Daily Archives: 2011年1月2日

労災27(東芝事件)

おはようございます。

今日から、通常通り、事務所で仕事を始めます!

今年は、やりたいことがいっぱいあります

1年間、突っ走ります

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

東芝事件(東京地裁平成21年5月18日・判時2046号150頁)

【事案の概要】

Y社は、電気機械器具製造等を業とする会社である。

Xは、Y社に勤務し、液晶生産ライン開発プロジェクトの業務に従事していた。

Xは、過度の業務上の負荷を受けた結果、適応障害を発症し、その後、症状を増悪させ、うつ病を発症し、療養生活を余議なくされた。

【裁判所の判断】

熊谷労基署長による療養補償給付たる療養の費用及び休業補償給付を支給しない旨の処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 精神障害の発症については、環境からくるストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められるから、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 Xの労働時間に関する証拠として勤務表があり、これを基にしてXの労働時間を認定することとする。もっとも、同勤務表は、Xが当時作成したものではなく、Xの労働実態を反映しているとは言い難い上、勤務時間が長かったためXが社バスに乗れないことがあったこと、Xが疲労のため禁止されていた自家用車通勤したことがあったこと、他の同僚も遅くまで仕事をしていたことがあった旨供述していること等からすれば、労働時間が上記勤務表より長くても不自然ではない。他方、Xは、毎日午後11時以降まで勤務していた旨供述するが、客観的裏付けはなく、同僚の供述によれば、午後11時より前に帰社日もあったことが窺われ、Xが毎日午後11時以降まで勤務していたとまでは認められない。したがって、Xが上記勤務表から認められる労働時間よりも長時間の労働をしていたと認められ、客観的な裏付けがある範囲でこれを加算することとし、具体的には、上記勤務表記載の労働時間外にXが自ら業務のために更新したデータが認められる範囲で労働時間を修正することとし、Xの供述に照らし、データの更新の時刻から15分遅い時刻をもって終業時刻とする。

3 本件のXの一連の業務態様を総合的に観察して看取できることは、当該業務の内容、スケジュール、業務遂行に当たってのトラブルの発生とそれに対する本件会社の対応等、労働時間という要因が、Xの心理的負荷に重層的に影響を与え、時間を追って亢進させていったということである。
・・・以上のように、Xの業務を巡る状況を見ると、Xは、新規性のある、心理的負荷の大きい業務に従事し、厳しいスケジュールが課され、精神的に追い詰められた状況の中で、多くのトラブルが発生し、さらに作業量が増え、上司から厳しい叱責に晒され、その間にY社の支援が得られないという過程の中で、その間、長時間労働を余儀なくされていた。以上のXに対する心理的負荷を生じさせる事情は、それぞれが関連して重層的に発生し、Xの心理的負荷を一貫して亢進させていったものと認められるのであり、上記のようなXの業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であったといえる。

4 業務起因性を否定する埼玉労働局地方労災医員協議会及び沖野医師の意見は、上記の心理的負荷の強度について、個々の要因を分析して、必ずしも強度の心理的負荷とはいえないと評価するものである。上記の個々の分析的な評価自体を肯じる余地はないわけではないが、上記のとおり、本件におけるXの心理的負荷は、M2ライン立ち上げプロジェクトに関与し始めた時点から、Xは、上記のとおりの複数の要因に重層的に晒されたことに大きな特色があるのであり、上記の意見のように、分析的、個々的にして必ずしも強度でないという評価をすることが相当であるとは考えられない

上記判例のポイント4は、労働者側にとっては、非常に参考になります。

医師の意見書が、個々の要因を分析的に評価し、業務起因性を否定している場合には、この裁判例を参考にして、主張しましょう。