Daily Archives: 2011年1月23日

解雇27(乙山金属運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

乙山金属運輸事件(東京高裁平成22年5月21日・労判82頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営む会社であり、A社からの受注がその業務の約8割を占めていた。

Y社の従業員は、事務部門が正社員6名、派遣社員3名および嘱託社員1名、運転部門が正社員35名であった。

Xらは、Y社の運転部門の正社員で、Xらを含むY社の従業員13名は、労働組合を結成している。

Y社は、平成20年11月、従業員に対して、経営状況の急激な悪化により大幅な事業縮小が避けられないこと等を伝えた。

その後、Y社は希望退職者の募集の説明会を行ったが組合の合意が得られず、再募集の条件を提示した。

しかし、募集期間経過後に退職を申し出た従業員は、合計7名にとどまった。そこで、Y社は、Xらを含む8名に対し、整理解雇をする旨の意思表示をした。

Xらは、本件整理解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の保全ならびに賃金の仮払いを申し立てた。

宇都宮地裁栃木支部は、整理解雇は無効であると判断した。

そこで、Y社は、保全抗告を申し立てた。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 整理解雇が有効と判断されるためには、まず、当該整理解雇をするに当たって、人員削減の必要性があったこと、使用者が解雇回避努力を尽くしたこと、解雇された労働者についての人選に合理性があったこと及び解雇に至る手続に相当性があったことの4要件が具備されていることを要すると解するのが相当である

2 人員削減の必要性については、平成20年8月以降の売上高および前年当月比の減少は過去に例のない大幅なものであり、そして、それはいわゆるリーマン・ショックに端を発した世界経済の急減速によるものと考えられ、相当程度長期にわたって続くことが予想される性質のものである。また、必要な人員削減数については、公認会計士の報告書を受けて、従業員の給与の減額や他の経費節減等を行うこととして、15名と決したものであり、合理的なものである。一方で、一時帰休を実施する可能性や、整理解雇後の傭車台数の増加も、人員削減の必要性を否定するものではない。
以上によれば、Y社の運転部門において15名の人員を削減する必要性があったことが疎明される。

3 解雇回避努力については、上記各措置が解雇回避努力に当たる。また、社長の妻の役員報酬(885万円)を減額しても、解雇を回避する効果があったとはいえないこと、希望退職者の募集に際して、Y社が、募集期間を延長し、優遇措置を設ける等の努力をつくしていたこと、希望退職者の対象を運転部門に限定したことも、事務部門に関しては運行管理等の事務量にかんがみて大幅な削減をすることができない状況にあったことから、合理的なものと評価できる
以上によれば、Y社は、解雇回避努力を十分に尽くしたことが疎明されるというべきである。

4 人選の合理性については、査定項目及び査定評価の基準に特段相当性を欠く点はみられないこと、10分を超える遅刻のみ減点査定の対象とするという基準は定量的・客観的なものであり、このような基準を従業員に明らかにしないからといって、恣意的な運用がされた可能性があるとはいえないこと、頻繁に遅刻をしていた従業員に対して始末書を提出させ、その始末書提出について(遅刻の減点査定とは別個に)限定査定をしたとしても、偶発的に遅刻をした場合と遅刻に常習性がみられる場合とで評価に軽重を設けることは、特段不合理な評価方法であるとはいえないこと、従業員にインフルエンザの予防接種を受けることを強く推奨し、これに応じなかった者について減点査定をすることも、合理的な評価方法であるといえること、誤出荷、積卸しの作業マニュアル違反、上司への暴言等を理由として警告書を交付し、これについて減点査定をすることも不合理とはいえないこと、複数の者で査定をする査定体制も、人事評価の公平性および客観性を担保するための合理的な体制であるといえる。
以上のとおり、一般的な査定項目や査定評価基準、査定体制のほか、Xら各人についての具体的査定についても、特段不合理な点はみられず、その査定の結果、下位の者から相手方らを含む8名を選んで整理解雇の対象者としたことについては、合理性があることが疎明される。

5 手続の相当性については、本件組合との交渉や、従業員に対する説明会の経緯等に照らせば、Y社は、本件整理解雇に当たって、手続きを十分につくしたということができる。

本件は、整理解雇が認められた珍しい裁判例です。

地裁では、仮処分、保全異議ともに、整理解雇は無効であると判断されています。

このような判断の相違に触れる度に、やはり、事前に(訴訟前に)、会社が行為の有効性を判断するのは、非常に難しいことであると感じます。

「ここまでやって、裁判所に無効だと判断されるのであれば、それはもう仕方のないことだ」というところだと思います。

いずれにしても、会社としては、可能な限りの準備をするべきです。

特に整理解雇に関しては、必ず顧問弁護士と相談の上、実施することを強くお勧めします。