Monthly Archives: 12月 2010

有期労働契約11(豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件(大阪高裁平成22年3月30日・労判1006号20頁)

【事案の概要】

Y財団は、とよなか男女共同参画推進センター条例に基づき設立された「とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ」の運営を、豊中市から委託されている。

Xは、平成12年、Y財団に「すてっぷ」の館長として、期間1年として雇用され、平成15年4月に3度目の雇用期間の更新を受けたものの、以後は、組織変更後の館長に採用されることなく、平成16年3月、雇用が終了した(雇止め)。

これに対し、Xは、本件雇止めは、Xが男女共同参画社会の実現について活発に活動を続けていたことから、反動勢力(いわゆるバックラッシュ勢力)の不当な攻撃の対象となり、Y財団がそれらの勢力に屈して、Xを疎外して「すてっぷ」の組織変更を行うなどしたためであり、本件雇止めおよび新館長についての不採用は違法であるとして、Y財団らに対して、雇用契約における債務不履行または共同不法行為による損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件雇止めまたは本件不採用は、雇用契約上の債務不履行または不法行為には該当しない。

【判例のポイント】

1 「すてっぷ」の館長職の雇用関係は、地方公共団体の職務を行う特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり、民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも、市の特別職の職員の任免についての法理が準用されると解するのが相当である。したがって、「すてっぷ」館長としてのXの雇用について、期限を定めたからといって、これを違法ということはできず、また、雇用期間経過後の更新についても解雇の法理は適用されないから、期限付き雇用が数回更新されても期限付きでない雇用に転化するものではなく、信義則から更新の権利義務が生じることもなく、更新拒絶(雇止め)については原則として雇用者の自由であり、特段の合理的理由を必要とするものでもないというべきである

2 このように、XとY財団との雇用が公法的な意味合いをもつ法律関係に準ずるものと解すべきであることのほか、本件組織変更が行われる前後の「すてっぷ」の館長職が、常勤・非常勤、雇用期間の定めの有無、業務の内容などにおいて、実質上、同一の職務であるとはいいがたいことに鑑みると、Xが本件雇止めの後、当然に新館長に雇用されなかったことが、パートタイム労働法の趣旨に反することなどにより、違法であるということはできず、また、新館長の雇用は、「すてっぷ」の存立の目的からして、Y財団の政策的又は政治的裁量・責任のもとに行われるべきことから、その選任は選任権者の自由な裁量によるものであり、本件組織変更の前に非常勤館長として3度、3年余にわたり雇用期間が更新されてきたXが、当然に新館長に就任する権利を有していたとしてもそのこと自体について法的な権利を認めることはできない。したがって、本件雇止め又は本件不採用については、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない

本件は、任期付任用公務員に対する更新拒絶が問題となっています。

民間企業の有期契約労働者に対する期間満了に伴う更新拒絶については、これまで見てきた裁判例からも明らかなように、解雇権濫用法理の類推適用の可能性があります。

これに対して、任期付任用公務員に対する更新拒絶については、こうした雇止め制限法理を通じた救済が認められていません。

最近、任用の更新拒絶が不法行為に該当するとして損害賠償請求による救済が認められるケースも出てきていますが、逆に言えば、そこまでの救済しか認められていません。

公務員は、権利救済の点では、民間労働者と比較して、圧倒的に弱い立場におかれています。

流れが変わるまで、裁判を起こしていくしかないでしょうね。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災16(鳥取大学附属病院事件)

おはようございます。

今日は、午前中、銀行の方と打合せをし、午後は、島田で離婚調停。

夜は、異業種のみなさんと忘年会です

なかなか鼻水が止まりませんが、今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

鳥取大学附属病院事件(鳥取地裁平成21年10月16日・労判997号79頁)

【事案の概要】

Xは、医師免許取得後に、鳥取大学の大学院となっていたが、鳥取大学付属のY病院からアルバイト先の外部病院に向かう自動車運転中に、交通事故を起こし、死亡した(死亡当時34歳)。

Xの両親は、事故の原因は、XがY病院において演習名目で過重な勤務に従事させられ、過労状態で自動車を運転することを余議なくされたことにあるとして、Y病院に対し安全配慮義務違反または不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xの損害として、逸失利益1億0263円、慰謝料2000万円、葬祭料150万円の合計1億2413円を認めたが、6割の過失相殺を認め、さらに労災認定により支給された遺族一時金にかかる損益相殺を行ったうえで、弁護士費用を加えた2000万円9000円の支払いをY病院に命じた。

