Monthly Archives: 2月 2011

解雇37(スカンジナビア航空事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知に関する裁判例を見てみましょう。

スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7年4月13日・労判675号13頁)

【事案の概要】

Y社は、スウェーデンに本店をおく会社であり、他の外国2社とともに航空会社A社を運営していた。

Xらは、A社の日本支社となっていたY社の従業員、業務内容および勤務地を特定した雇用契約を締結していた。

A社の航空部門の収益が悪化したため、日本において年功序列賃金体系をとっていたY社は、賃金制度の変更に着手した。

Y社は、平成6年6月、地上職およびエア・ホステスの日本人従業員全員に対し、早期退職募集と再雇用の提案を行い、割増退職金の支給を提示した。再雇用の内容は、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更、(4)契約期間(1年)の設定および(5)有給休暇は労働基準法の定めに従った日数に削減する、というものであった。

同募集の応募期限である同年7月末までに、115名が早期退職に応じたものの、残り25名は、早期退職に応じず、従前の労働条件で雇い続けるよう労働組合を通じて回答する一方、仮処分を申し立てた。

これに対し、Y社は、募集に応じなかった25名を、同年9月末付けで解雇するとした。

Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等を求めた。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xらに対する解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

2 YとXらとの間の雇用契約においては、職務および勤務場所が特定されていたため、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点についてXらの同意を得ることが必要であった。

3 しかし、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。

4 全面的な人員整理・組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なものであった。本件合理化案を実現するために必要となる、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更については、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給に12(月)を乗じることにより得られる金額を必ずしもすべてが下回るものではないし、Xらが新労働条件での雇用契約を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として規定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ考えると、業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

5 労働条件の変更をともなう再雇用契約の申入れは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は右変更によって右各債権者が受ける不利益を上回っているものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによる解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、再雇用の申入れをしなかった各債権者を解雇することはやむを得ないものであり、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇36(京都市(北部クリーンセンター)事件)

おはようございます。

さて、今日は、セクハラ行為等を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(北部クリーンセンター)事件(大阪高裁平成22年8月26日・労判1016号18頁)

【事案の概要】

Y市は、Y市職員として京都市北部クリーンセンター関連施設プール管理運営協会事務局の事務所長の職にあったXを、以下の事実により懲戒免職処分とした。

(1)部下に対するセクハラ行為(性的関係を求める言動)、(2)タクシーチケット(7590円)の私的流用、(3)業者との独断契約、物品(自動販売機やスイミング用品)販売の手数料の簿外処理等

これに対し、Xは、本件処分は理由がなく、仮に懲戒事由があったとしても懲戒免職処分は重すぎる処分であり、比例原則に反し許されないと主張して、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 セクハラ行為については、行為の相手方、Xのした性的関心に基づく発言や性的交渉を求める発言の内容が具体的に特定されておらず、時期についても3年以上の期間が示されているだけで十分な特定がされていない点で問題がある
とりわけ、本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実を具体的に告げ、これに対する弁明の機会を与えることが必要であると解されるが、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、これに対する防御の機会が与えられたことにならないから、これを処分理由とすることは許されないというべきである
したがって、仮に、Xが、・・・本件調査報告書に記載されたような発言をした事実があったとしても、これを処分理由とするのは手続的に著しく相当性を欠くというべきである。

2 また、本件調査報告書は、Y市の行財政局人事課課長補佐であったEが、Xからセクハラ発言を受けたという者から直接事情を聞き、職場の同僚等の供述によりこれが裏付けられたとして、Xのセクハラ発言を認定したものであるが、対立当事者による反対尋問を経ていない供述の信用性判断は慎重に行うべきものであり、また、本件調査報告書は、上記事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、上記Eら調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、Xがした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要があるというべきである。本件調査報告書のほか上記Eの供述によっても、Xが、J以外の臨時職員に対しても、日常的に性的な内容を含む発言をしていたという程度の心証を抱かせることはできるが、それが懲戒事由としてのセクハラ発言として、具体的に特定して認定し得るだけの証拠はないといわざるを得ない

