Daily Archives: 2010年12月22日

解雇18(静岡第一テレビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効でない懲戒解雇の不法行為該当性について判断した裁判例を見てみましょう。

静岡第一テレビ事件(静岡地裁平成17年1月18日・労判893号135頁)

【事案の概要】

Y社は、放送法によるテレビジョンその他の一般放送事業等を営む株式会社である。

Xは、Y社に雇用され、その後、本社営業部長や編成部ライブラリー室担当部長の職にあった者である。

Xは、Y社から解雇されたものの、その後、当該解雇は相当性を欠くとして無効とする判決の確定により、Y社に復職した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は、その理由とされた就業規則違反の事実が認められず、さらに、平等性、相当性及び適正手続を欠いている違法な処分であり、不法行為を構成すると主張した。

【裁判所の判断】

当該解雇は不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇(諭旨解雇を含む)は、・・・それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

2 しかしながら、権利濫用の法理は、その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではないから、懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても、そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできず、懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては、個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである

3 そして、従業員に対する懲戒は、当該従業員を雇用している使用者が、行為の非違性の程度、企業に与えた損害の有無、程度等を総合的に考慮して判断するものであって、どのような懲戒処分を行うのかは、自ずから制約はあるものの、当該事案に対する使用者の評価、判断と裁量に委ねられていること、他方、雇用契約は労働者の生活の基盤をなしており、使用者の懲戒権の行使として行われる重大な制裁罰としての懲戒解雇は、被用者である労働者の生活等に多大な影響を及ぼすことから、特に慎重にすべきことが雇用契約上予定されていると解されることを対比勘案するならば、懲戒解雇が不法行為に該当するというためには、使用者が行った懲戒解雇が不当、不合理であるというだけでは足らず、懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら、あえて懲戒解雇をしたような場合、通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇すべき事由のないことが容易に判明したのに、杜撰な調査、弁明の不聴取等によって非違事実(懲戒解雇事由が複数あるときは主要な非違事実)を誤認し、その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合、あるいは上記のような使用者の裁量を考慮してもなお、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する必要があり、そのような事実関係が認められて初めて、その懲戒解雇の効力が否定されるだけでなく、不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるというべきである

4 本件解雇は、Xに軽微とはいえない就業規則違反の事実があったこと、Xおよび関係者に対する事情聴取等を経たうえで行われた等に照らせば、Y社の解雇の相当性判断に明白かつ重大な過失があったとはいえない。

「解雇権の濫用にあたるか」という問題と「不法行為に該当するか」という問題は別の問題ですので、当然、要件は異なります。

この裁判例は、具体的に有効でない解雇が不法行為に該当する場合の要件について判断しています。

「懲戒解雇の相当性の判断において、明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合」といっています。

また、その具体例もあげています。

会社としては、非常に参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。