おはようございます。
今日は、午前中は、ずっと裁判の打合せです。
午後も、裁判の打合せが3件、夕方から事務所会議です。
・・・接見に行かないと
今日も一日がんばります!!
さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。
音更農業協同組合事件(釧路地裁帯広支部平成21年2月2日・労判990号196頁)
【事案の概要】
Xは、大学卒業後、Y社の事務職の正社員となり、酪農課、農産課を経て青果課に所属し施設管理業務を担当していたが、同課の係長が疾病で入院休職したので、同係長の担当していた販売業務の一部を分担するに至った。
Xは、業務増大のため疲労し、次第に体調の不良を訴えた。
Xは、Y社倉庫において、自殺した(死亡当時33歳)
Xの遺族は、Y社に対し、Xが過労によりうつ病に罹患し自殺したのは、Y社の職員に対する安全配慮義務違反によるものであるとして、損害賠償を請求した。
なお、北海道帯広労基署長は、Xの自殺は業務上災害であると認定した。
【裁判所の判断】
Xの損害につき、約1億円の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 Xの自殺がY社における業務に起因するものであるか否かを検討するに当たっては、労働省労働基準局長の平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」と題する通達に従って認定するのが相当である。
2 Y社は、その雇用売る労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう注意し、もって、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っていると解するのが相当である。
3 Y社は、平成17年5月にタイムカード制を導入するまでは出勤簿でのみ職員の勤務を管理し、超過勤務についても職員の自己申告に委ね、これをチェックすることもしていなかったのであって、その労働時間管理は杜撰なものであったというほかないが、仮にそうであっても、課長は、上司としてXと職場をともにし、日々同人の動静を把握できる立場にあり、現にXの業務量が増大していることを認識していたものである。また、Xは、平成16年11月から度々体調不良や通院を理由として早退届や外出届を提出していた。こうした事情に加えて、平成17年2月にXが提出した自己申告書には、他部署への異動を希望する旨の記載があったこともあわせると、Y社は、Xが業務負担の増大及びこれを原因とする疲労の蓄積や体調不良に悩んでいたことを認識し、あるいは認識することが可能であったというべきである。
そうだとすれば、Y社は、遅くとも平成17年3月までには、Xの業務量を軽減する措置を講ずる義務があり、かつそのような措置を講ずることは可能であったというべきである。
4 ところが、Y社は、平成16年6月から翌9月にかけてわずか1か月間程度アルバイト2名を増員したほかは、Xの業務負担を軽減する措置を特段講じていない。それどころか、Y社は、平成17年4月1日付けで、Xを係長に昇格させているが、Xの青果課における従前の仕事ぶりや性格等からして同人が青果課係長職として相応しいかどうか十分に検討したかどうか疑問があり、しかも初めて管理職に就くXに対するフォローもしていないのである。その結果、Xの業務負担はさらに増大し、未処理案件は山積みとなり、Xは単純な業務ですら手をつかないような状態に陥ったものである。そうした状況下で、本件異物混入事件という、青果課係長としてのXの心に重い負担を与えたと思われる事件が発生し、さらに追い打ちをかけるように、本件異物混入事件の後処理をした翌日、課長による長時間の叱責があったのであって、これが決定的打撃となり、Xのうつ病エピソードを悪化させたものと推認するのが相当である。
したがって、Y社は、労働者であるXに対する安全配慮義務を怠ったというべきである。
5 Xは、平成16年6月以降、増大する業務負担に耐えながらも結局精神病に罹患し、妻と当時未だ1歳の娘を残し、33歳という若さで自ら命を絶つという非業の死を遂げたものである。Y社は、Xが心身に変調を来していることを現に認識し、あるいは認識し得べきであったにもかかわらず、特段の措置を講じなかったどころか、ほとんど何の配慮のないまま係長へと昇格させるという無謀な人事を断行し、さらには本件異物混入事件というXにとっても衝撃の大きかったと思われる事件の2日後に上司が長時間にわたって叱責を行った結果、Xを首つり自殺という惨い死に方へと追いやったものである。
こうした事情に照らすと、Xの死亡慰謝料は、3000万円をもって相当と認める。
会社側としては、大変参考になる裁判例だと思います。
従業員を昇格させる場合、通常、その従業員の職務上の責任は重くなります。
昇格させる際、その従業員が昇格後の職務上の責任を果たし得るか、また、その職務上の地位にふさわしい人物か否かについて、十分検討するべきです。
上記判例のポイント4は参考になりますね。
また、仕事上、上司が部下を叱責することはどの会社でもあることです。
しかし、これも方法、態様、程度によっては、パワハラと評価されること、本件同様に、労災につながり得ることを、十分認識するべきです。
いろいろな意見があるところだと思いますが、裁判所がそのように判断している現実をまずは受け入れましょう。