3 協会のタクシーチケットは、Y市の公金・公物ではなく、その業務外目的での使用はY市の懲戒指針の「公金又は公物の横領」等に該当せず、また物品手数料の簿外管理は上司も黙認していたこと、手数料収入は主に職員の福利厚生や来訪客接待経費に充てるなど全くの個人的費消とはいえないことから、いずれも、より軽い処分が想定されている「公金公物処理不適正」に該当するとして、Xに対する懲戒免職処分が平等取扱原則に照らして重きに失し、裁量を逸脱している。

第1審(京都地裁)では、懲戒免職処分はY市の裁量の逸脱には当たらないとして、有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、弁明の機会を与えていないことは、手続的に著しく相当性を欠くとして、懲戒免職処分を取り消しました。

X側は、控訴審において、一般に懲戒免職処分の有効要件とされている罪刑法定主義、平等取扱い原則、相当性の原則、弁明機会の付与等の適正手続についての判断部分を、厳格に解したわけです。

セクハラは、性質上、なかなか特定が困難ですが、防御の機会を与えるという意味では、ある程度の特定を要求されるのは、やむを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇35(ダイフク事件)

おはようございます。

さて、今日は、工事代金の架空請求等による詐欺と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ダイフク事件(東京地裁平成22年11月9日・労判1016号84頁)

【事案の概要】

Y社は、諸機械、器具および電気機械、器具の製造販売等を目的とする会社である。

X1は、Y社の国内工場の現場担当者であり、X2は、Y社の従業員であった。

X1が行った行為は以下のとおりである。

(1)現場担当者の立場を利用して、数年にわたり取引先業者数社に対し、架空請求および水増し請求を指示したうえ、取引先業者へ多額の金銭等の利益供与要求を行い、受領した。

(2)国内の工場現場で勤務または滋賀の自宅へ帰宅したと虚偽の申請を行い、取引業者の仲間と業務とは何ら関連のないタイ国へ旅行した。

(3)据付工事現場での宿泊場所として、取引先負担でウィークリーマンションを手配させたうえで宿泊したにもかかわらず、会社へ宿泊費の請求をした。

Y社は、X1を上記事実を理由として懲戒解雇した。

X2が行った行為は以下のとおりである。

(1)不明な金銭200万円を元従業員のX1からX2名義の郵便局口座に振込の方法により受け取ったにもかかわらず、弁護士の調査に対し、振込を受けた事実はない旨、虚偽の事実を述べた。

(2)自宅テレビのレシートを元従業員のX1に提供するなど、不正にX1が利得を得る相談に応じた。

(3)無関係のY社の製造番号を使用し、事務用品や湯茶を購入した。

Y社は、X2を上記事実を理由として解雇した。

X1及びX2は、本件(懲戒)解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

X1に対する懲戒解雇は有効

X2に対する解雇も有効

【判例のポイント】

1 X1の一連の行為は、いずれも刑事上の犯罪を構成するか、それに匹敵するものであり、就業規則の懲戒解雇事由に該当することが明らかである。そして、本件懲戒解雇を無効というべき証拠はないから、X1の請求は、いずれも理由がない。

2 本件解雇の根拠規定(パートタイマー就業規則)が提出されていないが、X2の行為は、社会通念上、解雇事由に該当するものと考えられる。そして、本件解雇を無効というべき証拠はないから、X2の請求は、いずれも理由がない。

このような従業員の業務上の非違行為、犯罪行為には、厳しい態度で臨む必要があります。

これをなあなあにしてしまうと、他の従業員に悪影響を与えます。

また、本件では、Y社が、X1の不正請求による損害を下請業者らへ賠償したため、X1に求償金の請求を反訴でしました。

こちらは、当然、認められました。

会社としては、取引先との信用問題をできるだけ回避するために、迅速かつ適切に対応しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

賃金15(学校法人大阪経済法律学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、労働協約が絡んだ賃金減額に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大阪経済法律学園事件(大阪地裁平成20年11月20日・労判981号124頁)

