Monthly Archives: 2月 2011

配転・出向・転籍2(大阪府板金工業組合事件)

おはようございます。

今日は、降格と配転に関する裁判例について見てみましょう。

大阪府板金工業組合事件(大阪地裁平成22年5月21日・労判1015号48頁)

【事案の概要】

Y社の主たる事業は、情報収集・交換による経営方針の確立のための活動、職業能力開発促進法に基づく大阪府板金高等職業訓練校の運営等の指導教育情報事業、建設雇用改善事業の実施、全国板金業国民健康保険組合の運営等の福利厚生事業、資材の共同購入による経費節減等の共同購買事業、共同受注事業である。

Xは、Y社の正社員である。

Xは、Y社に対し、(1)違法に賞与、賃金を減額されたとして、賞与請求権ないし賃金請求権に基づく支給額との差額の支払、(2)Xが、Y社の事務局長代理の地位から経理就任に降格されたことが無効であることを理由とする事務局長代理の地位確認及び降格された地位に係る手当との差額の支払い、(3)Xに対する配転命令が違法であることを理由とする地位確認、(4)Y社のXに対する不利益取扱いが女性従業員に対する差別的取扱いであることを理由とする不法行為に基づく損害賠償をそれぞれ求めた。

【裁判所の判断】

賞与請求は棄却

本件降格は無効

配転命令は有効

女性従業員に対する差別的取扱いとは認められない。

【判例のポイント】

1 賃金規程に「賞与は、組合の業績および業界の動向、職員の業務遂行能力、勤務成績等を考慮し、原則として毎年7月と12月に措定の金額を支払うものとする」、「経済状況等によりやむを得ない場合、賞与を支給しない場合がある」との規定があり、これらに沿った賞与の算定が行われていた場合に、入社時に賞与の算定方法についての説明・合意があったというXの主張を退けて、個別具体的な賞与の算定方法、支給額、支給条件が労働契約の内容になっているとは認められないと判断した

2 事務局長代理から経理主任への降格を行う人事権は、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているものであり、その権限行使については使用者に広範な裁量権がありこのような人事権行使に裁量権の逸脱または濫用があるか否かを判断するに当たっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力、適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無およびその程度等諸般の事情を総合考慮するのが相当である

3 Xが事務局長代理としての能力を備えており、その適性を欠いていたとは認めがたいこと、Xが休暇を取得することによって事務局長代理としての職責を十分に果たすことができなかったとも認めがたく、本件降格後、Y社では事務局長代理の地位に就いた者はいないことにかんがみると、本件降格は人事権を濫用したものであるというのが相当である

4 経理部から資材部への異動を命じる配転命令および資材部から経理部への異動を命じる配転命令は、業務上の必要性がないのに行われた場合、それが他の不当な動機ないし目的をもって行われた場合、または、Xに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など特段の事情がある場合には、権利の濫用として許されない。

5 資材部所属の職員が病気入院したことを契機としてY社事務局の担当職務を変更する必要性が生じたことから、職務の必要性はあり、配転命令がXを退職に追い込もうと嫌がらせ目的で行われたとまでは認められないことから、不当な目的はなく、配転命令は濫用に当たらない

6 Y社のXに対する不利益取扱いが既婚女性従業員への差別であるとの主張について、本件配転命令には業務上の必要性があったと認められ、他方、不当な動機目的があったとは認められないこと、Y社事務局には、Xの他にも女性従業員が在籍しているが、特にこれらの者から同様の苦情等が出ているとはうかがわれないことなどからすると、Y社のXに対する不利益取扱いが既婚女性従業員への差別であるとまでは認められない。

やはり、配転は、使用者の裁量が相当広いですね。

そうそう簡単には無効とはなりません。

上記判例のポイント2の判断基準を参考にして準備をするべきです。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。

賃金12(協愛事件)

おはようございます。

さて、今日は、規定変更による退職金不支給に関する裁判例を見てみましょう。

協愛事件(大阪高裁平成22年3月18日・労判1015号83頁)

【事案の概要】

Y社は、タレントのマネージメント、ラジオ及びテレビ番組に関する企画制作等を目的とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、以後正社員として就労し、退職した者である。

