労働時間19(日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、F生命保険相互会社の契約調査業務の代行会社として設立された沿革を有し、生命保険制度の健全な運営を実現するために生命保険会社が行う契約選択業務に係る確認業務を受託している会社である。

Xらは、Y社の「業務職員」としてこようされ、自宅を本拠地として、生命保険の死亡保険金や各種給付金等の支払いに際し、告知の有無、事故の状況、障害の状態、入院加療の内容等を確認する業務などに従事している。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で担当案件の確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等を訪問し、事実関係の確認を実施し、その結果を確認報告書にまとめて、報告期間内に本社ないし支社に郵送またはメールで送付する態様で業務に従事していた。

業務職員の所定労働時間等は、平日は、始業午前9時、終業午後5時、労働時間7時間、休憩1時間、土曜が特別休日、日曜が休日とされ、日常の確認業務については、事業場外労働のみなし労働時間制が採用されていた。

Xらは、就業規則上は、業務上特に必要があり、所属長が指示をした場合には、休日を就業日とし、他の日を休日とすることがあるとされ、その振替休日は就業日当日から4週間以内に本人が請求した日に取ることとされていたが、業務量から振替休日を十分に取れる状況になかったり、振替休日にY社から電話連絡があるなどしていた。

平成18年1月、Y社は、労働基準監督官からの是正勧告(休日の就業に関して、時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払い)を受け、業務職員に対し過去2年分の休日労働の割増賃金の清算をすることとした。

Xらは、Y社に対し、自宅と確認先との間の移動時間についても労働時間として取り扱われるべきである、休日労働については実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきであると主張して、休日労働手当、付加金の支払いを求めた。

なお、本件争点は、(1)自宅と確認先間の移動時間の取扱い、(2)報告書作成時間の算定方法、である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらの業務執行の態様は、契約形態が雇用であるから従属労働であるとはいえ(実際、同じ業務を担当しているが、業務委託契約の職員もいる。)Y社の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、雇用契約においては、使用者は労働者の労働時間を管理する義務を有するのが原則であるが、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することは不可能であり、むしろ管理することになじみにくいといえる。

2 Y社就業規則において、Xらの労働日は、平日においては、みなし労働時間制が採られており、就業時間は7時間(休憩時間は1時間で随時取る。)であるところ、「日常の確認活動については、通常の労働時間就業したものとみなす」とされている。Xらの業務執行の態様からすれば、このみなし労働時間制は、その業務執行の態様に本質的に適っているということができる。

3 業務執行の態様の下では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っているということもできる。しかしながら、休日は本来労働することを予定していない日であるため、「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということにすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない。かえって、休日労働のみは実労働時間によらねばならないということになれば、経験則上、休日労働の方が作業効率が低下するのが通常であるのに、使用者はその労働に対して、高い割増賃金を支払わねばならず、経験原則にも相反することになりかねない。

4 Y社の業務職員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下になく、労働者の裁量の下にその自宅等で行われているのであるから、休日における報告書作成時間等も、使用者において管理しているものではなく、作成に要した実時間を使用者において知ることができるものではない。業務職員もY社に報告していないし、また実際にもY社が把握してはいない。したがって、一定の算定方法に基づき、報告書作成時間等を算定することにも合理性が存するといえる。

5 休日労働における報告書作成時間の算定に関する社内的な取決めについては、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられているというべきであり、司法審査に当たっては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かの点に限って審査すべきである。

6 移動時間のうち、確認場所間の移動については労働時間として扱うことに当事者間に異論はない。問題は、自宅と確認先との間の移動時間、すなわち自宅を出発して最初の確認先に至る間の移動時間である。
Xらの自宅は就業場所でもあり休息の場所でもあり、Xらの自宅から確認先への移動については通勤と解するのが相当である。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。