おはようございます。
さて、今日は、変更解約告知が問題となった裁判例について見てみましょう。
福島県福祉事業協会事件(福島地裁平成22年6月29日・労判1013号54頁)
【事案の概要】
Y社は、知的障害者施設等の事業所を経営する社会福祉法人である。
Xは、栄養士として、Y社が経営する授産園において、正規職員として労務の提供をしていた。
Y社は、Xを含む栄養士らに対し、Y社の給食部門の職員の雇用形態を「契約雇用職員」の形態に変更すること、そのため、同部門の職員には、一度退職してもらい再雇用する形となること、希望退職届を出さない場合には解雇扱いになることを告げた。
その後、Y社は、対象者に対して、上記方針を説明し、文書は配布する等した。
この間、Xは、自らの転職先の相談のために職業安定所を訪れ、その際に同所の職員に対し、Xが組合支部を結成し労働争議中であるとの話をしたが、その後職業安定所では、Y社において労働争議がなされていることを理由として、職安法20条1項に基づき、求職者に対しY社を紹介することをしなかった。
結局、Xは、Y社の説明や扱いに納得できず、退職届や意思確認書を提出しなかった。
Y社は、Xを求人妨害や組合の活動を理由にして、Y社の就業規則に基づく諭旨解雇にした。
Xは、本件解雇が無効であるとして、地位の確認、賃金支払いを求めるとともに、慰謝料を請求した。
【裁判所の判断】
解雇は無効
慰謝料として30万円を支払うよう命じた
【判例のポイント】
1 Y社は、Xを諭旨解雇するに当たり、30日以上前にその予告をせず、解雇時に、30日分の平均賃金を支給していないばかりか、諭旨解雇による制裁を審査、確認するために、諭旨解雇の前に開催することとされている特別委員会も設置しておらず、Y社の就業規則上、必要な手続を何ら遵守していない。
このように、本件解雇は、就業規則上の諭旨解雇事由もなく、また、就業規則上必要な最も基本的と考えられる手続にも違反してされたものであるから、無効である。
2 本件解雇の意思表示は、「就業規則に基づき諭旨解雇を命ずる」と明記されており、それ以外の解雇事由は全く表記されていないうえ、本件解雇がされるまでに、Y社は、給食部門の職員全体に対する説明や文書配布をしているほかは、個別に解雇の意思表示をしておらず、一方、解雇の方針を示した後も整理解雇の当否をめぐってXも3回にわたり団体交渉をしていたことなどに照らすと、本件解雇は、諭旨解雇を理由としてなされたことが明らかであり、本件解雇に変更解約告知の効力があるものとして、整理解雇の要件を踏まえて、その有効性を主張するY社の主張は、その前提を欠き失当である。
3 仮に、本件解雇が変更解約告知の意思表示を含むものということができるとしても、その有効性は否定される。すなわち、職員の雇用形態を変更する主な理由は、自立支援法の施行により、利用者の負担が増えるため、給食にかかる人件費を抑えることで、その軽減を図るというものであったが、Y社には、将来の経営に備えて、経費の削減等をする必要性があったこと自体は否定し得ないものの、本件解雇の際、職員の雇用形態の変更や、これに応じない場合に解雇をしなければならないほどの経営上の必要性があったと認めることはできないし、その対象として、Y社の給食部門の職員を選定することの合理性もない。
したがって、本件解雇には、整理解雇としての合理性を基礎づけるような事情はうかがわれないから、仮に、本件解雇が、整理解雇類似のものと考えられるとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。
4 以上のとおり、本件解雇は、無効であるところ、Y社は、X代理人から、XをはじめとするY社の給食部門の職員について、雇用形態を変更したり、これに応じない職員を解雇することに合理的な理由がない旨の書面の送付を受けていたことに加え、諭旨解雇については、前述のとおり、理由がないことが明らかであることからすると、Y社は、本件解雇に、理由がないことを認識し、又は容易に認識し得たというべきである。
そうすると、本件解雇は、Xに対する不法行為に当たるというべきところ、Xは、本件解雇によって、相当の精神的苦痛を受けたものと認められる。そして、本件解雇が全く理由のない諭旨解雇であること、XとY社との間の団体交渉、仮処分決定、労働委員会の救済命令手続の経過に鑑みて、Y社は、本件解雇をしない又はこれを回避する等、違法行為を是正する機会を有していたにもかかわらず、Xの要求を拒否し続け、紛争解決を不当に長期化させ、これを困難にしたものと評価せざるを得ないことをも併せて考慮すれば、Xの精神的苦痛は、単に賃金の支払を受けることによって慰謝されるものではないと考えられる。
したがって、Xに対する慰謝料は、本件に顕れた一切の事情を考慮し、30万円と認めるのが相当である。
変更解約告知の採用について、裁判所は明らかに否定的です。
変更解約告知の法理とは、会社の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認めるものです。
これが簡単に有効とされれば、会社側としたら、とっても都合の良い法理になります。
よほどのことがない限り、変更解約告知は有効と判断されませんので、会社としては、手を出さないほうがいいと思います。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。