Y社における自己都合退職の場合の退職金額は、平成6年の会社規程により、「勤続15年以上の者」に対し、「算定基礎月額に勤続年数を乗じて算定」した額を支給するとされていたが、平成7年の補則事項によって、平成6年の会社規程と比較して3分の2の額とされ、平成10年の就業規則によって、「勤続20年以上の者」に対し「退職前月の基本給月額に勤続年数を乗じて算定した額の50%」を支給するとされ、平成15年の就業規則によって、退職金が不支給とされた。

なお、平成7年の補則事項は、平成6年の会社規程の就業規則等の定めに続けて同じ頁に追加した形式で記載され、平成6年の会社規程の表紙(その裏側部分に就業規則が記載されている裏表紙と一体)には、Xを含むY社の従業員による押印がされていた。

平成10年の就業規則は、その文中に「前記の就業規則・・・を閲覧し、同意致します。」と手書きで記載され、社員代表2名の署名押印がされていた。

Xは、従前の就業規則の退職金の規定(平成6年の会社規程)に基づく額の退職金(1473万円)の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、全従業員の同意を得て、仮にそうでないとしても就業規則の不利益変更の要件を充足したうえで、その後数次にわたって就業規則を改定し、Xが退職するまでに就業記憶の退職金の規定が廃止されたとして、Xの請求を争った。

【裁判所の判断】

第1回変更後の退職金規定に基づき、退職金として900万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働契約法は、労働条件設定・変更における合意原則を定めるとともに、就業規則の内容が合理的なものであれば労働契約の内容となるものとし(同法7条)、就業規則の不利益変更であっても、合理性があれば反対する労働者も拘束するものと定めた(同法10条)。これは、一般に、就業規則の不利益変更を巡る裁判所が形成した判例法理を立法化したものであると説明されている。同法9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定める。これは合意原則を就業規則の変更による労働条件の変更との関係で規定するものである。同条からは、その反対解釈として、労働者が個別にでも労働条件の変更について定めた就業規則に同意することによって、労働条件変更が可能となることが導かれる。そして同条9条と10条をあわせると、就業規則の不利益変更は、それに同意した労働者には同条9条によって拘束力が及び、反対した労働者には同条10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し、そして上記の趣旨からして、同法9条の合意があった場合、合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解されるもっともこのような合意の認定は慎重であるべきであって、単に、労働者が就業規則の変更を掲示されて異議を述べなかったといったことだけで認定すべきものではないと解するのが相当である。就業規則の不利益変更について労働者の同意がある場合に合理性が要件として求められないのは前記のとおりであるが、合理性を欠く就業規則については、労働者の同意を軽々に認定することはできない

2 1回目の就業規則改定については当時のY社の全従業員が同意したものということになるが、これは退職金の規定を変更し退職金額を従前の3分の2に減額するものであるから、全従業員の同意が真に自由な意思表示によってされたものかを検討する必要があるところ、平成7年の補則事項については、その内容の合理性、周知性を検討するまでもなく、全従業員の同意を得て定められた(改定された)ものと認めるのが相当である

3 2回目の就業規則改定による退職金の減額幅は極めて大きく、さらにY社によって恣意的運用がされるおそれがあることからすると、Y社としては従業員に最悪退職金を支給しないことを定める就業規則であることやその内容を具体的かつ明確に説明しなければならないというべきであるが、本件においてはこの点が従業員に対し具体的かつ明確に説明されたと認めることはできない

4 3回目の就業規則改定当時にY社の経営が窮境にあり、従業員もそのことを理解したうえで同意の意思表示をしたのであれば、それは真の同意であったものと推認することができるが、Y社は退職金の不支給をも導入する就業規則の改定に当たり、雇用者側として従業員に対し適切かつ十分な説明をしたものと認めることはできない。 

なかなか興味深い裁判例です。

上記判例のポイント1は、一般論として、おさえておきましょう。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

労災41(日本通運株式会社事件)

おはようございます。

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本通運株式会社事件(大阪地裁平成22年2月15日・判時2097号98頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物運送事業、航空運送代理店業、旅行業その他の事業を営む会社である。

Xは、Y社において旅行関連業務に従事していた。

Xは、うつ病に罹患し自殺した。

Xの妻は、Y社に対し、Xがうつ病に罹患し、自殺したのは、Y社の安全配慮義務違反又は不法行為によるものであると主張し、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Xの損害として、300万円(慰謝料)を認容した。