【事案の概要】

Y社は、昭和46年2月に設立された学校法人で、本件大学を設置している。

Xらは、Y社の期間の定めのない職員で、本件大学において、事務職(教務および図書館)に就いていた。Xらの加入する組合の組織率は3~4割程度であった。

Y社の給与規程においては、「教職員の職務に対する報酬としての俸給は、国家公務員の一般職の職員の給与に関する法律(給与法)に定められた俸給表に準拠して支給する」との定めがあったが、実際には、ある時期から給与法に定められた俸給表に準拠しなくなっていた。そして、昭和55年2月17日の労働協約締結以来、Y社と組合との間で、給与規程の職務等級を前提として、毎年、給与体系表を作成し、同表を含む合意書による合意をしてきた。

Y社は、経営環境の厳しさから、平成16年度春闘に際し、平成16年6月、人件費削減を理由に専任職員の一部につき定期昇給ストップを提案し、同年8月、人件費抑制・削減が重大な課題であるとして、教員定年年齢規程の改定、一部職員の定期昇給の停止等について提案した。

Xらは、04年度協約の締結以降、新たな協約が締結されていない以上、同協約の内容が、その後の平成17年度以降のY社とXらを含む職員の間の給与を規律する規範として効力を有しているなどと主張した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社とXら所属の労働組合との間で締結された04年度の労働協約が、翌年度以降のY社とXらを含む職員との間のベースアップ率、定期昇給にかかる規律までも予定していたものと認めることはできず、また、04年度協約の給与体系表を含む定期昇給に関する内容部分のみを抽出して規範的効力を持たせること(補充規範として機能させること)は当事者の予測ないし当事者の意思解釈の範囲を逸脱するものであって相当でなく、04年度協約は翌年度以降、失効したものとされた。

2 Y社就業規則の定期昇給に関する定めは長年にわたり適用されず形骸化しているから、当該規程部分は平成17年度(05年度)以降におけるY社とXらを含む職員との間の定期昇給について規律する規範としての効力を喪失しており、したがって、当該就業規則は、04年度協約失効後の補充規範としての合理的規範とはなりえない。

3 04年度協約に含まれる給与体系表は、Y社において就業規則であれば当然されるべき行政官庁(所轄の労働基準監督署)への届出(労基法89条)は予定されていなかったところ、当該給与体系表と認めることはできない。

4 04年度協約で定められたものと同内容の労働契約が成立したとは認められず、またその内容が擬制されることもない。

5 失効した04年度協約の内容に沿った労使慣行の成立が否定された。

本件裁判例は、定期昇給を認めてきた労働協約が失効した後の労働条件が争われた事案です。

労働協約の規範的効力について、判例は一般に、当該労働協約内容は労働契約内容にはならないと解しています(外部規律説)。

本件裁判例もこれを踏襲しています。

外部規律説からは、協約失効後は協約で定められた労働条件部分が空白となるため、補充規範をどこに求めるかという点が問題となります。

問題意識としては、継続的な労働関係の維持のために、この空白を一時的に補充する必要があるのではないか、という点があげられます。

本件では、従来の労働協約やY社就業規則に、補充規範としての機能を持たせることを否定しました。

このあたりの議論は、学説上も争いがあるところです。

ポイントは、学説か見解により、一律に結論が決まる問題ではないということです。事案を考慮した上で、当事者の合理的意思解釈をする必要があります。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

派遣労働1(テー・ピー・エスサービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、人材派遣会社の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

テー・ピー・エスサービス事件(名古屋地裁平成20年7月16日・労判965号85頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ-運営の業務代行請負及びデータ作成の代行と請負、労働者派遣事業等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、A社の工場で勤務していた。

