おはようございます。
さて、今日は、子会社解散と同族企業グループ内での雇用責任に関する裁判例を見てみましょう。
ウップスほか事件(札幌地裁平成22年6月3日・労判1012号43頁)
【事案の概要】
Y社は、生コンクリートの製造販売事業、コンクリート製品の製造販売事業等を主な目的とする会社であり、同族会社である。
Y社は、いわゆるアイザワグループの中核的な企業である。
Z社は、貨物自動車運送事業等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ企業となった後は、同グループの運送部門として運営されてきた。
A社は、生コンクリート及びコンクリート製品の製造、販売とその輸送業務等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ会社である。
Xは、Z社に雇用され、コンクリートミキサー車のミキシングオペレーター(MO)としての業務に従事してきた。
Z社に雇用されている従業員のうち、Xを含む33名のMOは、全員がA社に出向する形で労務を提供していた。
Z社は、Xを、ミーティングでの不規則発言や人事担当者に対する威圧的言動等を理由に懲戒解雇した(第1次解雇)。
Z社は、Xを相手方として、労働審判を申し立て、その中で、Xを普通解雇にする旨の意思表示をした(第2次解雇)。
その後、Z社は、Xに対し、Z社の解散を理由として解雇した(第3次解雇)。
A社においてMO業務を行っていた従業員については、Xを除いた大部分の従業員が、A社のセンター長が設立したB会社に雇用され、A社におけるMO業務に従事するようになった。
Xは、第1次解雇ないし第3次解雇はいずれも無効であるとして、地位確認等を求めた。
【裁判所の判断】
いずれの解雇も無効。
【判例のポイント】
1 Xは、労働契約締結にあたり、Z社の人間とは一切接触がなかったこと、労働条件もA社により決定され、A社の指揮命令・監督の下で労務が提供されていたこと、人件費は実質的にA社が負担していたこと、解雇が実質的にはZ社ないしY社の判断で行われていたことからすると、解雇通知と解雇理由証明書がZ社名義で発行されたほかは、Z社の実質的な関与をうかがわせるような事情が見当たらず、A社を雇用主とし、Xをその労働者とする事実上の使用従属関係が存在していたことは明らかというべきである。
2 Z社からの出向は形式的なもので、Z社はXらMOとの関係では、給与の支払いと明細書の発行等を行う代行機関にすぎなかったのであり、出向関係が実質的に存在しているとはいえないから、客観的な事実関係から推認し得るXとA社の実質的な合理的意思解釈としては、XとA社との間の黙示の労働契約の成立が認められるというべきであり、Xは、A社のMOとして採用され、A社との間で労働契約を締結したものと認めるのが相当である。
3 仮処分事件や別訴において、XがZ社を雇用主とする前提で解雇無効を主張していたとしても、形式的な雇用主に対応したものであって、Z社との労働契約関係とA社とのそれが両立しえないものではない。
4 Xの言動はただちに懲戒事由に当たるとは言いがたく、これをもって懲戒解雇とすることもできないから、第1次解雇、第2次解雇は無効である。
5 第3次解雇は、A社との実質的な労働契約関係の下での形式的な雇用主にすぎないZ社の解散が、XとA社との間の実質的な労働契約関係を解消する理由とはならないというべきであり、A社において、Xを解雇しなければならない具体的な経営上の必要性については、これを認めるに足りる具体的な主張立証はない。
したがって、第3次解雇は、XとA社との間の労働契約関係に影響を及ぼすものとはいえないというべきである。
ざっくり言うと、「形式」よりも「実質」を重視したということです。
経営主体の移転後に、新たな経営主体との労働契約関係の存続ないし承継が争われるケースにおいて、移転前と移転後の経営主体の実質的同一性を認めた裁判例はあまりありません。
本件では、当初から「実質的な労働契約関係」がA社にあるとして、労働契約の承継の問題とせず、A社の雇用責任を認めています。
これは、Z社、A社を含む関係企業すべてがY社を中心としたグループ企業であり、各社の経営管理、人事管理をY社に管理されているなど、Z社が事実上企業の一部門にすぎない状態であったという事情が重視されたものであると考えられます。
非常にめずらしいケースですが、いつかどこかで参考になるでしょう。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。