おはようございます。
さて、今日は、私生活上の非行と解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。
横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日・判タ252号163号)
【事案の概要】
Xは、Y社の作業員である。
Xは、他人の居宅の風呂場の扉を押し開け、屋内に忍び込んだところ、家人に見つかり、逃走したが、まもなく私人に捕まり、警察に引き渡された。
これにより、Xは、住居侵入罪で罰金2500円に処せられた。
Y社は、この犯行をもって、従業員賞罰規則に定める懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。
これに対し、Xは、雇用関係存在確認の訴えを提起した。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は無効
【判例のポイント】
1 Xの本件犯行は、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。
2 しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなどを勘案すれば、Xの行為がY社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。
本件では、住居侵入罪で有罪となった従業員に対する懲戒解雇が無効となった事案です。
みなさんは、この判断をどう思いますか?
「当たり前だ」と思う方、「そんなのおかしいだろ」と思う方、どちらの方が多いですかね。
本件と同様に、従業員の私生活上の非行、つまり、業務外での不祥事を理由に、懲戒解雇できるかが争われた裁判例はたくさんあります。
もっとも、本件のような類型の争いだからといって、特別な解釈が必要となってくるわけではありません。
通常の解雇事案と同じように、比較考量論による解雇権濫用法理の論点に帰着します。
そのため、毎度のことですが、ケースバイケースで判断するしかありません。
どれだけ慎重に処分をしても、争われるときには争われます。
とはいえ、過去の裁判例を参考にし、慎重に判断することをおすすめします。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。