【判例のポイント】

1 Xの時間外業務従事時間は1週間平均40時間を超え、非常に長時間に及んでいたうえ、完全な休日は3か月間に3日間のみであって、Xの業務が量的に過重であったことは明らかである

2 Y病院の組織内で、Xを含む大学院生らが勤務医に比して重い責任を負担していたとは考えにくいものの、医療業務そのものの精神的負荷は基本的に大学院生らも勤務医と変わるものではないこと、経験等に劣る大学院生らにはより精神的、肉体的負荷がかかり得ること、当直における負担は、少なくとも肉体的には勤務医よりかなり重いものであったこと等から、Xの業務内容は一般の社会人が従事する業務に比して責任と緊張の強いものであったことは明らかである。

3 Xは、本件事故の直前に、長時間の業務等により極度に睡眠が不足し過労状態にあったと認められ、本件事故の原因はそのことによる居眠り運転にあったと認めるのが相当である。

4 Y病院は、Xが極度の疲労状態、睡眠不足状態に陥ることを回避すべきことを具体的な安全配慮義務として負っていたというべきところ、Xに、本件事故の直前1週間には極度の睡眠不足を招来するような態様で業務に従事させ、事故前日には徹夜の手術に従事させたものであって、安全配慮義務違反があり、これと本件事故との因果関係も認められる

5 安全配慮義務の発生が肯定される場合でも、その履行補助者に、当然に同様の不法行為上の注意義務が発生するものではない。そして、Xの指導に当たる立場にあった医局長に注意義務違反(過失)は認められないとして、Y病院の不法行為上の責任は否定した。

6 一般に心身の状態は当人が最も良く把握することができ、特に医師であるXは、一般人に比してよい正確に自己の心身の状態を把握し得たと考えられるところ、Xは、本件事故当日、極度の過労状態、睡眠不足にあり、その状態で自動車を運転することの危険性を認識し得たということができる。そして、本件事故当日、JRでは・・・特急列車が運行されており、Xが同日の緊急手術を終えた後、公共交通機関を利用して当直開始時刻までにアルバイト先の外部病院に赴くことは可能であり、徹夜明けとなる本件事故当日だけでも自家用車以外の交通手段を選択する余地は十分にあった。ところが、Xは、自らの判断で自動車を運転して外部病院に赴いたものであり、このことは本件事故の直接的原因となっている
また、Xは、数か月にわたる大学院生としての業務従事の経験から、Y病院における業務に加えてどの程度のアルバイト当直業務に従事することにより、自己がどの程度の過労状態となるかを、ある程度予測することが可能であったと考えられるところ、Xは、自らの希望によりアルバイト当直を続けていたものであり、むしろ医局長は、Xの希望よりアルバイトの割当てを抑えていたものであって、X自身のアルバイト当直希望もXの疲弊を増大させたということができる。 

医師、看護師の過労状態は、周知のとおりです。

この問題は、病院単体の問題ではなく、国全体で緊急に検討しなければいけない問題です。

なお、この判決では、大学院であるXについて、労働者性を認定しないまま、Y病院の安全配慮義務違反を認定しました。

関西医科大学研修医(未払賃金)事件(最二小判平成17年6月3日・労判893号14頁)では、研修医について、病院開設者の指揮監督の下に医療行為等に従事したと評価できる場合は、研修医は労基法上の労働者と認められるとしています。

有期労働契約10(アンフィニ(仮処分)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

アンフィニ(仮処分)事件(東京高裁平成21年12月21日・労判1000号24頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を主な目的とする会社である。

Xらは、Y社と、派遣労働者として期間1年の有期雇用契約を締結し、A社に派遣されていたが、A社から発注量をほぼ半減させる旨の通告があったことを受けて、Y社は、Xらを含め全従業員との間で、順次個別に期間を半年とする雇用契約を締結し直し、Xらも同契約書に署名した。

