解雇34(Y学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Y学園事件(大阪地裁平成22年5月14日・労判1015号70頁)

【事案の概要】

Y社は、高校及び短大を経営している学校法人である。

Xは、Y社が経営する私立高校の教諭で、書道部の顧問をしていた。

Xは、書道部合宿の経費に関し、PTAから施設費名目の金員を詐取したとして、Y社から懲戒免職(解雇)処分をされた。

Xは、本件懲戒免職は、無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

本件懲戒免職は、無効。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が設置した懲戒委員会に不備があり、また、同委員会においてXに弁明の機会が与えられなかった点をもって、本件各懲戒処分が違法であると主張する。
確かに、本件就業規則は、懲戒委員会に関して別途定められる旨の規定があるにもかかわらず、Y社には同規定が存在しないこと、Xは同委員会に出席しておらず、同委員会において弁明の機会はなかったことが認められる。しかし、Xに対する本件懲戒処分に当たっては、Y社理事長の命により懲戒委員会が設置され、Y社高校校長らの調査結果(Xに対する事情聴取の結果を含む。)等について協議がなされたこと、Y社は、本件懲戒処分に先だって、Xに対する事情聴取を行っていることが認められる。これらの点からすると、Y社には懲戒委員会に関する規定の不備があり、Xが同委員会に出席して弁明の機会がなかったものの、短時間であるとはいえ、Xの言い分を聞く事情聴取がなされていることにかんがみれば、本件懲戒処分が手続的瑕疵により無効であるとまではいえない。

2 ・・・以上の点を総合的に勘案すると、本件における施設費の申請に係るXの行為は、懲戒処分に値する不適切な行為であるといわざるを得ない
しかし、(1)書道部は、実際に合宿において大広間を使用して作品製作を行っていたこと、(2)Xが、他の教諭らに対し、PTAからの施設費受給について個別具体的に指示したり、積極的にだまし取ろうという意図があったとまでは認められないこと、(3)Xが同費用を個人的に利得していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ書道部の活動状況、生徒会予算、部費の額、Xが立替払いや自己負担をしていた状況等にかんがみれば、PTAからの施設費は、書道部の活動資金に使用されていたと推認できること、(4)Y社では、平成19年度まで合宿費用等に関する領収書の提出を求めていないなど、PTAからの施設費等も含めたクラブ活動費用に関して会計処理等が適正に行われているか否かをチェックする体制になく、また、クラブ活動費が不足しているか否か等についての実態調査を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もないこと、(5)Xに対する本件懲戒解雇処分に当たって参考とされたバレー部の顧問に関する事例については、必ずしもその全容が明らかであるとはいえないものの、本件におけるXの行為に比して、悪質な事案であることがうかがわれること、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すると、Xが生徒の範を示すべき立場にあることを考慮してもなお、Xに対して、懲戒処分において最も重い免職(解雇)処分とすることについては、社会通念上相当であるとは認め難い。したがって、Xに対する本件懲戒解雇処分は懲戒権ないし解雇権を濫用するものとして無効といわざるを得ない。

3 一般的に、賞与は、労働者の権利であるとまで解し難く、支給の有無や支給の額は、Y社の裁量的判断に委ねられていると解される。
もっとも、業績等に関係なく、賞与の支給日や支給額が明確に定まっている場合には、賞与請求に関する具体的な権利が成立していると解するのが相当である。
 

金銭に関する不正行為については、裁判所は、懲戒解雇等の厳しい懲戒処分を相当と判断することが多いです。

しかし、本件裁判例では、懲戒解雇が相当性を欠くとして無効となりました。

この種の事案では、毎回コメントしていますが、現場で、懲戒処分の有効性は判断することは極めて困難です。

それでもなお、会社としては、重い処分をしなければならない場合があります。

これは、もうやむを得ないことだと思います。

また、上記判例のポイント3の賞与請求に関する判断は、会社、従業員ともに参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。