夜労働の事実自体を争って未払割増賃金を支払う姿勢を全く見せない事案に照らすと、未払額と同額の付加金支払を命じることが相当である

5 Y社が、客観的に合理性のある解雇理由がなく解雇理由も説明せずにXを解雇し、その後も業務命令違反と称して基本給を一方的に減額する等の嫌がらせを行った態様に照らすと、解雇はXの雇用契約上の権利を不当に奪い、精神的苦痛を与えたものとして、不法行為法上も違法性を有するとして、慰謝料30万円の支払いを命じた。

6 使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情がないかぎり、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うとして、正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したりする行為は、違法性を有し不法行為を構成するとして、Y社に慰謝料10万円の支払いを命じた。

本件裁判例は、会社、従業員ともにとても参考になりますね。

特に、上記判例のポイント6は、参考になります。

時間外労働等に対する賃金請求では実労働時間の立証に困難を伴うことが多いですが、使用者が記録を有している場合に、特段の事情がないかぎり開示しないことが不法行為となるとすれば、タイムカード記録の閲覧を間接的に強制することになります。

その他、上記判例のポイント2では、Y社が「残業は、Xの自由意思」との主張を認めませんでした。

会社としては、従業員の労働時間の管理を徹底しなければいけません。

普段、なあなあでやっていると、いざ争いとなった場合に、どうしようもありません。

改善方法等については、顧問弁護士又は顧問社労士に確認してください。

賃金7(片山組事件)

こんにちは。

さて、今日は、私傷病と労務受領拒否に関する最高裁判例を見てみましょう。

片山組事件(最高裁平成10年4月9日・労判736号15頁)

【事案の概要】

Y社は、土木建築会社である。

Xは、Y社の従業員として、建築工事現場における現場監督業務に従事していた。

Xは、バセドウ病と診断され、通院治療しながら、業務に従事していた。

Xは、バセドウ病に罹患していることを理由に現場監督業務のうち現場作業はできない旨を申し出て、現場の管理者はこの要望を容れてXを現場事務所における事務作業に従事させた。

その後、提出された主治医の診断書とXの病状説明・要望書をもとに、Y社は産業医に相談するまでもなく自宅治療が妥当であるとの結論に達し、Xに対し、当分の間、自宅で治療に専念する旨を命じた。

本件自宅治療命令は、Y社がXの病状は現場作業も可能な状態であると判断して現場勤務命令を発するまでの間続いた。

この間、Xは就労の意思を表明するために工事現場に赴くものの、Y社はXの就労を拒否し、本件自宅治療期間中欠勤扱いとして月例賃金を支給せず、冬季一時金を減額支給した。

これに対し、Xは、本件自宅治療命令は無効であるとして、同期間中の月例賃金と一時金減額分の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し→賃金請求を認めた(差戻審・東京高裁平成11年4月27日・労判759号15頁)

【判例のポイント】

1 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。

2 そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲を同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。

3 Xは、Y社に雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである
そうすると、右事実から直ちにXが債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、Xが配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。

この分野の裁判所の判断は、本件最高裁判例をベースとしています。

本件判例の判断枠組みに従って、差戻審判決は、労働契約上Xの職種や業務内容の限定はなく、Y社には事務作業業務にXを配置する現実的可能性があり、Y社の業務全体の中でXを配置できる部署の有無を検討して配置可能な業務をXに提供する必要があるとして、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Y社の受領拒否による労務提供不能であるとして、Xの賃金請求権を認容しました(民法536条2項)。

これまで、私傷病と解雇との関係を多く検討してきましたが、本件判例のように、賃金請求という形でも争いとなるわけです。

やはり、会社としては、このあたりの判断は、顧問弁護士や顧問社労士と相談しながら行ったほうが無難ですね。

 

労災40(トヨタ自動車事件)

おはようございます。

昨日も、夜遅くまでK山組のみなさんと飲んでいました

今日は、午前中は、裁判の打合せが1件と破産の相談が1件です。

午後は、家裁で離婚調停をして、その後、破産等の打合せが2件です。

夜は、O社のOさんとお食事です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

トヨタ自動車事件(名古屋高裁平成15年7月8日・労判856号14頁)

【事案の概要】

Y社に勤務していたXは、昭和63年8月、ビルから飛び降り自殺をした(死亡時35歳)。

Xは、当時、複数車種の改良設計で忙殺されており、組合の職場委員長への就任や、開発プロジェクト、南アフリカ共和国への出張命令を受けており、強い心理的負荷を受けていた。

Xの遺族は、Xの自殺は、過重な業務に起因するうつ病によるものであると主張した。

【裁判所の判断】

岡崎労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と傷病等との間に業務起因性があるというためには、労働者災害補償制度の趣旨に照らすと、単に当該業務と傷病等との間に条件関係が存在するのみならず、社会通念上、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化として死傷病等が発生したと法的に評価されること、すなわち相当因果関係の存在が必要であると解せられる。

