Daily Archives: 2011年2月5日

賃金7(片山組事件)

こんにちは。

さて、今日は、私傷病と労務受領拒否に関する最高裁判例を見てみましょう。

片山組事件(最高裁平成10年4月9日・労判736号15頁)

【事案の概要】

Y社は、土木建築会社である。

Xは、Y社の従業員として、建築工事現場における現場監督業務に従事していた。

Xは、バセドウ病と診断され、通院治療しながら、業務に従事していた。

Xは、バセドウ病に罹患していることを理由に現場監督業務のうち現場作業はできない旨を申し出て、現場の管理者はこの要望を容れてXを現場事務所における事務作業に従事させた。

その後、提出された主治医の診断書とXの病状説明・要望書をもとに、Y社は産業医に相談するまでもなく自宅治療が妥当であるとの結論に達し、Xに対し、当分の間、自宅で治療に専念する旨を命じた。

本件自宅治療命令は、Y社がXの病状は現場作業も可能な状態であると判断して現場勤務命令を発するまでの間続いた。

この間、Xは就労の意思を表明するために工事現場に赴くものの、Y社はXの就労を拒否し、本件自宅治療期間中欠勤扱いとして月例賃金を支給せず、冬季一時金を減額支給した。

これに対し、Xは、本件自宅治療命令は無効であるとして、同期間中の月例賃金と一時金減額分の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

破棄差戻し→賃金請求を認めた(差戻審・東京高裁平成11年4月27日・労判759号15頁)

【判例のポイント】

1 労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。

2 そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲を同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。

3 Xは、Y社に雇用されて以来21年以上にわたり建築工事現場における現場監督業務に従事してきたものであるが、労働契約上その職種や業務内容が現場監督業務に限定されていたとは認定されておらず、また、本件自宅治療命令を受けた当時、事務作業に係る労務の提供は可能であり、かつ、その提供を申し出ていたというべきである
そうすると、右事実から直ちにXが債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできず、Xが配置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討すべきである。

この分野の裁判所の判断は、本件最高裁判例をベースとしています。

本件判例の判断枠組みに従って、差戻審判決は、労働契約上Xの職種や業務内容の限定はなく、Y社には事務作業業務にXを配置する現実的可能性があり、Y社の業務全体の中でXを配置できる部署の有無を検討して配置可能な業務をXに提供する必要があるとして、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Xの労務提供は債務の本旨に従ったものであると判定し、Y社の受領拒否による労務提供不能であるとして、Xの賃金請求権を認容しました(民法536条2項)。

これまで、私傷病と解雇との関係を多く検討してきましたが、本件判例のように、賃金請求という形でも争いとなるわけです。

やはり、会社としては、このあたりの判断は、顧問弁護士や顧問社労士と相談しながら行ったほうが無難ですね。