Y社は、従業員らに対し、上積み条件のない希望退職の希望を通知したが、希望退職者がなかった。

そこで、Xらを含む22人の従業員を解雇した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

賃金の仮払いとして、5割の限度で仮払いを命じた。

地位保全の仮処分は認めなかった。

【判例のポイント】

1 Y社がXらに対してした解雇は、契約期間中の解雇であるから、やむを得ない事由(労働契約法17条1項、民法628条)があることが必要であるところ、A社からの発注額が減少したこと、相手方が解雇に先立ち、上積み条件なしに退職希望者を募集したが応募者がなかったこと、Y社が解雇の対象者を選定する基準として、(1)入社半年以内の者と(2)出勤率の低い者から順に合計26名に満つるまでとしたこと、Xらが同基準(2)に該当したことなどの事情は、これらをもってやむを得ない事由があるというに足りないものであることは、原決定の説示するとおりである
したがって、Xらに対する解雇は無効である。

一審においても、「やむを得ない事由」の有無について検討されています。

一審の判断の要旨は以下のとおり。

人員を削減する経営上の具体的必要性が明らかではないこと、希望退職も募集期間が短期間で解雇の回避に向けた努力をつくしたものとは認められないこと、解雇対象者の選定の際にかかる基準を設けること自体は一定の合理性を有するものの、事前に何ら従業員に対する説明がないことなどから、Y者の解雇には「やむを得ない事由」があるとは到底認められず、無効である。

本件雇止めは、実質的には整理解雇です。

整理解雇の要件の厳しさがわかりますね。

Y社としても、いろいろ考えたのだと思います。

実際に、希望退職の募集や未消化有給休暇の補償を行っています。

それでもまだまだ足りないというわけです。

会社としては、整理解雇の手続について、よほど念入りに準備しなければ、まず無効となると思ってくださいませ。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災15(大庄ほか事件)

おはようございます。

なんか、最近、ブログの閲覧者が急増しています

なんでだろう・・・?  ま、いいか。

今日は、午前中は、建物明渡の件で、現地調査へ行きます

午後は、掛川市役所で法律相談をし、夜は先輩弁護士2人と税理士のK先生とともにお食事会です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

大庄ほか事件(京都地裁平成22年5月25日・労判1011号35頁)

【事案の概要】

Y社は、大衆割烹店を全国展開している会社である。

Xは、大学卒業後、Y社に入社し、大衆割烹店で調理関係の業務に従事していたが、入社約4か月後に急性左心機能不全により死亡した(死亡当時24歳)。

Xの父母が、Xの死亡原因はY社での長時間労働にあると主張して、Y社に対しては不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、また、Y社の取締役であるZら4名に対しては不法行為または会社法429条1項に基づき、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xの死亡による損害につき、逸失利益4866万余円、慰謝料2300万円、葬祭料150万円等が認められ、労災保険の葬祭料およびY社が支払った死亡弔慰金を損益相殺のうえ、Y社およびZら4名に対し、Xの父母への支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの労働時間は、死亡前の1か月間では、総労働時間約245時間、時間外労働時間約103時間、2か月目では、総労働時間約284時間、時間外労働時間約116時間、3か月目では、総労働時間約314時間、時間外労働時間数約141時間、4か月目では、総労働時間約261時間、時間外労働時間約88時間となっており、恒常的な長時間労働となっていた。

2 Xの労働時間は、前記のとおり、4か月にわたって毎月80時間を超える長時間の時間外労働となっており、Xが従事していた仕事は調理場での仕事であり、立ち仕事であったことから肉体的に負担が大きかったといえることからすれば、Xの直接の原因となった心疾患は、業務に起因するものと評価でき、Y社の安全配慮義務違反等とXの死亡との間に相当因果関係を肯認することができる

3 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意するする義務を負う。そして、この義務に反した場合は、債務不履行を構成するとともに不法行為を構成する。

4 Y社の給与体系では、基本給ともいうべき最低支給額中に80時間の時間外労働が前提として組み込まれており、また、三六協定においては1か月100時間・回数6回を限度とする時間外労働を許容する定めがなされ、1か月300時間を超える異常ともいえる長時間労働が常態化されていたのであり、にもかかわらず何ら対策を取っていなかったY社には、労働者の生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠った不法行為上の責任がある

5 会社法429条1項は、株式会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ、取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には、第三者を保護するために、法律上特別に取締役に課した責任であるところ、労使関係は企業経営について不可欠なものであり、取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い、それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である

6 Y社代表取締役であるZほか4名の取締役らは、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っているところ、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、そのような体制に基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、Zらには悪意または重大な過失による任務懈怠があったとして、会社法429条1項に基づく責任を負う

7 なお、Zらは、Y社の規模や体制等からして、直接、Xの労働時間を把握・管理する立場ではなく、日ごろの長時間労働から判断して休憩、休日を取らせるなど具体的な措置をとる義務があったとは認められないため、民法709条の不法行為上の責任を負うとはいえない。