2 精神疾患の発症や増悪は様々な要因が複雑に影響し合っていると考えられているが、当該業務と精神疾患の発症もしくは増悪させた原因であると認められるだけでは足りず、当該業務自体が、社会通念上、当該精神疾患を発症もしくは増悪させる一定程度の危険性を内在または随伴していることが必要であると解するのが相当である。

3 そして、うつ病の発症メカニズムについてはいまだ十分解明されていないけれども、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレス(業務錠ないし業務以外の心身的負荷)と個体側の反応性、脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。

4 もっとも、ストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるといっても、両者の関係やそれぞれの要素がどのように関係しているのかはいまだ医学的に解明されている訳ではないのであるから、業務とうつ病の発症・増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、うつ病に関する医学的知見を踏まえて、発症前の業務内容及び生活状況並びにこれが労働者に与える心身的負荷の有無や程度、さらには当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断するのが相当であると考えられる

5 Xは、7月下旬ないし8月上旬ころ本件うつ病に罹患し、本件うつ病による心神耗弱状態の下で本件自殺をしたものであり、Y社におけるXの業務が本件うつ病発症の要因の1つになっていたこと(すなわち、業務と本件うつ病発症との間に条件関係が存在していたこと)自体は明らかである。そこで、業務上の出来事がXの心身にどのような負荷を与えたかについて以下検討すると、いわゆる業務の過重性について本件を基準とする見解、すなわち本人が感じたままにストレスの強度を理解すれば足りるとする見解は採用できないけれども、ストレスの性質上、本人が置かれた立場や状況を充分斟酌して出来事のもつ意味合いを把握した上で、ストレスの強度を客観的見地から評価することが必要であり、本件においては、Xが従事していた業務が、自動車製造における日本のトップ企業において、内容が高度で専門的であり、かつ、生産効率を重視した会社の方針に基づき高い労働密度の業務であると認められる中で、いわゆる会社人間として仕事優先の生活をして、第1係係長という中間管理職として恒常的に時間外労働を行ってきた実情を踏まえて判断する必要があるというべきである

第1審は、業務上の心身的負荷の強度の判断については、「同種労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし、同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当」であると判断しました。

いわゆる「平均的労働者最下限基準説」です。

これに対し、本件裁判例は、第1審とは異なる見解に立っています。

また、この裁判例は、Xが中間管理職の立場にあるという事実を判断要素として取り上げています。

このあたりは、労働者側として参考になる部分だと思います。

有期労働契約16(明石書店事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

明石書店事件(東京地裁平成22年7月30日・労判1014号83頁)

【事案の概要】

Y社は、本の出版および販売等を業とする会社である。

Y社では、期間の定めのない契約の従業員を正社員と呼び、有期労働契約の従業員を契約社員と呼んでいる。採用時は、全員、契約社員である。

Xは、Y社と有期労働契約を締結し、入社し、制作部に配属された。

Xは、Y社と、平成19年10月9日~平成20年4月30日、平成20年5月1日~平成21年4月30日、平成21年5月1日~平成22年4月30日と、労働契約を更新してきた。

しかし、平成21年5月1日~平成22年4月30日の労働契約の契約書には、「本件労働契約期間満了時をもって、その後の新たな労働契約を結ばず、本件契約は終了する。」(本件不更新条項)との記載がある。

Y社は、本件不更新条項を根拠として、Xを雇止めにした。

これに対し、Xは、本件雇止めは無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 期間の定めのある労働契約は、期間が満了すれば、当然に当該契約は終了することが約定されているのであり、原則として、期間の満了とともに、労働契約は終了することになる。しかし、期間の定めのない労働契約においては解雇権濫用法理が適用される一方で、使用者が労働者を雇用するにあたって、期間の定めのある労働契約という法形式を選択した場合には、期間満了時に当然に労働契約が終了するというのでは、両者の均衡を著しく欠く結果になることから、判例法理は、雇用継続について、「労働者にある程度の継続を期待させるような形態のものである」という、比較的緩やかな要件のもとに、更新拒絶に解雇権濫用法理を類推適用するという法理で運用している。もとより、具体的な解雇権濫用法理の類推適用をするについては、当該契約が期間の定めのある労働契約であることも、総合考慮の一要素にはなるものの、これを含めた当該企業の客観的な状況、労働管理の状況、労働者の状況を総合的に考慮して、更新拒絶(雇止め)の有効性を判断するという運用を行っているのであり、このような判例法理は、個別の事例の適切な解決を導くものとして、正当なものとして是認されるべきである。

