おはようございます。
さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。
Aワールド事件(東京地裁平成20年3月24日・労判962号14頁)
【事案の概要】
Y社は、葬祭用等の仕出し料理の調理、営業、配達等の事業を行う会社である。
Xは、Y社に入社し、その後、営業課長となった。
Xの業務内容は、葬儀社への営業活動、葬儀の料理の見積りや打合せ、集金、取引先からのクレーム対応等であった。
Xは、通夜現場に自動車で煮物用の皿を届けた帰路、気分が悪くなり、救急車で病院に搬送され、くも膜下出血と診断され、入院治療を受けたが、その後、死亡した(死亡当時47歳)。
【裁判所の判断】
三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定
【判例のポイント】
1 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等にについて行われるのであり、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である。そして、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。
2 Y社の所定労働時間は午前10時~午後7時30分(休憩90分)の1日8時間であったところ、タイムカードには出勤時刻の打刻はあるが退勤時刻の打刻はなく、一律に認定もできず、Xの時間外労働時間数は明確な計算が困難であるが、明確に算定できるもの(労働実態およびタイムカードから推計)に相当の労働時間数を加算したものと考えるのが、早朝出勤や通夜等の後片付け手伝いなども行っていたXの労働実態に照らして相当である。
3 業績を上げるためには、Xが上記のような勤務形態をとることを余議なくされていたと評価することが可能であり、過重な時間外労働をし、休日取得が不十分であったことは、Xの業務に内在した問題であって、相当に過重な労働実態は、本件会社におけるXの業務に内在する危険と評価できる。
4 Xは、相当過重な業務への従事により、血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件疾病を発症したと評価できるから、本件疾病発症と死亡は業務に起因すると認められ、業務に起因しないことを前提にして行われた本件不支給処分は違法である。
判例のポイント2は、労働者側としては、使える理屈です。
明確に時間外労働時間が算出できない場合でも、あきらめる必要はありません。
なお、この裁判例の興味深いのは、2名の医師および教授による意見は、いずれもXの業務と本件疾病発症との間には業務起因性が認められないとし、本件発症は、Xのリスクファクター(年齢、喫煙、飲酒)による自然的な経過によるものであると結論づけているにもかかわらず、以下のとおり判断し、業務起因性を肯定した点です。
「Xについては、年齢、喫煙、飲酒というリスクファクターが存在することは確かである。しかし、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見の内容を見れば、上記のリスクファクターが本件疾病発症の直接の原因であるとまで断定するだけの具体的な根拠がある訳ではなく、結局、業務の過重性との相対的な関係において、そのリスクファクターを論じているに過ぎないのであって、XのY社における時間外労働時間数並びに休日及び連続勤務に関する具体的な事実と業務の過重性に関する評価に鑑みると、両意見の結論はその前提を失うものであるといわなければならない。したがって、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見は、上記判断を左右するものではない。」
要するに、医師や教授の意見書で業務起因性を否定されても、簡単にあきらめてはいけないということです。
労働者側にとっては、勇気づけられますね。