Daily Archives: 2010年12月19日

労災20(康正産業事件)

おはようございます。

現在、自宅で尋問の準備中です

今日は、終日、浜松で弁護団会議です

明日、浜松の裁判所で証人尋問があり、そのための最終確認です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

康正産業事件(鹿児島地裁平成22年2月16日・労判1004号77頁)

【事案の概要】

Y社は、飲食店及びレストランの経営等を目的とする会社で、鹿児島県内を中心とする九州地方において、「ふぁみり庵」(和食レストラン)、「はいから亭」(焼肉レストラン)、「寿しまどか」(回転寿司)等の業態で、飲食店約50店舗を経営している。

Xは、Y社が経営する飲食店(札元店)の支配人をしていたが、自宅で就寝中に心室細動を発症し低酸素脳症となった(発症当時30歳)。Xは、現在に至るまで意識不明で寝たきりの状態であり、両親が自宅において24時間態勢で介護を行っている

Xの両親は、Xの本件心室細動発症・低酸素脳症による完全麻痺が、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いたためであるとして損害賠償を求めた。

Xの労働時間は、本件発症前1か月間で344時間15分、本件発症前2か月から6か月で月平均368時間30分であった。法定労働時間を超える時間外労働は、それぞれ176時間15分、200時間30分に上り、休日以外の勤務日における拘束時間は、平均して1日当たり12時間を超える。また、休日も丸1日の休みが取れることはほとんどなく、本件発症前、Xは203日間連続して出勤していた。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、後遺障害および介護状況等に基づき算定し、過失相殺、労災保険給付を損益相殺をするなどしたうえで、1億8000万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの総労働時間及び時間外労働時間の長さ、休息の不足、勤務時間中の業務量の多さ等に照らせば、本件発症直前のXには、心身の疲労が相当程度蓄積していたものと認められる。また、札元店では、人で不足にもかかわらず人員が補充されず、かつ人件費の制約をも課せられていたことにより、正社員3名の中でも特にX1人に業務の負担が集中していた上、売上や人件費の目標値達成を厳しく求められていながら、なかなかこれらを達成できずにいたのであるから、Xは、精神的にも過度の負担を受けていたといえる。
よって、Xの従事していた業務は、身体的にも精神的にも過重なものであったというべきである。

2 本件発症直前のXは時間外労働が月100時間を優に超える長時間労働に従事していたこと、この長時間労働によって相当程度の疲労の蓄積があったと認められること、人手不足とノルマ等の制約の中で、Xには精神的も過重な負荷がかかっていたと考えられること、業務による過重な負荷、特に長時間労働については、疲労の蓄積による心臓疾患発症への影響が指摘されていること、仕事のストレス要因は循環器疾患の発生に密接に関与するとされていること、Xには他に本件発症の原因となり得る基礎疾患等も認められないことなどを総合考慮すると、本件発症はXの従事していた過重な業務に内在する危険が現実化したものと推認するのが相当であり、Xの業務と本件発症との間には相当因果関係が認められるというべきである

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、上記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである

4 Y社においては、所定労働時間ないし法定労働時間という概念が極めて形骸化し、労働時間を管理する機能を有しない状態であったといわざるを得ない。
さらに、後述するとおりY社は正社員に対しては時間外労働に対する賃金も一切支払っていなかった。このことは、労働基準法の労働時間規制に対するY社の意識の低さを示すことはもちろんであるが、Y社にとって正社員の時間外労働が何らのコストも伴わないものであった以上、従業員、特に正社員の労働時間を人件費管理の観点から管理する必要性がなかったということにもつながっている。後述するような、Xの長時間労働に対する無関心ともいえるY社の姿勢は、正社員に対して一切の残業代を支払わないという労務体制にその根があるといっても過言ではない。

5 労働者は、一切の余暇を犠牲にして疲労の回復に努めることまでを求められるものではないとしても、一般の社会人として自己の健康の維持に配慮することが当然に期待されており、いかなる態様・程度の健康維持が求められるかは、当該労働者が提供する労務の内容、労働時間・賃金等の労働条件、労働者自身の健康状態等の諸要素に照らして、総合的に判断されるべきものである。本件では、そもそもXの労働が過重なものとなったことにつき、Y社に多分の非難可能性があることは前述のとおりであるが、その点を斟酌してもなお、Xの労働の実態、生活状況全般及び本件発症直前の健康状態等に照らせば、疲労が蓄積しているにもかかわらず睡眠時間を削って深夜にドライブや食事をするのは、健康維持の観点から労働者に合理的に期待される生活態度を逸脱しているというほかなく、当事者間の衡平を図る上では、このようなXの行動が本件発症に対して与えた影響を考慮せざるを得ない。
また、Xは本件発症に至るま