おはようございます。
さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。
日本通運株式会社事件(大阪地裁平成22年2月15日・判時2097号98頁)
【事案の概要】
Y社は、貨物運送事業、航空運送代理店業、旅行業その他の事業を営む会社である。
Xは、Y社において旅行関連業務に従事していた。
Xは、うつ病に罹患し自殺した。
Xの妻は、Y社に対し、Xがうつ病に罹患し、自殺したのは、Y社の安全配慮義務違反又は不法行為によるものであると主張し、損害賠償請求をした。
【裁判所の判断】
Xの損害として、300万円(慰謝料)を認容した。
【判例のポイント】
1 Xは、高校卒業後、Y社に入社し、旅行部門で添乗業務に従事した後、子会社へ出向し、関西、成田の空港事業所等で勤務していた者であるが、高校一年生のときに受けた虫垂炎手術後、血清肝炎を発症し、軽快したものの完治はしていなかったところ、Y社に入社後の健康診断で血清肝炎を指摘され、Y社の健康指導員の指導を受けるようになり、C型慢性肝炎の治療として内服、静脈注射を受け、その間にインターフェロン治療を提案されたがこれに応じなかった。
平成16年4月、Xは、Yの支店に異動となったが、その頃インターフェロン治療を受けることを決め、上司らに申告したところ、衛生管理担当の次長から転勤直後に入院治療を受けることを非難するような発言をされた。
同年5月、Xは、入院しインターフェロンの投与を開始し、副作用等による一時中断があったものの、同年7月に退院し、以後通院による治療を受けることとなった。
そこで、Xは、復職のため次長らと面談したが、その際に、次長から「治療に専念した方がよいのではないか。自分から身を引いたらどうか」等退職を示唆する発言がされ、Xに相当の精神的衝撃を与え不安症状を強めた。
2 これはXの精神面を含む健康管理上の安全配慮義務に違反するものであり、この行為によりXのそのころ発症した不安、抑うつ状態を持続、長期化させ、うつ病の発症に相当程度寄与したものであることから、本件うつ病の発症との間に相当因果関係が認められる。
3 しかし、当時のXの病態、症状等を最大限に考慮しても、Y社において、Xが自殺することについてまで具体的な予見可能性や予見義務があったとは認められないことから、Xの自殺との間に相当因果関係は認められない。
この裁判例は、Xがうつ状態等の精神症状を発症させる危険性があることについての予見可能性、予見義務があったとしながら、自殺することまでの予見可能性、予見義務があったと認めることはできないとしました。
被災者側としては、裁判所にこのような判断をされるのは、非常に嫌です。
本件裁判例は、自殺までの予見可能性をいとも簡単に否定しました。
判決理由を読んでいても、なんだかよくわかりません・・・。
自殺事案における予見可能性の対象については、判断が分かれるところです。
厳密な予見可能性を要求すれば、多くの自殺事案における加害者の責任が否定されてしまうことになります。
なお、交通事故事案の最高裁判決や電通事件最高裁判決は、特定の精神障害や自殺を具体的に予見できたかどうかを検討することなく、加害者の損害賠償責任を認めています。