Daily Archives: 2011年2月9日

解雇32(小田急電鉄事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日の引き続き、私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇及び退職金不支給は、無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

退職金については3割の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、留置場でのY社の担当者との面接の際、未だ申告していない痴漢行為も自ら話すなどし、その際の会社の内容などからみても、自由に弁明ができないような状況であったとは認めがたい。

2 痴漢行為が条例違反で起訴された場合には、その法定刑だけをみれば、必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども、被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるということはできない。
まして、Xは、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止および降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいという始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。

3 賃金の後払的要素の強い退職金について、全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為であることが必要であることに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である。もっとも、退職金が功労報償的な性格を有すること、支給の可否について会社に一定の合理的な裁量の余地があることから、強度の背信性を有するとまではいえない場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、一定割合を支給すべきである。

4 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

本件では、懲戒解雇は有効となりましたが、退職金については不支給とはせず、3割の支給を命じました。

この裁判例をみると、よほどのことがない限り、私生活上の非行を理由に懲戒解雇をする場合でも、退職金の不支給とすることは許されないような気がしてきます。

会社としては、このような従業員に対し、退職金を1円たりとも支払いたくないと考えるのが普通でしょう。

第1審(東京地裁平成14年11月15日・労判844号38頁)は、懲戒解雇を有効とした上で、退職金の不支給も有効と判断しました。

このあたりは、判断が非常に難しいところです。

やはり多くの裁判例を検討し、判断するしかないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。