Y社は、Xに適する業務が確保できず、その見通しも暗いとの理由で、自宅休業とし、その後は雇用契約を終了せざるを得ないとして、Xを解雇した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約217万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが相当長期間にわたり本件業務に従事することは、その当初から予定されていたこと、Xの仕事ぶりは真面目で、これにつき苦情があったり、Xに対し注意や指導がされたことはなかったこと、Xが本件業務に引き続き従事することは、Y社の希望する契約形態であれば可能であったこと、しかるに、Y社は、XがY社の希望する契約形態によることを拒否し、愛知労働局に行政指導を申し入れた直後に、何ら交渉を持たないままXに対し本件業務の打ち切りを通告したこと、また、同労働局から本件指導を受けた直後、同労働局に対し、Xを常用雇用者として翌日以降も雇用を継続することで是正した旨報告しながら、Xに対しては、待機期間中の賃金は6割支給とするとし、また、解雇予告手当を支払うので退職するように促したこと、Xに適する業務が確保できないとして、自宅休業とした後は雇用契約を終了させる旨通告したこと、以上の事実が認められる。

2 このような事実からすると、Y社は、Xが本件組合とともに、偽装請負を解消し、適法な労働者派遣を行うよう要求し、愛知労働局にその旨の行政指導を求めたことを嫌悪して、Xに対し、本件業務から排除するだけでなく、Y社からも排除するべく解雇という不利益な処分を行ったものと推認することができる。

3 本件解雇は、違法な目的に基づいて(労働基準法104条2項及び労働組合法7条1号にも違反する。)、故意に、本来解雇する理由のないXに解雇という不利益を与えたものであるから、Xに対する不法行為となる。

4 本件業務は、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣法の規制を免れようとするいわゆる偽装請負である点でも、また、Xに対する指揮命令をする者とXを雇用するY社との間に多数の業者が介在する違法な多重派遣の形態である点でも違法であること、本件解雇は、このような違法状態を改善するため、法律上の権利として保護された労働組合活動や監督機関への申告を行った者を企業から排除するという強度の反社会的な行為であること、X自身が本件解雇につき法的決着をつけた上で働きたいという個人的な意向を有していたことによる面があるもの、Xは、本件解雇後、平成20年4月当時まで抵触に就いていないこと、その他、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件解雇によりXが被った精神的苦痛を慰謝するには200万円が相当である。

5 常用型の派遣労働者の場合、使用者は、派遣先の業務が打ち切られても雇用を継続する義務があり、特に、本件のY社は、本件業務の受注形態が違法なものであることを知りながら、Xをこれに従事させたのであるから、その違法な状態を正さなければならなくなった場合を想定してXの雇用確保の措置を講じておくべきである。そして、本件業務は突然打ち切られたわけではなく、4か月余も前からその違法性を指摘され、是正を求められていたのであるから、雇用確保の措置を講じる余裕は充分にあったというべきである。したがって、Y社が本件業務にかかる契約を継続できなかった結果としてXを休業させざるを得なかったとはいえず、Y社の受領拒絶により労務提供ができなかったに過ぎない。
よって、その余の点を判断するまでもなく、Xの賃金請求は理由がある。

上記判例のポイント4は注意が必要です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

賃金14(ノイズ研究所事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き賃金制度改定による賃金・賞与減額に関する裁判例を見てみましょう。

ノイズ研究所事件(東京高裁平成18年6月22日判決・労判920号5頁)

【事案の概要】

Y社は、電子機器の電源雑音を検査する測定器の製作及び販売、コンピュータ利用施設の電磁波の影響調査、測定及びその施設の電磁波防護対策事業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社は、就業規則の性質を有する給与規程等の変更を行い、これによりY社の賃金制度はいわゆる職能資格制度に基づき職能給を支給する年功序列型の従前の賃金制度から、職務の等級の格付けを行ってこれに基づき職務給を支給することとし、人事評価次第で昇格も降格もあり得ることとする成果主義に立つ新たな賃金制度に変更された。

