おはようございます。
さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。
日本ヒルトンホテル事件(東京高裁平成14年11月26日・労判843号20頁)
【事案の概要】
Y社は、ホテル経営等を目的として設立された会社であり、ホテル「ヒルトン東京」等の経営を行っている。
Xらは、有料職業紹介事業を営む配膳会に登録され、その紹介を受けて、Y社に雇用され、ヒルトンホテルにおける厨房での食器の洗浄及び管理業務に従事していた。
Y社は、バブル崩壊後のビジネス需要や消費減退により経営が悪化したため、平成11年春に正社員の労働組合と交渉し、ボーナス減額、特別休暇の削減の同意を得るなどしたが、配膳人に対しても、労働組合との団体交渉を経たうえで、通知書を交付して、労働条件の引下げを通知した。
これに対し、通知書を交付された配膳人179名のうち95%に当たる170名は、労働条件の変更に同意した。Xを含む配膳人は、労働条件変更を争う権利(別途訴訟で争う権利)を留保しつつY社の示した労働条件のもとに就労することを承諾するとY社に通知した(異議留保付き承諾の意思表示)が、Y社は、Xらを雇止めした。
Xらは、Y社に対し、従業員としての仮の地位を定める仮処分を申し立てるとともに、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、慰謝料の支払いを求める訴訟を提起した。
【裁判所の判断】
雇止めは有効。
【判例のポイント】
1 (1)Xらは、本件雇止めまでいずれも約14年間という長期間にわたりY社との間の日々雇用の関係を継続してきたこと、(2)Y社も、資格規定を定めるなど配膳人の中に常用的日々雇用労働者が存在することを認めるとともに、Xらを常勤者等に指定したこと、(3)Xらは、週5日勤務を継続していたこと、(4)Y社と組合は、Xら組合員の勤務条件に関して、交渉を定期的に行い、常用的日々雇用労働者について他の配膳人より高い基準での合意をしてきたこと、(5)本件雇止め当時、XらにおいてY社と同程度ないしそれ以上の条件で、他のホテルにスチュワードとして勤務することは困難であったこと等の事情が認められ、これらの事情を総合すると、常用的日々雇用労働者に該当するXらとY社の間の雇用関係においては、雇用関係に雇用労働者に該当するXらとY社の関係の雇用関係においては、雇用関係にある程度の継続が期待されていたものであり、Xらにおけるこの期待は、法的保護に値し、このようなXらの雇止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されない。
2 XらとY社の間の雇用関係が簡易な採用手続で開始された日々雇用の関係であること、ある日時における勤務は、Xらが希望しY社が採用して初めて決定するものであること、Xらは配膳人からスチュワード正社員になる道を選択せず、配膳人であることを望んだこと等のXらとY社の間の雇用関係の実態に照らすと、本件雇止めの効力を判断する基準は、期間の定めのない雇用契約を締結している労働者について解雇の効力を判断する基準と同一ではなく、そこには自ずから合理的な差異がある。
3 Y社が、配膳人に対する労働条件を本件通知書の内容に従って変更することには経営上の必要性が認められ、その不利益変更の程度や組合との間で必要な交渉を行っていること、配膳人のうち95%に相当する者の同意が得られていること等の事情を総合すれば、本件通知書に基づく労働条件の変更には合理性が認められるというべきであり、Y社が日々雇用する配膳人に対し、将来的に変更後の労働条件を適用して就労させることは許されるものというべきである。
4 XらとY社は、日々個別の雇用契約を締結している関係にあったのであるから、本件労働条件変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件によるY社の雇用契約更新の申込みは有効である。
5 Yらの本件異議留保付き承諾は、Y社の変更後の条件による雇用契約更新の申込みに基づくY社とXらの間の合意は成立しないとして後日争うことを明確に示すものであり、Y社の申込みを拒絶したものといわざるを得ない。
6 本件労働条件変更は、変更の必要性、変更の程度からやむを得ないものと認められ、合理的理由があること等の事情によれば、本件雇止めには社会通念上相当と認められる合理的理由が認められ、本件雇止めは有効である。
一審では、雇止めは無効とされています。
一審は、上記判例のポイント1のような事情は、Xら配膳人の労働条件の切下げを正当化する理由とはなりえても、直ちにXらに対する本件雇止めを正当化するに足る合理的な理由であるとは認めがたいと判断しました。
また、一審は、異議留保付承諾をしたことを理由に雇止めをすることは許されないとしています。
このような理由で雇止めが許されるならば、Y社に、配膳人に対し、必要と判断した場合はいつでも配膳人にとって不利益となる労働条件の変更を一方的に行うことができ、これに同意しない者については、同意しなかったとの理由だけで雇用契約関係を打ち切ることが許されるからです。
いわゆる変更解約告知の問題です。
このような一審の判断とは異なり、上記のとおり、高裁は雇止めを有効と判断しました。
会社側が手続を踏んで雇止めにしたことを評価したものだと思います。
会社側、労働者側ともに、参考にすべき裁判例ですね。
有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。
事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。