【判例のポイント】

1 Xは、高校卒業後、Y社に入社し、旅行部門で添乗業務に従事した後、子会社へ出向し、関西、成田の空港事業所等で勤務していた者であるが、高校一年生のときに受けた虫垂炎手術後、血清肝炎を発症し、軽快したものの完治はしていなかったところ、Y社に入社後の健康診断で血清肝炎を指摘され、Y社の健康指導員の指導を受けるようになり、C型慢性肝炎の治療として内服、静脈注射を受け、その間にインターフェロン治療を提案されたがこれに応じなかった。
平成16年4月、Xは、Yの支店に異動となったが、その頃インターフェロン治療を受けることを決め、上司らに申告したところ、衛生管理担当の次長から転勤直後に入院治療を受けることを非難するような発言をされた。
同年5月、Xは、入院しインターフェロンの投与を開始し、副作用等による一時中断があったものの、同年7月に退院し、以後通院による治療を受けることとなった。
そこで、Xは、復職のため次長らと面談したが、その際に、次長から「治療に専念した方がよいのではないか。自分から身を引いたらどうか」等退職を示唆する発言がされ、Xに相当の精神的衝撃を与え不安症状を強めた。

2 これはXの精神面を含む健康管理上の安全配慮義務に違反するものであり、この行為によりXのそのころ発症した不安、抑うつ状態を持続、長期化させ、うつ病の発症に相当程度寄与したものであることから、本件うつ病の発症との間に相当因果関係が認められる

3 しかし、当時のXの病態、症状等を最大限に考慮しても、Y社において、Xが自殺することについてまで具体的な予見可能性や予見義務があったとは認められないことから、Xの自殺との間に相当因果関係は認められない。

この裁判例は、Xがうつ状態等の精神症状を発症させる危険性があることについての予見可能性、予見義務があったとしながら、自殺することまでの予見可能性、予見義務があったと認めることはできないとしました。

被災者側としては、裁判所にこのような判断をされるのは、非常に嫌です。

本件裁判例は、自殺までの予見可能性をいとも簡単に否定しました。

判決理由を読んでいても、なんだかよくわかりません・・・。

自殺事案における予見可能性の対象については、判断が分かれるところです。

厳密な予見可能性を要求すれば、多くの自殺事案における加害者の責任が否定されてしまうことになります。

なお、交通事故事案の最高裁判決や電通事件最高裁判決は、特定の精神障害や自殺を具体的に予見できたかどうかを検討することなく、加害者の損害賠償責任を認めています。

解雇34(Y学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Y学園事件(大阪地裁平成22年5月14日・労判1015号70頁)

【事案の概要】

Y社は、高校及び短大を経営している学校法人である。

Xは、Y社が経営する私立高校の教諭で、書道部の顧問をしていた。

Xは、書道部合宿の経費に関し、PTAから施設費名目の金員を詐取したとして、Y社から懲戒免職(解雇)処分をされた。

Xは、本件懲戒免職は、無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

本件懲戒免職は、無効。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が設置した懲戒委員会に不備があり、また、同委員会においてXに弁明の機会が与えられなかった点をもって、本件各懲戒処分が違法であると主張する。
確かに、本件就業規則は、懲戒委員会に関して別途定められる旨の規定があるにもかかわらず、Y社には同規定が存在しないこと、Xは同委員会に出席しておらず、同委員会において弁明の機会はなかったことが認められる。しかし、Xに対する本件懲戒処分に当たっては、Y社理事長の命により懲戒委員会が設置され、Y社高校校長らの調査結果(Xに対する事情聴取の結果を含む。)等について協議がなされたこと、Y社は、本件懲戒処分に先だって、Xに対する事情聴取を行っていることが認められる。これらの点からすると、Y社には懲戒委員会に関する規定の不備があり、Xが同委員会に出席して弁明の機会がなかったものの、短時間であるとはいえ、Xの言い分を聞く事情聴取がなされていることにかんがみれば、本件懲戒処分が手続的瑕疵により無効であるとまではいえない。