この事案は、会社自体の責任のほかに、会社法429条1項を適用して、会社の上部組織の役員に対して損害賠償責任を認めた点で注目すべき判決です。

会社としては、従業員の労働時間管理があまりにも杜撰であると、会社の責任のほかに、取締役の責任を問われる可能性があります。

もう一度、労働時間をチェックしてみてください。

労災が起こった後では、ほとんどやりようがありません。

事前の準備が大切です

労働時間16 (コミネコミュニケーションズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例について見てみましょう。

コミネコミュニケーションズ事件(東京地裁平成17年9月30日)

【事案の概要】

Y社は、広告代理業、印刷業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の営業社員として、その業務に従事していたが、入社から約4年後、Y社を退職した。

Xは、Y社に対し、時間外割増賃金を請求した。

Y社は、労働時間を算定し難いときに該当するとして、Xは、所定労働時間労働したものとみなされるべきであると主張し争った。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社は、労働時間を算定し難いときに該当するとして、労働者が所定労働時間労働したものとみなすべきであると主張するが、Y社は、本件就業規則において営業社員と他の社員とを区別することなく始業時刻、終業時刻を定めた上、IDカード及び就業状況月報等により、個々の社員の労働時間を管理していたのであるし、さらに、Xら営業社員に携帯電話が貸与され、Y社においてその利用状況を把握していたこと、Xら営業社員は、営業日報を作成して訪問先や訪問時間等を報告していたことを考えると、本件が、労基法38条の2第1項に規定する労働時間を算定し難いときに該当するとは認められない

2 被告は、時間外割増賃金に代わるものとして営業報奨金を支給したと主張する。しかしながら、営業報奨金は、営業に費やした時間は営業成果に比例するとの考えに基づくもので、その算定方法も、実際の労働時間とは関係なく、売上高、社内生産高、粗利額及び回収額から算定され、売掛金の回収が不能となった場合等は、営業報奨金の不支給に止まらず、ペナルティーとして基本給から一定額が控除されることもあるというのであって、およそ営業報奨金を時間外割増賃金に代わるものということはできない。

3 Y社は、所定の時間外割増賃金の支払をしなかったのであって、これらの事情にかんがみると、Y社に付加金の支払を命じることが相当というべきであるが、他方、Y社において、平成17年5月31日付けで、事業場外労働に関する協定の届出を行うなどしていること、Y社が、民事再生手続開始の申立てを行い、現在、再生計画に基づき、その履行をしている途上であることに加え、平成10年賃金規則手当のみならず、世帯の状況により支給額が異なる住宅手当についても、これを控除することなく、時間外割増賃金の算定の基礎としていることを考慮すると、本件における付加金の額は300万円とするのが相当である。

判決理由を読むと、そもそもY社では、以前は事業場外労働に関する労使協定が締結されていなかったようですね。

平成17年5月31日付けで労使協定の届出を行っており、遡及的に効力が生じるという主張なのでしょうか・・・?

会社側代理人としてはつらいところです。

このケースでは、時間外割増賃金として、495万余円、付加金として約60%にあたる300万円の支払いを認めました。

Y社が民事再生中であったこと、(たまたま?)賃金規則で通常よりも時間外割増賃金の算定基礎となる金額が多かったことを理由に付加金の減額が認められました。

とはいえ、Y社としては、Xに対し約800万円を支払わなければなりません。

やはり、きちんと事前に対策を講じる必要性を強く感じますね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労災14(九電工事件)

おはようございます。

今日は、午前中、遺産分割調停。終了後、速攻で浜松の裁判所へ移動し、午後いっぱい証人尋問です

そのため、終日、事務所におりません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災についての裁判例を見てみましょう。

九電工事件(福岡地裁平成21年12月2日・労判999号14頁)

【事案の概要】

Y社は、電気通信工事等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、空調衛生施設工事等の現場監督業務に従事していた者である。

Xは、平成16年9月6日、自殺した。

本件は、X(死亡当時30歳)がY社の安全配慮義務違反により長時間労働等の過重な業務に従事させられた結果、うつ病を発症して自殺したと主張して、遺族である原告が、Y社に対し損害賠償等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、逸失利益4451万余円、慰謝料2400万円等を認め、加えて原告がY社の業務錠災害補償規程に基づきなした弔慰金3000万円の請求も認め、Y社に対し、合計9905万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 うつ病の発症原因の判断については、医学的に、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が決まり、環境由来のストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に個体側の脆弱性が大きければ環境由来のストレスが小さくても破綻が生じるというストレス-脆弱性理論が用いられていることから、業務と本件精神障害との間の相当因果関係の有無の判断に当たっては、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因を総合考慮して判断するのが相当である

