Daily Archives: 2011年1月16日

労災34(天辻鋼球製作所事件)

おはようございます。

今日は、特に予定が入っていません。

ちょっと疲れ気味なので、午前中だけ仕事をします。

午後は休憩

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

天辻鋼球製作所事件(大阪地裁平成20年4月28日・労判970号66頁)

【事案の概要】

Y社は、各種金属球並びに各種非金属球の製造及び販売などを目的とする会社である。

Xは、平成10年4月からY社に勤務し、3か月の実習期間を経て情報システム課に2年8か月在籍した後、平成13年4月から生産企画課に配属され、特殊球の製造の進行計画及び管理等の業務に従事していた。

Xは、職場を異動した直後、執務中に小脳出血及び水頭症を発症し、重篤な障害(半昏睡、全介護)を残した。

なお、Xは、小脳の先天的な脳動静脈奇形(AVM)という基礎疾患を有していた。

AVMとは、本来は毛細血管を介してつながるべき脳内の動脈と静脈が、これを介さずに繋がっている状態の奇形をいい、この奇形部分において血流が異常に速く、正常な血管に比べて血管壁が薄くて弱いため血管が破裂しやすくなっている疾患である。

北大阪労基署長は、平成13年10月、本件発症が業務上のものであると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1億9000円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、平成13年4月1日付けで生産企画課に異動して間もない段階で、慣れない業務を担当していたこと、前任者からの引継ぎ自体に3日間連続で午前8時40分ころから午後10時まで要した他、日曜日の午前中から夕方までの時間を要しており、しかも、このように説明を受けた内容を理解するために、さらなる時間を要したものと考えられる。これらに照らせば、Xの生産企画課における業務は、経験を有する同課の職員であれば容易にこなせる業務であったとしても、経験の浅いXにとっては、相当程度大きな負担となったものと認められる

2 他方、Xの労働時間について検討するのに、本件発症前1か月間におけるXの時間外労働時間の合計は、約88時間30分にのぼるところ、特に、Xが平成13年4月2日に生産企画課に異動してから本件発症に至るまでの12日間における時間外労働時間の合計は、約61時間であり、これを1か月(30日間)当たりの数値に換算すると、約152時間30分に相当することから、同期間におけるXの労働時間は、極めて長時間にわたっていたということができる。その上、Xは、上記12日間に1日も休日を取ることなく、連続して業務に従事していたものであるから、この側面から見ても、業務の負担は大きいものであったと認められる。

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。したがって、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

4 これを本件についてみるのに、Y社は、Xの使用者として、労働者であるXの生命、身体、健康を危険から保護するよう配慮する義務を負い、その具体的内容として、適正な労働条件を確保し、労働者の健康を害するおそれがないことを確認し、必要に応じて業務量軽減のために必要な措置を講ずべき注意義務を負っていた。そして、生産企画課においては、同課の責任者である同課長が使用者たるY者に代わってXに対し、業務錠の指揮監督を行う権限を有していたものであるから、同課長は、Y社の上記注意義務の内容に従って、Y社に代わってその権限を行使すべきであったと認められる。特に、生産企画課に異動した後におけるXの労働時間が相当長時間にわたっており、しかも、その内容から見ても業務の負担が大きかったことは、前記のとおりであったのであるから、生産企画課長としては、Xの労働時間、その他の勤務状況を十分に把握した上で、必要に応じて、業務の負担を軽減すべき注意義務を負っていたというべきである

5 それにもかかわらず、生産企画課長は、前記注意義務を怠り、引継時に当たっては、担当者が従前担当していた業務の一部を軽減するなど、一定の配慮は行ったものの、Xの現実の時間外労働時間の状況を正確に把握せず、しかも、Xの長時間勤務を改善するための措置を何ら講じることなくこれを放置した結果、Xを本件発症に至らせたものであるから、民法709条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う
このように、Y社に代わり労働者に対し、業務上の指揮監督を行う権限を有すると認められる生産企画課長は、使用者であるY社の事業の執行について、前記注意義務を怠り、Xを本件発症に至らせたものであるから、Y社は、民法715条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。

6 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾病とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾病の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、加害者の疾患を斟酌することができると解される。
もとより、XにAVMが存在したこと自体をもって、Xの過失として評価することはできないものの、他方で、これを全てY社の負担に帰することは、公平を失するというべきである。そこで、Y社の注意義務違反の内容・程度、XのAVMの状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、本件においては、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、722条2項を類推適用して、本件発症によって生じた損害の20%につき、素因減額をするのが相
当である

本件も、労働時間が長時間にわたっていることが決め手となっています。

賠償額は約2億です

会社としては、やはり、従業員の労働時間管理を甘くみてはいけません。

労働時間管理の具体的方策については、顧問弁護士や顧問社労士に質問してください。