2 ・・・以上の点を総合的に勘案すると、本件における施設費の申請に係るXの行為は、懲戒処分に値する不適切な行為であるといわざるを得ない
しかし、(1)書道部は、実際に合宿において大広間を使用して作品製作を行っていたこと、(2)Xが、他の教諭らに対し、PTAからの施設費受給について個別具体的に指示したり、積極的にだまし取ろうという意図があったとまでは認められないこと、(3)Xが同費用を個人的に利得していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ書道部の活動状況、生徒会予算、部費の額、Xが立替払いや自己負担をしていた状況等にかんがみれば、PTAからの施設費は、書道部の活動資金に使用されていたと推認できること、(4)Y社では、平成19年度まで合宿費用等に関する領収書の提出を求めていないなど、PTAからの施設費等も含めたクラブ活動費用に関して会計処理等が適正に行われているか否かをチェックする体制になく、また、クラブ活動費が不足しているか否か等についての実態調査を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もないこと、(5)Xに対する本件懲戒解雇処分に当たって参考とされたバレー部の顧問に関する事例については、必ずしもその全容が明らかであるとはいえないものの、本件におけるXの行為に比して、悪質な事案であることがうかがわれること、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すると、Xが生徒の範を示すべき立場にあることを考慮してもなお、Xに対して、懲戒処分において最も重い免職(解雇)処分とすることについては、社会通念上相当であるとは認め難い。したがって、Xに対する本件懲戒解雇処分は懲戒権ないし解雇権を濫用するものとして無効といわざるを得ない。

3 一般的に、賞与は、労働者の権利であるとまで解し難く、支給の有無や支給の額は、Y社の裁量的判断に委ねられていると解される。
もっとも、業績等に関係なく、賞与の支給日や支給額が明確に定まっている場合には、賞与請求に関する具体的な権利が成立していると解するのが相当である。
 

金銭に関する不正行為については、裁判所は、懲戒解雇等の厳しい懲戒処分を相当と判断することが多いです。

しかし、本件裁判例では、懲戒解雇が相当性を欠くとして無効となりました。

この種の事案では、毎回コメントしていますが、現場で、懲戒処分の有効性は判断することは極めて困難です。

それでもなお、会社としては、重い処分をしなければならない場合があります。

これは、もうやむを得ないことだと思います。

また、上記判例のポイント3の賞与請求に関する判断は、会社、従業員ともに参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間18(阪急トラベルサポート事件(派遣添乗員・第3)事件

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件(東京地裁平成22年9月29日・労判1015号5頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xらを雇用した。

Xらは、A社が作成した行程表に従って業務を遂行するとともに、実際の旅程結果について添乗員日報を作成して報告するように指示されていた。また、携帯電話が貸与されており、随時電源を入れておくように指示されていた。

Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されていた。

Xは、Y社に対し、(1)派遣添乗員には、労働基準法38条の2が定める事業場外労働のみなし制の適用はなく、法定労働時間を超える部分に対する割増賃金が支払われるべきである、(2)7日間連続して働いた場合には、最後の1日は休日出勤したものとして休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると主張し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情(当該業務の内容・性質、使用者の具体的な指揮命令の程度、労働者の裁量の程度等)において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである
なお、本件通達は、社会通念上「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かを検討する際の行政指針であって、本件通達除外事例は「労働時間を算定し難い」ときに該当しない主な具体例を挙げたものと解すべきである。

2 Xらが従事している添乗業務については、本件派遣先が、行程表(アイテンリー又は指示書)を作成し、添乗員に対して行程表に沿った旅程管理業務を行うように指示していることが認められるものの、各種交通機関(飛行機、鉄道、バス等)を利用して相当長距離にわたる移動を行い、複数のツアー参加者に帯同して、ツアー参加者を適宜誘導等しながら、旅程を管理するという添乗業務の性質上、その労働時間を個別具体的に認定することには、相当程度の困難が伴うものといわざるを得ない

3 (使用者が労働時間を把握することの難易は、重要な考慮要素になるとはいえ、)、「労働時間を算定し難いとき」という文言からしても、労働時間を把握することの可否(客観的可能性)自体によって本件みなし制度の適用の有無を判断することは相当ではない。そして、通信機器を利用するなどして、添乗員の動静を24時間把握することは客観的には可能であるとはいえ、前述したような添乗業務の内容・性質にかんがみると、このような労働時間管理は煩瑣であり、現実的ではない方法であるといわざるを得ない。
なお、本件派遣先は、緊急時の対応等に備えて、携帯電話の所持を指示しているのであり、添乗員の業務内容を逐一指示し、具体的な業務内容を指揮監督するために所持させているものとは認められず、本件通達除外事例に該当しないことは明らかである。