2 Xは、本件工事に携わった平成15年8月以降、日中は現場巡視や元請、下請会社との協議・連絡、現場作業員への対応に追われ、午後5時以降に時間と労力を要する施工図の作成・修正作業を行うことを余儀なくされ、平成16年7月までの1年間に月100時間超の過重な時間外労働に従事したことによって著しい肉体的・心理的負荷を受け、十分な急速を取れずに疲労を蓄積させた結果、本件精神障害を発症し、それに基づく自殺衝動によって本件自殺に及んだというべきであって、Xが従事した業務と本件自殺との間に相当因果関係があることは明らかである。

3 Y社は、労働時間について自己申告制を採っていたものであるから、厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13.4.6)に照らし、長時間労働が続いていたXに対し、労働時間の実態を正しく記録し適正に自己申告を行うことなどについて十分に説明するとともに、必要に応じて自己申告による労働時間が実際の労働時間と合致するかどうかの実態調査を実施するなどし、Xが過剰な時間外労働をすることを余儀なくされ、その健康状態を悪化することがないように注意すべき義務があったというべきであり、これを怠り、Xの長時間労働の状況を何ら是正しないで放置していたY社には不法行為を構成する注意義務違反があったといえ、またY社には本件結果の予見可能性があった。

4 Xの妻らは、Xの異変に気づいていたにもかかわらず病院を受診させるなどの対応をとっていなかったところ、うつ病の発症や治療の要否の判断は容易ではなく、Xや妻がうつ病に関する十分な知識を有していたとも認められず、むしろXの就労状況からすれば、使用者であるY社が当然に労働時間の抑制その他適切な処置をとるべきであったといえる等として、Y社主張の過失相殺が否定された

判例のポイント3の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」はこちら

これは、厚労省が、労働時間の把握に係る自己申告制の不適正な運用に伴い、過重な長時間労働等の問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況がみられることに照らし、策定したものです。

判例のポイント4は、従業員側としては参考にすべきポイントですね。

有期労働契約9(高嶺清掃事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

高嶺清掃事件(東京地裁平成21年9月30日・労判994号85頁)

【事案の概要】

Y社は、一般及び産業廃棄物収集運搬処理業等を営む会社である。

Y社の業務は、公社部門(財団法人東京都環境整備公社から委託を受けたゴミの収集業務及び清掃工場の水質検査のための検体収集業務)、産廃部門(民間企業等の委託による産業廃棄物の回収、運搬業務及び中間処理業務)、局収部門(東京23区清掃協議会から委託を受けた一般廃棄物の回収車の運転業務)の3部門に分かれていた。

Xは、Y社にアルバイト社員(雇用期間1年)として雇用され、同社公社部門の水質検査関連業務に従事していた。

Y社は、公社部門廃止に伴い、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社においては、正社員を上回る人数のアルバイト社員が正社員とほぼ同様の業務を遂行してきていること、アルバイト社員との契約更新手続は厳格にはなされていなかったこと、Y社から、期間満了により終了するというわけではないという程度の説明を受けたに過ぎないことから、Xの労働契約は、1年間の期間の定めのある契約ではあるものの、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態に至っているものと認めるが相当であり、Xの労働契約の期間満了による雇止めについては、客観的に合理的な理由を要するものと解するのが相当である。

2 Y社公社部門は、大幅な経常赤字(4197万円程度)を計上し、公社部門の赤字が他部門の経常黒字を大幅に減殺することが予想された。
Y社が、公社部門の廃止を決め、当該部門に所属していた従業員全員に相当する人数の人員整理を行うと判断したことには、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があったということができる。

3 とはいえ、公社部門以外の部門では経常利益を経常利益を計上しており、公社部門の従業員の大半は希望退職に応じ、退職しなかった正社員3名の雇用継続は確保できたこと等の事情からすると、さらなる人員整理をしなければ、倒産の危機が差し迫ったというような状態にあったとは認められない

