賃金15(学校法人大阪経済法律学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、労働協約が絡んだ賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大阪経済法律学園事件(大阪地裁平成20年11月20日・労判981号124頁)

【事案の概要】

Y社は、昭和46年2月に設立された学校法人で、本件大学を設置している。

Xらは、Y社の期間の定めのない職員で、本件大学において、事務職(教務および図書館)に就いていた。Xらの加入する組合の組織率は3~4割程度であった。

Y社の給与規程においては、「教職員の職務に対する報酬としての俸給は、国家公務員の一般職の職員の給与に関する法律(給与法)に定められた俸給表に準拠して支給する」との定めがあったが、実際には、ある時期から給与法に定められた俸給表に準拠しなくなっていた。そして、昭和55年2月17日の労働協約締結以来、Y社と組合との間で、給与規程の職務等級を前提として、毎年、給与体系表を作成し、同表を含む合意書による合意をしてきた。

Y社は、経営環境の厳しさから、平成16年度春闘に際し、平成16年6月、人件費削減を理由に専任職員の一部につき定期昇給ストップを提案し、同年8月、人件費抑制・削減が重大な課題であるとして、教員定年年齢規程の改定、一部職員の定期昇給の停止等について提案した。

Xらは、04年度協約の締結以降、新たな協約が締結されていない以上、同協約の内容が、その後の平成17年度以降のY社とXらを含む職員の間の給与を規律する規範として効力を有しているなどと主張した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社とXら所属の労働組合との間で締結された04年度の労働協約が、翌年度以降のY社とXらを含む職員との間のベースアップ率、定期昇給にかかる規律までも予定していたものと認めることはできず、また、04年度協約の給与体系表を含む定期昇給に関する内容部分のみを抽出して規範的効力を持たせること(補充規範として機能させること)は当事者の予測ないし当事者の意思解釈の範囲を逸脱するものであって相当でなく、04年度協約は翌年度以降、失効したものとされた。

2 Y社就業規則の定期昇給に関する定めは長年にわたり適用されず形骸化しているから、当該規程部分は平成17年度(05年度)以降におけるY社とXらを含む職員との間の定期昇給について規律する規範としての効力を喪失しており、したがって、当該就業規則は、04年度協約失効後の補充規範としての合理的規範とはなりえない。

3 04年度協約に含まれる給与体系表は、Y社において就業規則であれば当然されるべき行政官庁(所轄の労働基準監督署)への届出(労基法89条)は予定されていなかったところ、当該給与体系表と認めることはできない。

4 04年度協約で定められたものと同内容の労働契約が成立したとは認められず、またその内容が擬制されることもない。

5 失効した04年度協約の内容に沿った労使慣行の成立が否定された。

本件裁判例は、定期昇給を認めてきた労働協約が失効した後の労働条件が争われた事案です。

労働協約の規範的効力について、判例は一般に、当該労働協約内容は労働契約内容にはならないと解しています(外部規律説)。

本件裁判例もこれを踏襲しています。

外部規律説からは、協約失効後は協約で定められた労働条件部分が空白となるため、補充規範をどこに求めるかという点が問題となります。

問題意識としては、継続的な労働関係の維持のために、この空白を一時的に補充する必要があるのではないか、という点があげられます。

本件では、従来の労働協約やY社就業規則に、補充規範としての機能を持たせることを否定しました。

このあたりの議論は、学説上も争いがあるところです。

ポイントは、学説か見解により、一律に結論が決まる問題ではないということです。事案を考慮した上で、当事者の合理的意思解釈をする必要があります。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。