4 Y社とXらとの間において、みなし労働時間が合意されたものとは認められないから、本件においては、Xらによる添乗業務の「遂行に通常必要とされる時間」を検討する必要がある。
この点、裁判所によるみなし労働時間の検討は、本件みなし制度が適用されるものの、労働基準法38条の2第2項但書に定める労使協定が存在しないなどの事情により、みなし労働時間の算定に争いが生じた場合において、訴訟に顕われた一切の資料を総合考慮して、裁判所が、業務の「遂行に通常必要とされる時間」を相当と考える方法によって、判定(評価)する作業であると考えられる

5 同法は、個別具体的な事情を捨象した上でみなし労働時間を判定することを予定しているものと解される。そうすると、労働者の個性や業務遂行の現実的経過に起因して、実際の労働時間に差異が生じ得るとしても、(実労働時間の把握が困難である以上、)基本的には、個別具体的な事情は捨象し、いわば平均的な業務内容及び労働者を前提として、その遂行に通常必要とされる時間を算定し、これをみなし労働時間とすることを予定しているものと解される

6 ただし、・・・同法は、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。すなわち、労働時間を把握することが困難であるとして、本件みなし制度が適用される以上、現実の労働時間との差異自体を問題とすることは相当ではないが、他方において、本件みなし制度は、当該業務から通常想定される労働時間が、現実の労働時間に近似するという前提に立った上で便宜上の算定方法を許容したものであるから、みなし労働時間の判定に当たっては、現実の労働時間と大きく乖離しないように留意する必要があるというべきである

事業場外みなし労働時間制の適用の難しさがよくわかります。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件と比較すると事実認定の勉強になります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

賃金11(SFコーポレーション事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。

SFコーポレーション事件(東京地裁平成21年3月27日・労判985号94頁)

【事案の概要】

Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、未払いの時間外・深夜労働割増賃金手当等の請求をした。

Xには、毎月約32~82時間前後の時間外労働があった。

Xには、管理手当が支給されていた。

Y社給与規定には、「管理手当は、月単位の固定的な時間外手当(給与規程16条による時間外労働割増賃金および深夜労働割増賃金)の内払いとして各人ごとに決定する」「給与規定16条に基づく計算金額と管理手当の間で差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができる」との規定がある。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、管理手当は外勤・内勤にかかわらず一律支給されているなどとし、管理手当は割増賃金の性質をもたず、違法であると主張する。
しかしながら、X主張の事実を斟酌しても、管理手当が残業代の内払たる性格を否定することはできないのであって、給与規定の記載等に照らせば、Xの前記主張は採用することができない

2 給与規定17条2項は、計算上算定される残業代と管理手当との間で差額が発生した場合には、不足分についてはこれを支給するとしつつ、超過分についてはY社がこれを次月以降に繰り越すことができるとしているのであり、別紙「割増賃金計算表」記載のとおり、未払の時間外・深夜労働割増賃金は存しないものと認められる。

会社としては、大変参考になる裁判例です。

書店で売っている就業規則関連の本には、ほとんど掲載されており、既に取り入れている会社も多いと思いますが、念のため。

まず、残業代の内払いとする場合には、基本給と明確に区別できるような形で規定しましょう。

次に、超過分は、次月以降に繰り越すことができるという規定を入れておきましょう。

当然のことながら、不足分が出た場合には、きちんと残業手当を支払いましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

有期労働契約17(安川電機八幡工場事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

安川電機八幡工場事件(福岡地裁小倉支部平成16年5月11日・労判879号71頁)

【事案の概要】

Y社は、電気機械器具・装置及びシステムの製造並びに販売を主な事業目的とする会社である。

Xは、Y社に雇用期間を3か月と定めて雇用され、約14年間にわたりその契約を期間満了後ごとに更新していた。

Y社は、Xに対し整理解雇をするため、解雇を予告するした上で、雇用期間途中に整理解雇を行った(本件雇止め)。

Xは、整理解雇は、要件を満たさず無効であるとして争った。

なお、Y社は、本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていると主張を追加した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