4 Y社は、公社部門の廃止に伴う人員整理を行うに当たり、公社部門に限っていえば、まず派遣契約を打ち切り、正社員を含めて、希望退職の募集を行い、正社員2名とアルバイト社員のうちXを除く7名がこれに応じて退職し、希望退職に応じなかった正社員3名の雇用を継続し、これに応じなかったXを雇止めしたものである。
しかしながら、Y社は、Xの雇止めを回避するために、公社部門以外の2部門については、派遣契約や労働者供給契約を打ち切っていない。Y社が公社部門に限っていえば、派遣契約を打ち切っていることを踏まえれば、かかる一貫しない措置の合理性は乏しいものと言わざるを得ない。

5 希望退職の募集は、解雇回避のために有効な手段であったと考えられるが、Y社は、公社部門以外の部門については希望退職の募集を行っていない。Y社の業務は3部門に分かれていたものの、事務職を除けば、3部門を通じて、正社員もアルバイト社員も概ね類似の業務に従事していたものであり、従事する業務や従業員のの能力・適性等との関係で、各部門と従業員の間の関連性や非代替性は希薄であったものと認められること等から、Y社が公社以外の部門について、希望退職を募集しなかった措置の合理性も乏しいと言わざるを得ない
また、Xの従前の業務遂行実績に照らせば、希望退職によって不足が生じた他の部門にXを配置換えすることに特段の不都合があったものとも認められない。

6 Y社は、再三にわたり再就職の斡旋を行ったと主張するが、飽くまで退職を前提にした提案であり、再就職先や再就職後の身分等の内容も具体性を欠き、Y社での雇用継続が確保されたのと同視しるような提案を行ったとは認められないから、これをもって、雇止めの回避努力義務を尽くしたと評価することはできない

7 X以外のアルバイト社員については1年間の定めがあって、アルバイト社員の平均的な勤続年数はXのそれと比して短く、Xのように期間の定めのない契約と異ならない状態には至っていない者や、雇用継続の合理的な期待が認められない者も相当数いた可能性が否定できないから、Y社がそうした社員の雇止めを検討することも考えられるところである。
以上の事情を考慮すると、Xが雇止めの対象とされた人選について合理性があるとはいえない

非常に参考になる裁判例です。

雇止めの理由が、実質的には整理解雇と異ならない場合です。

判決理由を読んでいると、この会社は、顧問の弁護士なり社労士にちゃんと相談して、ある程度慎重に手続を進めていたように感じます。

それでも、裁判所は、雇止めを認めませんでした。

一言でいえば、「おしい」という感じです。

会社を擁護するわけではありませんが、手続としてめちゃくちゃなことをやっているとは思いません。

ただ、整理解雇の要件は、それほどまでに厳しいということです。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

管理監督者16(稲沢市(消防吏員・深夜勤務手当等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

稲沢市(消防吏員・深夜勤務手当等)事件(名古屋高裁平成21年11月11日・労判1003号48頁)

【事案の概要】

Xらは、Y市の消防吏員であり、主幹または副主幹として管理職手当を支給されていた。

Y市は、Xらの深夜割増賃金は、管理職手当に含まれるとの前提で別途深夜割増賃金を支払っておらず、また、仮眠時間中の火災出勤等による所定勤務時間外の勤務についても、割増賃金を支払っていなかった。

Xらは、Y市に対し、平成12年度から平成19年度の勤務について、労基法上の深夜割増賃金、時間外割増賃金と、市条例に基づく時間外勤務手当の支払い等を求めた。

Y市は、給与条例上の管理職手当は深夜割増分を含んでいるから同割増分は弁済済みであるし、Xらは、労基法41条2号の管理監督者であるから時間外割増賃金請求には理由がないと主張するとともに、あわせて、2年の消滅時効の援用を主張した。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、深夜、時間外割増賃金等の支払いを命じた。

2年の消滅時効を認めた。

【判例のポイント】

1 給与条例10条1項の「管理又は監督の地位にある職員」及び同条3項の「第1項に規定する職員」はいずれも労基法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法上の管理監督者)と同義と解するのが相当である

2 労基法の管理監督者の意義については、労基法41条2号が管理監督者に対しては同法の定める労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないものとしている趣旨が、管理監督者は、その職務上の性質や経営上の必要から、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような重要な職務と責任、権限を付与され、実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあり、その一方で、賃金等の待遇面で他の一般の従業員に比してその地位に相応しい優遇措置が講じられていることや、自己の労働時間を自ら管理できることから、労基法の労働時間等に関する規制を及ぼさなくてもその保護に欠けるところはないと考えられることによるものと解されることから、これに基づいて判断することが必要である