その結果、Xは新賃金制度の下において職務等級を降格され賃金を減額されたが、本件給与規程等の変更は無効であり、Xはこれに拘束されない等と主張した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件給与規程等の変更前は就業規則等のうちに従業員に対する制裁規定以外に降格、減給について定めている規定はなかったのであるが、本件給与規程等の変更により、職能給が廃止されて職務給とされ、各職務が分類、格付けされてこれに基づいて各従業員に職務給が支給されるに至ったのであるから、本件給与規程等の変更が合理性がないなどの理由により無効である場合は別として、Xが従事していた職務の格付けに基づいて職務給が決定されたことをもって就業規則に違反するということはできず、就業規則の従業員に対する制裁規定をもって、職務給制度を導入することを禁止する趣旨の規定であるともいいがたい。

2 労使間では、新賃金制度導入および新等級格付けに関する協議において、調整手当の支給高額対象者の調整手当金額相当分を基本給に上乗せするために、その金額に見合う職位に格付けを行うとの案をめぐって対立し、合意に至らなかったのであるから、上記の案の実施についても頓挫したものというほかはなく、結局労使間では、本件給与規程等の変更についての合意が成立しなかった経過に照らすと、Y社がXら組合員との団体交渉を正当な理由なく拒否して本件給与規程等の変更を強行したということはできないし、労働協約の「賃金、労働時間、休暇などの労働条件の改変については、組合との団体交渉によって協議のうえ実施する。」との記載に違反するということもできない。

3 本件給与規程等の変更による本件賃金制度の変更は、旧賃金制度の下で支給されていた賃金額より賃金額が顕著に減少することとなる可能性がある点において不利益性があるが、Y社は、主力商品の競争が激化した経営状況の中で、従業員の労働生産性を高めて競争力を強化する高度の必要性があったのであり、新賃金制度は、従業員に対して支給する賃金原資の配分の仕方をより合理的なものに改めようとするものであって、どの従業員にも自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格し、昇給することができるという平等な機会を保障しており、人事評価制度についても最低限度必要とされる程度の合理性を肯定し得るものであることからすれば、上記の必要性に見合ったものとして相当であり、Y社があらかじめ従業員に変更内容の概要を通知して周知に努め、一部の従業員の所属する労働組合との団体交渉を通じて、労使間の合意により円滑に賃金制度の変更を行おうと努めていたという労使の交渉の経緯や、それなりの緩和措置としての意義を有する経過措置が採られたことなど諸事情を総合考慮するならば、上記のとおり不利益性があり、現実に採られた経過措置が2年間に限って賃金減額分の一部を補てんするにとどまるものであっていささか性急で柔軟性に欠ける嫌いがないとはいえない点を考慮しても、なお、上記の不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるといわざるを得ない。

4 新賃金制度下においてY社が行う人事評価は、事柄の性質上使用者であるY社の裁量判断に委ねられているものであるということができるから、Y社が行った人事評価は、これが法令に違反したものであり、またはこれに裁量権の逸脱、濫用があったといえない限り、違法の問題を来さない。

上記判例のポイント3は参考になりますね。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金13(滋賀ウチダ事件)

おはようございます。

さて、今日は、成果主義への変更に関する裁判例について見てみましょう。

滋賀ウチダ事件(大津地裁平成18年10月13日・労判923号89頁)

【事案の概要】

Y社は、事務用教育用機械器具、用具の販売等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Y社は、平成14年~平成15年においては、売上げが減少し、約3500万円の赤字が発生した。そこで、Y社では、本件賃金規定の改定を行い、給与体系を変更し、能力給を引き上げる一方、効果係数の変更をするなどした。

また、Y社は、過度に不利益が及ばないように、3年連続で基本給の減額はしない、当該社員が受けた最高の基本給額を基準として、減額の累計がその1割を超える金額とならないこととする制限を設けている。