雇止めとしても無効

Xの精神的苦痛に対する慰謝料として50万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 有期労働契約の雇用期間内における解雇は、やむを得ない事由がある場合に限り許される(民法628条)。そして、本件においては、Y社の生産量に対し余剰となっているパート労働者の人員削減の必要性は存すると認めるものの、本件整理解雇の対象となったパート労働者は31名であり、残りの雇用期間は約2か月、Xらの平均給与が月額12~14万円あまりであること、本件整理解雇によって削減される労務関係費はY社の事業経費のわずかな部分であって、Y社の企業活動に客観的に重大な支障を及ぼすものとはいえず本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認められない。

2 本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていたものと解するのが相当である。

3 Xの雇用期間が約14年にわたり半ば自動的に更新してきたこと、Y社においてXらスタッフは、所得金額に上限を設ける必要がなく、正社員以上の残業が可能で、X・Y社ともに雇用継続を当然のことと認識して長期間にわたり更新を繰り返してきたこと等から、X・Y社間の雇用関係は、実質的には期間の定めのない労働契約が締結されたと同視できるような状態になっていたものと認められ、本件雇止めにも解雇法理が類推適用される。

4 もっとも、パート労働者の雇用契約は、景気変動等による生産量の増減に応じて製造ラインの要員を調整するという目的のもとに、短期的有期契約を前提として簡易な採用手続で締結されるものである以上、本件雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員の場合とはおのずから合理的な差異があるということはできる

5 本件整理解雇と本件雇止めは、無効であるとともに、違法というべきであるから、不法行為を構成するものである。そして、Xは、平成8年ころ離婚し、本件整理解雇当時56歳で、24歳の長女と2人で暮らし、日中はY社で就労した後、夜間は焼鳥屋で働いていたことのおか、Y社がXを解雇した経緯その他本件に現れた諸事情を斟酌すると、Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円が相当である。 

会社とすれば、通常、期間雇用やパートタイマーの従業員は、整理解雇が簡単にできると考えてしまうと思います。

しかし、本件裁判例同様、裁判所は、そんなに簡単に整理解雇を認めてくれません。

特に、長年にわたり、正社員と同様の仕事をしてきた従業員の場合、実質を重視され、厳しく判断されます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

解雇33(ヤマト運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日・労経速1985号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営んでいる会社である。

Xは、Y社に雇用され、セールドライバーとして勤務していた。

Xは、業務終了後、帰宅途上で飲酒し、自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙された。この時、交通事故は起こしていない。

Xは、この事実を、Y社に直ちに報告をしなかった。

Xは、この件で罰金20万円に処せられ、運転免許停止30日の行政処分を受けた(講習受講により1日に短縮)。

Y社の就業規則では、業務内、業務外を問わず、飲酒運転及び酒気帯び運転をしたときには(懲戒)解雇する旨規定されている。

Y社は、Xを懲戒解雇とし、退職金を支給しなかった。

Xは、解雇は無効であるとし、退職金不支給も不当であるとして争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

退職金については、3分の1を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 従業員の職場外でされた行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものであれば、規制の対象となり得ることは明らかであるし、また、企業は社会において活動する上で、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれが強いので、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、職場外でされたものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあるといえる。

2 これを本件についてみるに、Y社が大手の貨物自動車運送事業者であり、XがY社のセールスドライバーであったことからすれば、Y社は、交通事故の防止に努力し、事故につながりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にあるといえる。したがって、このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちにY社の社会的評価の低下に結びつき、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあり、これは事故を発生させたり報道された場合、行為の反復継続等の場合に限らないといえる。このようなY社の立場からすれば、所属のドライバーにつき、業務の内外を問うことなく、飲酒・酒気帯び運転に対して、懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むというY社の就業規則の規定は、Y社が社会において率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定され得るものということができる
そうすると、Xの上記違反行為をもって懲戒解雇とすることも、やむを得ないものとして適法とされるというべきである。

3 退職金は、賃金の後払いとしての性格を有し、企業が諸々の必要性から一方的、恣意的に退職金請求権を剥奪したりすることはできない。このような見地からは、退職金不支給とする定めは、退職する従業員に長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限り、退職金が支給されないとする趣旨と解すべきであり、その限度において適法というべきである。

