おはようございます。
さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。
トータルサービス事件(平成20年11月18日・判タ1299号216頁)
【事案の概要】
Y社は、建築物・構築物内外装の清掃・補修・保守の各事業、同各事業に関わる機械・車両・器材・塗料・洗剤の輸入・販売・リース、同各事業に関わるフランチャイズチェーン店の加盟店募集及び加盟店指導業務等を目的とする会社である。
Y社は、米国会社2社との間で、これら会社が事業化している車両外装のリペア(修復)を中心とした事業及び家具・車両内装のリペアや色替えを中心とした事業について、日本国内における独占的実施契約を締結し、上記各事業をフランチャイズ商品化して加盟店募集及び加盟店指導業務を行っている。
Xは、Y社の社員としてインストラクターの地位にあり、加盟店への技術指導及び車関連事業の直営施工を担当していたが、自ら退職した。
Xは、退職後、Y社のそれと類似の事業を自ら開業して行っていた。
これに対し、Y社は、Y社就業規則並びに在職中及び退職時にXに提出させた機密保持誓約書を根拠に、Xの行っている事業の差止めと損害賠償を求めた。
【裁判所の判断】
本件競業避止義務規定は、有効であり、2年間の事業の差止めおよび674万円の損害賠償請求を認めた。
【判例のポイント】
1 一般に、従業員が退職後に同種業務に就くことを禁止することは、退職した従業員は、在職中に得た知識・経験等を生かして新たな職に就いて生活していかざるを得ないのが通常であるから、職業選択の自由に対して大きな制約となり、退職後の生活を脅かすことにもなりかねない。したがって、形式的に競業禁止特約を結んだからといって、当然にその文言どおりの効力が認められるものではない。競業禁止によって守られる利益の性質や特約を締結した従業員の地位、代償措置の有無等を考慮し、禁止行為の範囲や禁止期間が適切に限定されているかを考慮した上で、競業避止義務が認められるか否かが決せられるというべきである。
2 ところで、このうちの競業禁止によって守られる利益が、営業秘密であることにあるのであれば、営業秘密はそれ自体保護に値するから、その他の要素に関しては比較的緩やかに解し得るといえる。
3 営業秘密として保護されるには、(1)秘密管理性、(2)非公知性、(3)有用性、が必要であると解される。
4 Y社の技術は、営業秘密に準じるものとしての保護を受けられるので、競業禁止によって守られる利益は、要保護性の高いものである。そして、Xの従業員としての地位も、インストラクターとしての秘密の内容を十分に知っており、かつ、Y社が多額の営業費用や多くの手間を要して上記技術を取得させたもので、秘密を守るべき高度の義務を負うものとすることが衡平に適うといえる。また、代償措置としては、独立支援制度としてフランチャイジーとなる途があること、Xが営業していることを発見した後、Y社の担当者が、Xに対し、フランチャイジーの待遇については、相談に応じ通常よりもかなり好条件とする趣旨を述べたこと等が認められ、必ずしも代償措置として不十分とはいえない。そうすると、競業を禁止する地域や期間を限定するまでもなく、XはY社に対し競業禁止義務を負うものというべきである。
5 上記競業禁止特約が効力を認められる以上、Y社の差止請求は理由がある。しかし、その範囲は、技術の陳腐化やY社の上記技術を独占できるわけではないこと等を考慮すると、本判決確定後2年間に限られるべきである。
本件は、差止めまで認められた数少ないケースです。
競業避止義務違反の判断基準は、他の裁判例と同じです。
なお、損害賠償請求についは、Y社・X間の競業禁止特約に従い、損害賠償の予定として定められた、違約金としての、フランチャイズシステムの開業資金等及びロイヤリティ相当分を基準にして、Y社が上記技術を独占できるわけではないことから、このうち7割をY社の損害として認められました。
賠償金額をどのように算定するかは、難しい問題ですので、予め損害賠償額の予定をしておくと、便利ですね。
どのような損害賠償の予定を定めておくべきかは、顧問弁護士に相談してみてください。