Daily Archives: 2011年2月7日

賃金10(社会福祉法人賛育会事件)

おはようございます。

さて、今日は、賃金制度の変更に伴う賃金減額に関する裁判例です。

社会福祉法人賛育会事件(東京高裁平成22年10月19日・労判1014号5頁)

【事案の概要】

Y社は、各種社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人である。

Xは、介護職としてY社が経営する病院に勤務していた。

Y社は、職員の担当する職務遂行能力や成績の考課を通して、職員の能力開発・育成を促進し、昇進・昇格・異動配置・賃金・賞与等の処遇を公平妥当に行うための考課システムを作成するとともに、職能資格制度を導入した。

さらに、Y社は、賃金制度の変更についても検討し、新人事制度導入等に伴う就業規則等の見直し等を検討するため、職員就業規則等研究委員会を全6回開催し、その後、就業規則や賃金規程等を改正した。

Xは、主位的に、本件賃金規程等の変更は無効であるとして、変更前の賃金規程等に基づいて得られるべき賃金とすでに支給された賃金との差額等の支払いを求めるとともに、予備的に、Y社が上記差額を是正しないまま放置していることが公序良俗に反する不法行為に該当すると主張して、損害賠償等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

差額の賃金の支払いを命じた。

損害賠償請求は棄却。

【判例のポイント】

1 本件就業規則等の変更は、賃金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼすものである。

2 そして、賃金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきであり、この合理性の有無は、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである

3 本件就業規則等変更、人件費削減を目的とするものではないにもかかわらず、Xを含め従業員の賃金減額をもたらし、代償措置もその不利益を解消するに十分なものとはいえないのであって、新賃金制度の導入目的に照らして賃金減額をもたらす内容への変更に合理性を見出すことは困難であり、そのような基本的な労働条件を変更するには、特に十分な説明と検証が必要であるといえるが、Xを含め従業員ないし労組に対する説明は十分にされたとはいえず、新賃金制度の内容にも問題点があり、導入に当たり内容の検証が十分にされたとはいいがたく、従業員への説明や内容の検証を上記の程度にとどめてまで新賃金制度を導入しなければならないほどの緊急の必要性があったとも認められない。

4 賃金規程の変更に同意しないXに対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、Xにその効力を及ぼさず、Xは、新賃金制度による給与額が旧賃金制度における支給されたであろう額を下回る場合には、その差額の賃金を請求することができる。

本件は、年功序列型から従業員の能力や成果をより強く反映させる賃金制度への変更に関する就業規則の不利益変更が問題となった事案です。

一般論として、前記判例のポイント2のとおり、みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日・労判787号6頁)を引用し、個々の要素を検討しています。

結果的に、本件賃金制度の変更に合理性は認められませんでした。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金9(ハクスイテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、年功序列型から能力・成果主義型への変更に関する裁判例を見てみましょう。

ハクスイテック事件(大阪高裁平成13年8月30日・労判816号23頁)

【事案の概要】

Y社は、化学製品製造・販売とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、Y社の研究所に勤務していた。

Xは、年功序列型体系から能力・成果主義型賃金体系への変更を目指した給与規定の変更につき、新たに導入された給与規定の無効確認を求めた。

【裁判所の判例】

年功序列型から能力・成果主義型への給与規定変更は、合理性を有する。

【判例のポイント】

1 Y社が給与の低下分について調整給や1~10年間分の減額分補償措置を設けていることに加え、B評価以上になれば賃金が減額することはなく、最低のFランクに位置づけられても月額賃金は38万5000円を下らない。

2 Y社の経営状態がいわゆる赤字経営となっている時代には、賃金の増額を期待することはできないというべきであるし、普通以下の仕事ができない者についても、高額の賃金を補償することはむしろ公平を害するものであり、合理性がない

3 現に8割程度の従業員は新給与規定で賃金が増額しているのであって不利益は小さい。

4 近時我が国の企業についても、国際的な競争力が要求される時代となっており、一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められていたといえる。そして、Y社においては、営業部門のほか、Xの所属する研究部門においてもインセンティブ(成果還元)の制度を導入したが、これを支えるためにも、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入する必要があったもので、これらのことからすると、Y社には、賃金制度改定の高度の必要性があったということができる。

本件裁判例の請求は、「就業規則無効確認」です。

このような請求のしかたもあるんですね。

本件は、上記判例のポイント3が大きいですね。

会社側としては、一般論も、大変参考になりますね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。