本件改定は、Y社の合同朝礼において説明され、減額の対象となった社員には個別に説明がされた。しかし、Xは納得しなかった。

Xは、Y社が行った賃金規定の改定は、不利益変更であり、効力が生じないと主張して、改定後の賃金と従前の賃金との差額を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件改定は、・・・Xにおいては、平成14年と15年は考課係数が同じであるのに、1万1700円の減額、翌平成16年は7200円の減額となっている点は、急激な不利益が生じたとみられる。
しかし、企業において大幅な赤字を計上するときに給与規定を改定して対応せざるを得ないのはやむを得ないことと考えられ、本件改定後も減額されたのは数名にとどまっていることからすれば、本件改定が給与を減額する目的のものとはいえず、本件改定は実質的には昇給の抑制に重点があり、さらに昇給を抑制した結果、成果主義を導入して、考課の結果をより直接に昇給に反映させて意欲を刺激しようとしたものとみられるのであって、その目的は不当なものではなく、減額の幅が大きいことも不利益の限度が過度にわたらないように前記のような一定の制限があること及び実際の運用からみて、本件改定それ自体を不合理なものとは評価できない。

2 減額となる対象者が少なく、減額の対象となると減額の幅が大きいことから、不利益を受けたXは、Y社の意に添わない同人を給与減額の対象とするため本件改定がされたと主張する。しかし、減額対象者が少ない前記の考課の結果からみて本件改定後も一定の減額対象者を必ず生じさせなければならないものではなく、Y社の考課方法自体が不当なものということはできないから、Xが実際上相当の不利益を受けることとなっても、それをもって本件改定自体を不合理なものと評価できないし、Y社のXに対する特定の意図、目的を認めるに足りる証拠はない。

3 したがって、本件改定は有効なものであり、Xはその適用を拒むことはできない。そして、他に本件改定後の給与規定の適用を障害する事情は窺えないから、Xの基本給等の差額の請求は理由がないことになる。

本件では、成果主義への変更を有効と判断しています。

上記判例のポイント2は、総論としての考え方として参考になります。

急激な賃金の低下が起こる場合に、いかなる措置を講じておくかと、裁判所が有効と判断しやすいか、という視点も大切です。

詳しくは、顧問弁護士や顧問社労士に相談してみてください。

労災42(三洋電機東京食品設備事件)

おはようございます。

今日は打合せが入っていません。

一日、書面作成といろいろな準備をします

今日もGさんに手伝ってもらいます。

Gさん、いつもありがとうございます

ちょっと疲れ気味ですが、へこたれません!!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

三洋電機東京食品設備事件(横浜地裁平成21年2月26日・労判983号39頁)

【事案の概要】

Y社は、三洋電機等が製造・販売した業務用食品設備機器、厨房機器の技術的な保守・点検サービス等を業とする会社である。

Xは、Y社において、担当エリア内の顧客先を訪問するなどして製品の修理業務等を行うサブカスタマエンジニア(サブコン)として勤務していた。

Xの勤務形態は、1日の修理予定が存在しているものの当日の変更が常態化しており、また、Y社の24時間修理体制の下、勤務日については24時間待機とされ、月1、2回程度、緊急の修理要請に応じて深夜・早朝修理に赴くことを余儀なくされていた。さらにXは、1週間に1回程度と頻度は低いものの、夏季の30度前後の環境の中、零度前後の冷凍倉庫内において修理業務を行うこともあった。

Xは、自宅において、高血圧性脳出血を発症し、重度の右片麻痺と失語症を発症して休業した(発症当時55歳)。

Xは、本件疾病を発症して休業したことについて、労災保険法に基づく休業補償給付を請求したところ、相模原労働基準監督署長から不支給決定を受けたため、その取消しを求めた。

本件争点は、本件疾病の業務起因性であるが、その中でも、Xの実労働時間および時間外労働時間の推計が特に争われた。

【裁判所の判断】

相模原労基署長による休業補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 脳血管疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因(基礎的要因)により、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然の経過をたどり発症するものである。
しかし、業務による過重な負荷が加わることにより、発症の基礎となる血管病変等をその自然の経過を超えて著しく増悪させ、脳血管疾患を発症させる場合があるとされる。

2 業務の過重性の判断に当たっては、発症前6か月間における就業態様について、労働時間、勤務の不規則性、拘束時間の長さ、出張の多さ、交代制勤務や深夜勤務の有無・程度、作業環境(温度環境、騒音、時差)、精神的緊張を伴う業務か否かなどの諸要素を考慮して、総合的に評価することが相当である

