解雇36(京都市(北部クリーンセンター)事件)

おはようございます。

さて、今日は、セクハラ行為等を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(北部クリーンセンター)事件(大阪高裁平成22年8月26日・労判1016号18頁)

【事案の概要】

Y市は、Y市職員として京都市北部クリーンセンター関連施設プール管理運営協会事務局の事務所長の職にあったXを、以下の事実により懲戒免職処分とした。

(1)部下に対するセクハラ行為(性的関係を求める言動)、(2)タクシーチケット(7590円)の私的流用、(3)業者との独断契約、物品(自動販売機やスイミング用品)販売の手数料の簿外処理等

これに対し、Xは、本件処分は理由がなく、仮に懲戒事由があったとしても懲戒免職処分は重すぎる処分であり、比例原則に反し許されないと主張して、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 セクハラ行為については、行為の相手方、Xのした性的関心に基づく発言や性的交渉を求める発言の内容が具体的に特定されておらず、時期についても3年以上の期間が示されているだけで十分な特定がされていない点で問題がある
とりわけ、本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実を具体的に告げ、これに対する弁明の機会を与えることが必要であると解されるが、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、これに対する防御の機会が与えられたことにならないから、これを処分理由とすることは許されないというべきである
したがって、仮に、Xが、・・・本件調査報告書に記載されたような発言をした事実があったとしても、これを処分理由とするのは手続的に著しく相当性を欠くというべきである。

2 また、本件調査報告書は、Y市の行財政局人事課課長補佐であったEが、Xからセクハラ発言を受けたという者から直接事情を聞き、職場の同僚等の供述によりこれが裏付けられたとして、Xのセクハラ発言を認定したものであるが、対立当事者による反対尋問を経ていない供述の信用性判断は慎重に行うべきものであり、また、本件調査報告書は、上記事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、上記Eら調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、Xがした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要があるというべきである。本件調査報告書のほか上記Eの供述によっても、Xが、J以外の臨時職員に対しても、日常的に性的な内容を含む発言をしていたという程度の心証を抱かせることはできるが、それが懲戒事由としてのセクハラ発言として、具体的に特定して認定し得るだけの証拠はないといわざるを得ない

3 協会のタクシーチケットは、Y市の公金・公物ではなく、その業務外目的での使用はY市の懲戒指針の「公金又は公物の横領」等に該当せず、また物品手数料の簿外管理は上司も黙認していたこと、手数料収入は主に職員の福利厚生や来訪客接待経費に充てるなど全くの個人的費消とはいえないことから、いずれも、より軽い処分が想定されている「公金公物処理不適正」に該当するとして、Xに対する懲戒免職処分が平等取扱原則に照らして重きに失し、裁量を逸脱している。

第1審(京都地裁)では、懲戒免職処分はY市の裁量の逸脱には当たらないとして、有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、弁明の機会を与えていないことは、手続的に著しく相当性を欠くとして、懲戒免職処分を取り消しました。

X側は、控訴審において、一般に懲戒免職処分の有効要件とされている罪刑法定主義、平等取扱い原則、相当性の原則、弁明機会の付与等の適正手続についての判断部分を、厳格に解したわけです。

セクハラは、性質上、なかなか特定が困難ですが、防御の機会を与えるという意味では、ある程度の特定を要求されるのは、やむを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。