おはようございます。
さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。
安川電機八幡工場事件(福岡地裁小倉支部平成16年5月11日・労判879号71頁)
【事案の概要】
Y社は、電気機械器具・装置及びシステムの製造並びに販売を主な事業目的とする会社である。
Xは、Y社に雇用期間を3か月と定めて雇用され、約14年間にわたりその契約を期間満了後ごとに更新していた。
Y社は、Xに対し整理解雇をするため、解雇を予告するした上で、雇用期間途中に整理解雇を行った(本件雇止め)。
Xは、整理解雇は、要件を満たさず無効であるとして争った。
なお、Y社は、本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていると主張を追加した。
【裁判所の判断】
整理解雇は無効
雇止めとしても無効
Xの精神的苦痛に対する慰謝料として50万円の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 有期労働契約の雇用期間内における解雇は、やむを得ない事由がある場合に限り許される(民法628条)。そして、本件においては、Y社の生産量に対し余剰となっているパート労働者の人員削減の必要性は存すると認めるものの、本件整理解雇の対象となったパート労働者は31名であり、残りの雇用期間は約2か月、Xらの平均給与が月額12~14万円あまりであること、本件整理解雇によって削減される労務関係費はY社の事業経費のわずかな部分であって、Y社の企業活動に客観的に重大な支障を及ぼすものとはいえず本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認められない。
2 本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていたものと解するのが相当である。
3 Xの雇用期間が約14年にわたり半ば自動的に更新してきたこと、Y社においてXらスタッフは、所得金額に上限を設ける必要がなく、正社員以上の残業が可能で、X・Y社ともに雇用継続を当然のことと認識して長期間にわたり更新を繰り返してきたこと等から、X・Y社間の雇用関係は、実質的には期間の定めのない労働契約が締結されたと同視できるような状態になっていたものと認められ、本件雇止めにも解雇法理が類推適用される。
4 もっとも、パート労働者の雇用契約は、景気変動等による生産量の増減に応じて製造ラインの要員を調整するという目的のもとに、短期的有期契約を前提として簡易な採用手続で締結されるものである以上、本件雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員の場合とはおのずから合理的な差異があるということはできる。
5 本件整理解雇と本件雇止めは、無効であるとともに、違法というべきであるから、不法行為を構成するものである。そして、Xは、平成8年ころ離婚し、本件整理解雇当時56歳で、24歳の長女と2人で暮らし、日中はY社で就労した後、夜間は焼鳥屋で働いていたことのおか、Y社がXを解雇した経緯その他本件に現れた諸事情を斟酌すると、Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円が相当である。
会社とすれば、通常、期間雇用やパートタイマーの従業員は、整理解雇が簡単にできると考えてしまうと思います。
しかし、本件裁判例同様、裁判所は、そんなに簡単に整理解雇を認めてくれません。
特に、長年にわたり、正社員と同様の仕事をしてきた従業員の場合、実質を重視され、厳しく判断されます。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。