2 本件においては、Xの労働契約の3度目の更新にあたって、更新の前年にY社の方針のもとに、本件不更新条項が付されたことから、Y社は、上記の判例法理の適用外になったと主張する。しかし、少なくとも従前においては、Y社の社内においては、期間の定めのある労働契約を締結していた契約社員には、更新の合理的な期待があると評価できることは明らかである

3 このような状況下で、労働契約の当事者間で、不更新条項のある労働契約を締結するという一事により、直ちに上記の判例法理の適用が廃除されるというのでは、上述の期間の定めの有無による大きな不均衡を解消しようとした判例法理の趣旨が没却されることになる。

4 本件不更新条項の根拠として、Y社は、厚生労働省告示に従ったのであるのであると主張するが、Y社が主張する方針、特に概ね3年を目処に正社員化できない契約社員の雇用調整を行うことの合理性を窺わせる事情が想定できないことを考えれば、本件不更新条項を付した労働契約締結時の事情を考慮しても、本件雇止めの正当性を認めることはできない。

突如、合理的理由なく、契約更新をしない旨の条項を入れただけでは、雇止めは有効にはなりません。

上記判例のポイント1の視点は、会社側も持っておくべきです。

有期労働契約だからといって、そんなに簡単に解雇できませんので、ご注意ください。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災39(S学園事件)

おはようございます。

昨夜は、久々に税理士のK山先生とTさんと飲みに行きました

K山先生、ごちそうさまでした!

いろいろとやらなければいけないことがありますね・・・

がんばろ!!

今日は、午前中は、書面を作成します。

午後は、判決を聞いて、そのまま原告の方と一緒に県庁で記者会見です

夜は、裁判の打合せです。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

S学園事件(大阪地裁平成22年6月7日・労判1014号86頁)

【事案の概要】

Y社は、高等学校卒業生を対象とした分析化学の教育指導を行うことを目的とする2年制の専修学校である。

Xは、Y社に専任講師として雇用され、Y社が設置する専門学校で稼働していた。

Xは、うつ病を発症し、それにより休業を余儀なくされた。

【裁判所の判断】

天満労基署長による休業補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務と精神障害の発病との間の相当因果関係を判断するに当たっては、今日の精神医学において広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論、すなわち「環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、ストレスが非常に大きければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても精神障害が起こる」という考え方に依拠するのが相当である。そこで、同理論を踏まえると、業務と疾病との間の相当因果関係の有無の判断においては、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性とを総合的に考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であるといえる場合は、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。これに対し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発病させる程度に過重であると認められない場合は、精神障害は業務以外の心理的負荷又は個体的要因に起因するものといわざるを得ないから、業務起因性を否定することとなる。

2 なお、被告が判断基準として主張する判断指針は、労働者災害認定のための行政の内部指針であって、大量の事件処理をしなければならない行政内部の判断の合理性、整合性、統一性を確保するために定められたものであるが、基準に対する当てはめや評価に当たって判断者の裁量の幅が大きく、また、業務上外の各出来事相互の関係、相乗効果等を評価する視点が必ずしも明らかでない部分がある
以上のような判断指針の設定趣旨及び内容を踏まえると、裁判所の業務起因性に関する判断を拘束するものではないといわなければならない。

3 Xは、少なくとも後期授業が開始した平成14年9月12日から本件引率業務のためイギリスへ出発する前日の平成15年2月14日までの間、量的(労働時間)にも質的(業務内容による精神的負担感や緊張感が伴うもの)にも過重な労働を行い、心身の疲労が蓄積していたにもかかわらず、初めての海外経験である本件引率業務に従事し、さらに、帰国当日の同年3月11日から休む間もなく連日多岐にわたる業務をこなして、心身の疲労が頂点に達した同月16日及び同月17日の両日に、Y学園長から他の教員らの面前で一日体験入学の準備に遅刻をしたことについて厳しい叱責を受け、遂にその限界を越え、精神障害を発病させたとみるのが自然である。そうすると、Xが本件学校において担当した業務は、社会通念上、本件精神障害を発病させる程度に過重な心理的負荷を与える業務であったと認めるのが相当である。

参考になるのは、上記判例のポイント2のいわゆる「ストレスの相乗効果」論です。

他の裁判例でもこのような言い回しをしているものもあります。

行政の判断指針が批判される点ですね。

労働者側としたら、この視点をもって、裁判で戦うべきです。

実際、判例のポイント3では、裁判所は総合的に判断しています。

それから、上記判例のポイント3に出てきますが、他の従業員の前で、叱責するのは、避けましょう。

誰だって、同僚の前で、叱責されたら、落ち込みます。

継続雇用制度16(津田電気計器事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

津田電気計器事件(大阪地裁平成22年9月30日・労旬1735号58頁)