3 Xの労働時間について、Y社は、Xの出退勤時間を管理しておらず、Xの出退勤時間を明らかにする客観的証拠はないことから、Xの労働時間については、客観的に明らかとなっている個々の作業時間から推計せざるを得ない。そして、かかる推計に当たっては、本件推計時間表、Xの各作業の件数、サブコンの各作業1件当たりに要する時間等をもとに、事務作業、修理および移動、連絡、ミーティング、部品購入といった個々の作業に要する時間を集計するという方法によりXの実労働時間を推計し、実際のXの時間外労働時間は発症前6か月間平均で1か月当たり約108時間であると認めるのが相当である。

4 上記のような恒常的な長時間労働は、その労働密度や休日数の少なさを併せ考慮すると、Xに対し、強度の身体的・精神的負荷を与え、著しく疲労の蓄積をもたらすものであったと言わざるを得ず、また、Y社の24時間の修理体制の下、Xの勤務の不規則性は、相当程度のものであったというべきであり、さらに、夏季の冷凍倉庫内における修理業務がXの脳疾患を誘発ないし増悪させた可能性も否定できない
そして、Xは、上記のような恒常的な長時間労働等に従事する中で、体調不良を訴えるようになり、本件疾病発症日前日まで20日間に及ぶ連続勤務に従事した後、本件疾病を発症したこと等を総合考慮すると、Xの業務は、客観的にみて、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務であったというべきである。

本件裁判例は、会社が、労働時間について適切な管理を怠っていた場合について、とても参考になる判断をしています。

被災者側は、客観的に明らかとなっている個々の作業時間から推計するという方法は、強く主張していくべきです。

会社側の「実労働時間が不明である」との主張が通ってしまうのであれば、しっかり労働時間を管理している会社が馬鹿を見ることになり、不当です。

推計作業は、とても骨の折れる作業ですが、ここで努力を惜しんでいけません。

裁判所に「必ず労災と認めてもらう!!」という熱意を示しましょう。

決してあきらめてはいけません!!

労働者性2(加西市シルバー人材センター事件)

おはようございます。

今日は、労災保険上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

加西市シルバー人材センター事件(神戸地裁平成22年9月17日・労判1015号34頁)

【事案の概要】

Y社は、物流機器製造事業(運搬用ゲージなどの製造)等を業とする会社である。

Xは、Y社に工員として勤務していたが、定年退職後に、A社に登録してY社で仕事をしていた。

Xは、工場で作業中に左手の親指から中指の3指を切断する傷害を負ったことが労働者の負傷に該当するとして、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付の申請をしたところ、西脇労働基準監督署長は、Xが労災保険法上の労働者に該当せず、同法の適用がないことを理由として、不支給とする処分をしたため、その取消しを求めた。

【裁判所の判断】

Xの労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法にい労働者は、労基法に定める労働者と同義であり、同法9条は、労働者とは「職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定めているから、労働者に該当するか否かについては、使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者からその労務の対償としての報酬が支払われている者として、使用従属関係にあるといえるかを基準として判断すべきであると解される。

2 そして、労務の提供が他人の指揮監督下において行われているかどうかに関しては、具体的には、業務従事の指示等に対する諾否の事由の有無や、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所及び勤務時間が指定され管理されているかどうか、労務提供につき代替性の有無等の事情を総合的に考慮して判断されるべきものといえる。

3 しかし、労働者性の判断は、個々の具体的な事情に基づき、労務提供の実態について実質的に検討して行うべきものであるから、本件で、形式的には、XとY社及びA社間に雇用契約が存在せず、Y社がA社にした注文につき、XがA社との間の請負又は準委任契約に基づいて仕事を行うことになっているとしても、このことのみから、Xの労働者性が否定されるものではない

4 Xは、A社に登録後も、Y社の加工部門において、定年退職前と全く同様の労務に従事して、他の従業員と同じく、専らY社で就労していた状況であったということができ、Xに対する報酬も、実質的には労働の対価として支払われたものといえるのであるから、Xは、Y社と使用従属関係にある労働者に該当すると認められるというべきである