3 具体的に、当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、経営や労務管理等に関する重要事項にどの程度関与しているか、出退勤を管理されることなく、勤務時間についてある程度の自由が認められているか、給与や手当等においてその地位と職責に相応しい待遇がなされているか等について検討し、実質的、総合的に判断すべきものということができる。したがって、いわゆる管理職手当が支払われているとしても、そのことだけをもって、その労働者を管理監督者と認めることはできない

4 Xらは、組織上管理職の一端を担い、自ら指揮命令を行い、タイムカード管理を受けなかったこと、管理職手当の額は管理監督者としての職務内容や職責に見合った額であることが認められる。
他方、所定勤務時間が厳格に定められ、場所的にも一定の拘束を受けるなど、その勤務態様は労働時間の規制になじむものであること、人事関係等の決裁権限を有さず、重要な意思決定に関与することもなかったこと、むしろ、部下である一般の消防吏員と一体となって、同様の職務に従事していたこと、管理職手当の額はさほど優遇されているとはいえないことからすると、Xらは、管理監督者には該当しない。

5 給与条例上の管理職手当支給対象者ではない職員に管理職手当を支給すると定めた本件給与規則は、Y市の給与条例に違反するものであり、Xらが得た管理職手当は不当利得となるから深夜割増賃金債務の有効な弁済とは認められないし、本来支給されるべきものでなかったとすれば、管理職手当を名目の異なる他の手当の支給に振り替えて、結果的に適法下しようとすることも給与条例主義に反するとされ、Xらは不当利得の返還義務を負うが、労基法24条の趣旨に照らし相殺は許されない

判例のポイント5は、特徴的ですね。

公務員ならではの理由付けです。

管理監督者性に関する判断は、通常通りですね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

労災13(和歌山銀行事件)

おはようございます。

今日は、午前中1件打合せです。

予定では、午後いっぱい証人尋問だったのですが、裁判官の体調不良により延期となりました

神様・・・ありがとう。

ちょうどこちらも体調不良だったのでよかったです

今日も一日がんばります!!

今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

和歌山銀行事件
(和歌山地裁平成22年1月12日・労判1004号166頁)

【事案の概要】

Xは、平成10年2月、Y社のA支店からB支店に転勤し、支店長代理に就任した。

XがA支店時代の不祥事が発火したことにより、同年6月に貸付係長に降格となり、翌7月に脳出血(右被殻出血)を発症し、左上下肢不全麻痺の後遺障害を残した。

Xは、現在、障害等級2級に認定を受け、障害者年金を受給している。

Xは、本件疾病により後遺障害を残しているとして、平成15年12月、労災保険法に基づき、橋本労基署長に対し、障害補償給付の請求をしたが、同署長は、これを支給しない旨の処分をした。

【裁判所の判断】

橋本労基署長による障害補償給付不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づく補償は、労働者の業務上の災害に対して行われるものであり、業務上の疾病に当たるためには、業務と疾病の間に相当因果関係があることが必要であると解される。そして、労災保険制度が労働基準法の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすると、相当因果関係が認められるには、当該疾病が、当該業務に内在する危険が現実化したものと評価しうるものであることが必要であると解するのが相当である

2 脳血管疾患の発症は、血管病変、動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態が前提となり、これが長い年月をかけて徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり、発症に至るものとされており、基礎的病態の形成、進行及び増悪には、加齢、食生活、生活環境等の日常生活における諸要因や遺伝等の個人に内在する要因が密接に関連するとされている。このような医学的知見を前提にすると、脳血管疾患の発症について業務との間に相当因果関係が認められるには、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等の基礎的病態が自然的経過を超えて著しく増悪し、脳血管疾患が発症したと認められる必要があり、脳血管疾患の発症の原因のうち業務が相対的に有力な原因であることが必要であると解するのが相当である

3 本件疾病発症から6か月前までのXの労働時間は、発症前3か月目(この月は連休で休日が多かった事情がある。)以外は、すべて時間外労働時間が80時間を超えており、平均の時間外労働時間を見ても、80時間を超える月が多く、80時間を超えない場合でも70時間を超えている。そうすると、本件発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働があったといえる。よって、新認定基準によると、Xの業務と本件疾病との関連性が強いと評価することができる。

