おはようございます。
さて、今日は、職場規律違反での解雇に関する裁判例を見てみましょう。
通販新聞社事件(東京地裁平成22年6月29日・労判1012号13頁)
【事案の概要】
Y社は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している会社である。
Xは、Y社との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。
Xは、A社との間で「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版について著作物印税契約を締結した。そして、Y社が作成して業界紙に掲載したグラフやランキング表を13項目にわたり本件書籍に使用した。
Xは、Y社代表者に原稿がほぼ完成したことを報告したところ、同人は特に何も言わなかった。また、同人に完成した本件書籍を渡した際も、同人は聞いた覚えがないと疑問を呈しながらも、「売れるかな」などと冗談を言って、とがめるような態度を示さなかった。
しかし、翌日、Y社代表者は、前日とは打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、本件書籍の回収を命じた。
そして、Y社代表者は、本件書籍の出版により、Y社の信用を損なったなどという理由で、Xに対し懲戒解雇を通告し、また、紙面にXが懲戒解雇された旨を社告として掲載し、同紙のウェブ版にも同様の記事を掲載した。
Xは、労働契約上の地位確認および賃金支払、不当な懲戒解雇ないし名誉棄損に基づく慰謝料、および謝罪広告の掲載を求めて提訴した。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は無効。
慰謝料として200万円の支払いを命じた。
Xの名誉回復措置として同紙1面に1回、同ウェブ版に1か月間の謝罪広告の掲載を命じた。
【判例のポイント】
1 Xが本件書籍を、通販業界の動向等を公平な立場から俯瞰的に執筆した本と説明していること、Y社代表者も、本件書籍の内容は問題がないと述べていること、Xは、「通販新聞執行役編集長」の肩書で本件書籍を執筆し、本件図表等の出典を明記していること、Xの印税収入は約20万円であり、約3か月をかけて仕事の報酬としてそれほど多額とはいえないことなどを考慮すると、Xは、本件書籍の執筆に際して、本来Y社に帰属すべき本件書籍の印税収入を私物化して経済的利益を図り、しかも、著作の名声を独占しようという身勝手な動機を有していたと認めることができない。また、前記のとおり、Xは、Y社代表者から、本件図表等の使用の許諾を得ていたと認めるのが相当であるから、Xが本件図表等を無断で使用したとは認められない。
そうだとすると、Xが本件図表等を本件書籍に使用したことは、Y社の社会的信用や企業秩序を害するものではないというべきであるから、本件の懲戒事由には該当しない。
2 本件懲戒事由該当事実は存在しないのに、Y社はこれを断行したから、Y社には不法行為が成立する。
3 また、本件社告等の内容が、Xの社会的評価を低下させるものであること、本件社告等が通販業界をはじめとして、広く公表されたことは明らかであり、名誉棄損の不法行為も成立する。
裁判所は、名誉棄損の違法性の重大さに加え、本件懲戒事由該当事実が存在しないことから、本件懲戒解雇自体の違法性もかなり重大なものというべきであると判断し、慰謝料200万円、謝罪広告を認めています。
従業員が、謝罪広告の掲載を求めたいと思う場合、どのような請求をすればよいか等、参考になる裁判例です。
会社としては、懲戒解雇のハードルの高さを認識する必要があります。
その意味では、参考になる裁判例です。
この事件は、控訴されていますので、高裁の判断が待たれます。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。