労働者性については、形式ではなく、実質を重視して判断されるという良い例ですね。

判断基準については、上記判例のポイント2を参考にしてください。

なお、Xは、上記のとおり、労働者性が認められ、労災が認められました。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働時間19(日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、F生命保険相互会社の契約調査業務の代行会社として設立された沿革を有し、生命保険制度の健全な運営を実現するために生命保険会社が行う契約選択業務に係る確認業務を受託している会社である。

Xらは、Y社の「業務職員」としてこようされ、自宅を本拠地として、生命保険の死亡保険金や各種給付金等の支払いに際し、告知の有無、事故の状況、障害の状態、入院加療の内容等を確認する業務などに従事している。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で担当案件の確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等を訪問し、事実関係の確認を実施し、その結果を確認報告書にまとめて、報告期間内に本社ないし支社に郵送またはメールで送付する態様で業務に従事していた。

業務職員の所定労働時間等は、平日は、始業午前9時、終業午後5時、労働時間7時間、休憩1時間、土曜が特別休日、日曜が休日とされ、日常の確認業務については、事業場外労働のみなし労働時間制が採用されていた。

Xらは、就業規則上は、業務上特に必要があり、所属長が指示をした場合には、休日を就業日とし、他の日を休日とすることがあるとされ、その振替休日は就業日当日から4週間以内に本人が請求した日に取ることとされていたが、業務量から振替休日を十分に取れる状況になかったり、振替休日にY社から電話連絡があるなどしていた。

平成18年1月、Y社は、労働基準監督官からの是正勧告(休日の就業に関して、時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払い)を受け、業務職員に対し過去2年分の休日労働の割増賃金の清算をすることとした。

Xらは、Y社に対し、自宅と確認先との間の移動時間についても労働時間として取り扱われるべきである、休日労働については実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきであると主張して、休日労働手当、付加金の支払いを求めた。

なお、本件争点は、(1)自宅と確認先間の移動時間の取扱い、(2)報告書作成時間の算定方法、である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらの業務執行の態様は、契約形態が雇用であるから従属労働であるとはいえ(実際、同じ業務を担当しているが、業務委託契約の職員もいる。)Y社の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、雇用契約においては、使用者は労働者の労働時間を管理する義務を有するのが原則であるが、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することは不可能であり、むしろ管理することになじみにくいといえる。

2 Y社就業規則において、Xらの労働日は、平日においては、みなし労働時間制が採られており、就業時間は7時間(休憩時間は1時間で随時取る。)であるところ、「日常の確認活動については、通常の労働時間就業したものとみなす」とされている。Xらの業務執行の態様からすれば、このみなし労働時間制は、その業務執行の態様に本質的に適っているということができる。

3 業務執行の態様の下では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っているということもできる。しかしながら、休日は本来労働することを予定していない日であるため、「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということにすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない。かえって、休日労働のみは実労働時間によらねばならないということになれば、経験則上、休日労働の方が作業効率が低下するのが通常であるのに、使用者はその労働に対して、高い割増賃金を支払わねばならず、経験原則にも相反することになりかねない。

4 Y社の業務職員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下になく、労働者の裁量の下にその自宅等で行われているのであるから、休日における報告書作成時間等も、使用者において管理しているものではなく、作成に要した実時間を使用者において知ることができるものではない。業務職員もY社に報告していないし、また実際にもY社が把握してはいない。したがって、一定の算定方法に基づき、報告書作成時間等を算定することにも合理性が存するといえる。

5 休日労働における報告書作成時間の算定に関する社内的な取決めについては、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられているというべきであり、司法審査に当たっては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かの点に限って審査すべきである。

6 移動時間のうち、確認場所間の移動については労働時間として扱うことに当事者間に異論はない。問題は、自宅と確認先との間の移動時間、すなわち自宅を出発して最初の確認先に至る間の移動時間である。
Xらの自宅は就業場所でもあり休息の場所でもあり、Xらの自宅から確認先への移動については通勤と解するのが相当である。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。