4 Xは、本件疾病発症の6か月前までの間に、まず平成10年2月付けでA支店からB支店に転勤し、初めて支店長代理に就任したが、まもなくA支店時代の不祥事が発覚し、同年6月8日付けで降格処分を受けて、B支店の貸付係長に就任しており、短期間の内に2度の異動があり、降格処分まで受けている。ところで、支店長代理の業務や貸付部門の業務は、Xにとって初めての経験で責任も重く、不慣れな業務による精神的負担があったと考えられる上記降格処分についても、これが17人しか従業員のいないB支店内でなされたことも考慮すると、降格処分によるXへの精神的負荷は相当大きかったと考えられるうえ、降格処分前にも度重なる本店への呼び出しや、本社の営業推進部の部長等による責任追及により、Xが自らの地位等に大きな不安を抱いたことが十分考えられるから、これらによるXへの精神的負荷も大きかったと考えられる

5 確かにXには、高血圧、肥満、喫煙等本件疾病の原因となりうる私的リスクファクターがあり、本件疾病発症の前日まで韓国旅行をしていたが、これらはいずれも本件発症のリスクを高めたとは考えられないから、本件疾病の主要な要因であったとはいえない。

有期労働契約8(ドコモ・サービス(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

ドコモ・サービス(雇止め)事件(東京地裁平成22年3月30日・労判1010号51頁)

【事案の概要】

Y社は、NTTドコモ社の委託を受けて、関東甲信越地方の携帯電話料金の回収業務を行う会社である。

Xは、Y社との間で、契約期間1年の定めのある委嘱契約を締結し、携帯電話料金の回収業務を行ってきた。同契約は、これまで5回更新されている。

Xの賃金は、基本給およびインセンティブ(回収額に応じて支給される野能率給)などにより構成されていた。

Y社は、インセンティブを廃止を決定し、数回にわたり説明会を開き、Xらに対し、その廃止に伴う補償措置などの説明をした。

具体的には、廃止により失われる賃金などについては一定の補償措置をとる、その主なものは一時金の支給、基本給の増額、退職金積立制度や業績評価による昇給の導入などである。

しかし、Xは、Y社の説明に納得せず、インセンティブ廃止等に合意しない旨を回答した。

そこで、Y社は、Xを雇用期間満了により退職をしたものとして雇止めをした。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 実質的に期間の定めのない契約と変わりがないものとは認められないが、XとY社の間の雇用期間を1年とする契約は、期間満了1か月前までに双方から何らの意思表示がないときは更新されると定められていたこと、外勤パート従業員制度見直しの説明会において、当時の東京料金センター所長が、外勤パート従業員であった者に対し、60歳に達するまで契約更新ができると述べていたこと、Xは、これまで5回更新され、意思に反して更新されなかった者はいないこと、などの事実からすると、Xの雇用は、ある程度継続が期待されたものというべきであり、本件雇止めには、解雇権濫用法理の類推適用がある

2 インセンティブ廃止等の必要性については、廃止の必要性があるとのY社の判断を直ちに不合理ということはできないが、回収コストの削減(Xらの賃金減額)もその廃止等の目的であったといえるから、必要性が認められるとしても、これに対する補償措置には相当高度の合理性が要求される

3 補償措置等の合理性については、Y社が提案した補償措置などを全体的に観察すると、インセンティブの支給額が年々減少するという見通しに基づく将来の年収(試算)をも下回っており、平成17年、18年度の当期純利益が10億円を超えているY社の財務状況において、Xがこれに納得しがたいのはやむを得ないものと考えられるから、(Y社の試算が正しいとしても)補償措置等の相当高度の合理性があるということはできない。

4 手段・経緯の合理性については、Y社は、Xがインセンティブの廃止などに合意しない場合でも、就業規則や給与規程などを変更するなどして、Y社の目的であるXらの賃金減額を実現できたと考えられるところ、そのような方法をとらず、Y社の提案に合意しないXを、雇用期間満了による退職と扱って雇止めするのは、雇用期間満了の機会を捉えてY社から排除したものと認められるのであり、手段・経緯に合理性を欠く。

このケースは、労働条件の変更に応じないことを理由とする、有期雇用の嘱託社員に対する雇止めの事案です。

判例のポイント4は、非常に参考になります。

また、会社としては補償措置を講じたからいいではないか、と思いたいところですが、その補償措置が十分でないと判断される可能性があります。

会社側とすれば、程度が難しいところですね。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。