おはようございます。
さて、今日は、コンプライアンス規定に違反した等の理由でなされた諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。
フィリップ・モリス・ジャパン事件(東京地裁平成22年2月26日・判時2077号158頁)
【事案の概要】
Y社は、たばこの販売促進業務等を目的とする会社である。
Xは、Y社の正社員であり、退職するまで、たばこのルート営業等に従事していた。
Xは、当時、Y社の首都圏リージョン内ユニットマネージャーの地位にあり、同ユニットに在籍する7人のテリトリーセールスマネージャーの管理監督をしていた。
Xは、Y社の職務倫理規定に違反した。また、Xの部下に対し、上司らが暴力行為をしたなどという虚偽の報告をするよう働きかけたりした。
Y社は、Xに対し、自宅待機命令と他の社員との連絡を禁じる旨の命令をはしたが、Xは、自宅待機中、部下らに電話をかけた。
事態を重く見たY社は、コンプライアンス委員会において審議し、(1)Xがコンプライアンス調査について守秘義務を課されたにもかかわらず、周囲にその内容を漏らしたこと、(2)Xが部下に対し上司について虚偽の報告をするよう求めたこと、(3)Xが他の社員との連絡を禁じる旨の命令に違反して、部下に電話をかけたこと、(4)Xが部下に対しパックレールの使用を指示した事実が発覚したことに基づき、Xを諭旨退職とするという意思決定をした。
Xは、Y社に対し、退職願を提出して退職の意思表示をしたことについて、この意思表示は、諭旨退職事由がないのにY社の人事部長の強迫により強制されたものであるからこれを取り消すなどと主張して、仮の地位確認と賃金仮払いを求めた。
【裁判所の判断】
諭旨退職処分は有効
【判例のポイント】
1 Xは、・・・会社諸規程・方針に違反したものということができる。特に、Xは、Y社が奨励する「スピークアップ」を悪用して、Y社のコンプライアンス調査を誤らせようとしたものと考えられるのであり、その違反の程度は重大というべきである。
2 コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視するY社において、ユニットマネージャーであるXが、部下に対しパックレールの使用を指示しておきながら関与を認めず、さらにこれを交通事故のようなものというのは、Y社の方針等に合わない無責任な態度といわざるを得ない。
この裁判例で、注目すべきなのは、上記判例のポイント2です。
裁判所が、Y社は「コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視する会社」であることを認めています。
訴訟になったときに、裁判所から、このような評価をしてもらうことは会社にとっては非常にありがたいことです。
判決理由を読むと、フィリップ・モリス・ジャパンのコンプライアンスに対する姿勢がわかります。
会社としては、日頃、どのような対策をとれば、裁判所からこのような評価をしてもらえるのか、じっくり検討するべきだと思います。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。