4 これを本件についてみると、Xは、大手運送業者のY社に長年にわたり勤続するセールスドライバーでありながら、業務終了後の飲酒により自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙されたこと、この行為は、一審の口頭弁論終結時ほどは飲酒運転に対する社会の目が厳しくなかったとはいえ、なお社会から厳しい評価を受けるものであったこと、Xは処分をおそれて検挙の事実を直ちにY社に報告しなかったこと、その挙げ句、検挙の4カ月半後、運転記録証明の取得によりXの酒気帯び運転事実が発覚したことなどからすると、その情状はよいとはいえず、懲戒解雇はやむを得ないというべきである。
しかしながら他方、Xは他に懲戒処分を受けた経歴はうかがわれないこと、この時も酒気帯び運転の罪で罰金刑を受けたのみで、事故は起こしていないこと、反省文等から反省の様子も見て取れないわけではないことなどを考慮すると、Xの行為は、長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由とまではいえないというべきである。
したがって、就業規則の規定にかかわらず、Xは退職金請求権の一部を失わないと解される。

本件も、懲戒解雇を有効としながら、退職金全額の不支給は認められませんでした。

結果として、退職金の3分の1を支払うよう命じました。

会社としては、難しいところですね。

就業規則には、懲戒解雇となった場合、退職金は支給しない旨が規定されている以上、規定に従った処理をするのが自然です。

就業規則の規定を「退職金を支給しないことがある」とし、一定程度の退職金を支給するのか、それとも裁判上等!という姿勢で臨むのか、会社の姿勢が問われるところですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇32(小田急電鉄事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日の引き続き、私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇及び退職金不支給は、無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

退職金については3割の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、留置場でのY社の担当者との面接の際、未だ申告していない痴漢行為も自ら話すなどし、その際の会社の内容などからみても、自由に弁明ができないような状況であったとは認めがたい。

2 痴漢行為が条例違反で起訴された場合には、その法定刑だけをみれば、必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども、被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるということはできない。
まして、Xは、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止および降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいという始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。

3 賃金の後払的要素の強い退職金について、全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為であることが必要であることに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である。もっとも、退職金が功労報償的な性格を有すること、支給の可否について会社に一定の合理的な裁量の余地があることから、強度の背信性を有するとまではいえない場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、一定割合を支給すべきである。

4 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

本件では、懲戒解雇は有効となりましたが、退職金については不支給とはせず、3割の支給を命じました。

この裁判例をみると、よほどのことがない限り、私生活上の非行を理由に懲戒解雇をする場合でも、退職金の不支給とすることは許されないような気がしてきます。

会社としては、このような従業員に対し、退職金を1円たりとも支払いたくないと考えるのが普通でしょう。

第1審(東京地裁平成14年11月15日・労判844号38頁)は、懲戒解雇を有効とした上で、退職金の不支給も有効と判断しました。

このあたりは、判断が非常に難しいところです。

やはり多くの裁判例を検討し、判断するしかないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇31(横浜ゴム事件)

おはようございます。

さて、今日は、私生活上の非行と解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日・判タ252号163号)

【事案の概要】

Xは、Y社の作業員である。

Xは、他人の居宅の風呂場の扉を押し開け、屋内に忍び込んだところ、家人に見つかり、逃走したが、まもなく私人に捕まり、警察に引き渡された。

これにより、Xは、住居侵入罪で罰金2500円に処せられた。

Y社は、この犯行をもって、従業員賞罰規則に定める懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。

これに対し、Xは、雇用関係存在確認の訴えを提起した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xの本件犯行は、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない

2 しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなどを勘案すれば、Xの行為がY社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。

本件では、住居侵入罪で有罪となった従業員に対する懲戒解雇が無効となった事案です。

みなさんは、この判断をどう思いますか?

「当たり前だ」と思う方、「そんなのおかしいだろ」と思う方、どちらの方が多いですかね。

本件と同様に、従業員の私生活上の非行、つまり、業務外での不祥事を理由に、懲戒解雇できるかが争われた裁判例はたくさんあります。

もっとも、本件のような類型の争いだからといって、特別な解釈が必要となってくるわけではありません。

通常の解雇事案と同じように、比較考量論による解雇権濫用法理の論点に帰着します。

そのため、毎度のことですが、ケースバイケースで判断するしかありません。

どれだけ慎重に処分をしても、争われるときには争われます。

とはいえ、過去の裁判例を参考にし、慎重に判断することをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。