【事案の概要】

Y社は、電子制御機器・計測器の製造・販売を業とする従業員50数名規模の会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社には、従来から定年である60歳から1年間の嘱託契約制度があった。平成18年3月、61歳で嘱託契約を終了した者を対象とした高年齢者継続雇用制度を導入した。

Xは、Y社が導入した継続雇用制度による雇用継続を申し入れたところ、選定基準に達していないとして継続雇用を拒否された。

Xは、Y社の査定は不合理であり、Xは選定基準を満たしていたとして労働契約上の地位にあることの確認と賃金支払いを求めた。

なお、Y社の継続雇用制度の概要は、(1)継続雇用を希望する者のうちから選考して採用する、(2)在職中の勤務実績および業務能力を査定し、採用の可否、労働条件を決定する、(3)「継続雇用対象者の査定表」には、業務習熟度、社員実態調査票、保有資格一覧表を、賞罰実績表を用い、総点数が0点以上の高齢者を採用する、(4)労働条件は、「継続雇用対象者」の総点数が10点以上の者は週40時間以内の労働時間とする、(5)本給の最低基準は満61歳のときの基本給の70%とし、これに1週の労働時間を40時間で割った割合を乗じて額とする、というものである。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 高年法9条2項の趣旨は、原則希望者全員雇用が望ましいが、困難な企業もあるから企業の実情に応じ、また、企業の必要とする能力経験が様々であるからもっとも相応しい基準を定めることが適当であり、同法9条1項に基づく事業主の義務は公法上の義務であり、個々の従業員に対する私法上の義務を定めたものとは解されない。

2 同法9条2項の選定基準の具体的内容をどのように定めるかについては、各企業の労使の判断であるから、選定基準の内容が公序良俗に反するような特段の事情のある場合は別として、同法違反を理由に当該継続雇用制度の私法上の効力を否定することはできない

3 事業主が、高年法9条1項2号、2項に即して就業規則において継続雇用制度の具体的な選定基準、再雇用された場合の一般的な労働条件を定め、周知したときは、自ら雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件で再雇用契約の締結の申し込みをしたものと認めるのが相当であり、当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が再雇用を希望した場合、事業主の申込みに対する承諾があったとして、定年日の翌日を始期とする継続雇用制度の労働条件を内容とする再雇用契約が成立する。

4 事業主が法9条1項、2項に則して、継続雇用制度を導入し、具体的な選定基準や再雇用した場合の労働条件を明らかにしたのであれば、法律上の義務を果たすべく、条件を満たした労働者が希望すれば当然に契約を成立させるという確定的意思にもとに就業規則の制定を行ったものといえ、当該就業規則の周知は、申込みの誘引ではなく、当該就業規則に定める条件を満たした労働者を同就業規則で定めた労働条件で再雇用する旨の意思表示をしたものである

5 本件においては、査定の記載が、複数個所においていったん記入後低い評価に変更、修正されていること、上司が自分の経験で評価するとしか証言しなかったことなどから、Xのあるべき評価自体に重きをおくことはできない。そして、Xの直近1年の査定を具体的に検討し、使用者の査定項目のうち「チームワーク」のうち「自主的・積極的に上司に協力・補佐したか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、また、「仕事の達成度」のうち「こなした仕事の量・質は十分だったか」のD評価は明らかに不合理であり、「普通」としてC評価であるべきとし、これに表彰実績も加えると総点数は5点となり、採用基準を上回っている。

上記判例のポイント2のとおり、この裁判例によれば、結局、公序良俗違反となるような場合を除き、いかなる継続雇用制度を導入するか、いかなる選定基準とするかについては、労使協定で自由に決められるようです。

先日の新聞にも書かれていましたが、この分野は、今後、裁判が続くと思われます。

なお、この裁判例では、査定の当否の立証責任について、以下のとおり判断しています。

1 選定基準の要件を満たしている事実は、再雇用契約の申込みに付された契約成立条件にかかるから、再雇用契約の成立を主張する労働者において主張立証し、選定基準が、特段の欠格事由がない者は再雇用するというものであれば、欠格事由の存在は使用者が主張立証すべきである。

2 労働者は過去の人事考課が基準以上のものであったはずであることを裏付ける具体的事実を主張立証し、使用者は自己のなした人事考課を裏付ける具体的事実を主張立証し、裁判所が認定できた事実をもとにあるべき評価を検討し、基準を満たしたかどうかを判断する。

3 再雇用拒否という労働者にとって大きな不利益をもたらす人事考課については、人事考課を実施し、資料を独占的に保有している使用者側において人事考課の根拠とした事実、当該事実の考課基準のあてはめ過程の双方について具体的に論証しないかぎり権限の濫用と評価される場合が多い

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。