労働時間18(阪急トラベルサポート事件(派遣添乗員・第3)事件

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件(東京地裁平成22年9月29日・労判1015号5頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xらを雇用した。

Xらは、A社が作成した行程表に従って業務を遂行するとともに、実際の旅程結果について添乗員日報を作成して報告するように指示されていた。また、携帯電話が貸与されており、随時電源を入れておくように指示されていた。

Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されていた。

Xは、Y社に対し、(1)派遣添乗員には、労働基準法38条の2が定める事業場外労働のみなし制の適用はなく、法定労働時間を超える部分に対する割増賃金が支払われるべきである、(2)7日間連続して働いた場合には、最後の1日は休日出勤したものとして休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると主張し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情(当該業務の内容・性質、使用者の具体的な指揮命令の程度、労働者の裁量の程度等)において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである
なお、本件通達は、社会通念上「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かを検討する際の行政指針であって、本件通達除外事例は「労働時間を算定し難い」ときに該当しない主な具体例を挙げたものと解すべきである。

2 Xらが従事している添乗業務については、本件派遣先が、行程表(アイテンリー又は指示書)を作成し、添乗員に対して行程表に沿った旅程管理業務を行うように指示していることが認められるものの、各種交通機関(飛行機、鉄道、バス等)を利用して相当長距離にわたる移動を行い、複数のツアー参加者に帯同して、ツアー参加者を適宜誘導等しながら、旅程を管理するという添乗業務の性質上、その労働時間を個別具体的に認定することには、相当程度の困難が伴うものといわざるを得ない

3 (使用者が労働時間を把握することの難易は、重要な考慮要素になるとはいえ、)、「労働時間を算定し難いとき」という文言からしても、労働時間を把握することの可否(客観的可能性)自体によって本件みなし制度の適用の有無を判断することは相当ではない。そして、通信機器を利用するなどして、添乗員の動静を24時間把握することは客観的には可能であるとはいえ、前述したような添乗業務の内容・性質にかんがみると、このような労働時間管理は煩瑣であり、現実的ではない方法であるといわざるを得ない。
なお、本件派遣先は、緊急時の対応等に備えて、携帯電話の所持を指示しているのであり、添乗員の業務内容を逐一指示し、具体的な業務内容を指揮監督するために所持させているものとは認められず、本件通達除外事例に該当しないことは明らかである。

4 Y社とXらとの間において、みなし労働時間が合意されたものとは認められないから、本件においては、Xらによる添乗業務の「遂行に通常必要とされる時間」を検討する必要がある。
この点、裁判所によるみなし労働時間の検討は、本件みなし制度が適用されるものの、労働基準法38条の2第2項但書に定める労使協定が存在しないなどの事情により、みなし労働時間の算定に争いが生じた場合において、訴訟に顕われた一切の資料を総合考慮して、裁判所が、業務の「遂行に通常必要とされる時間」を相当と考える方法によって、判定(評価)する作業であると考えられる

5 同法は、個別具体的な事情を捨象した上でみなし労働時間を判定することを予定しているものと解される。そうすると、労働者の個性や業務遂行の現実的経過に起因して、実際の労働時間に差異が生じ得るとしても、(実労働時間の把握が困難である以上、)基本的には、個別具体的な事情は捨象し、いわば平均的な業務内容及び労働者を前提として、その遂行に通常必要とされる時間を算定し、これをみなし労働時間とすることを予定しているものと解される

6 ただし、・・・同法は、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。すなわち、労働時間を把握することが困難であるとして、本件みなし制度が適用される以上、現実の労働時間との差異自体を問題とすることは相当ではないが、他方において、本件みなし制度は、当該業務から通常想定される労働時間が、現実の労働時間に近似するという前提に立った上で便宜上の算定方法を許容したものであるから、みなし労働時間の判定に当たっては、現実の労働時間と大きく乖離しないように留意する必要があるというべきである

事業場外みなし労働時間制の適用の難しさがよくわかります。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件と比較すると事実認定の勉強になります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。