労災16(鳥取大学附属病院事件)

おはようございます。

今日は、午前中、銀行の方と打合せをし、午後は、島田で離婚調停。

夜は、異業種のみなさんと忘年会です

なかなか鼻水が止まりませんが、今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

鳥取大学附属病院事件(鳥取地裁平成21年10月16日・労判997号79頁)

【事案の概要】

Xは、医師免許取得後に、鳥取大学の大学院となっていたが、鳥取大学付属のY病院からアルバイト先の外部病院に向かう自動車運転中に、交通事故を起こし、死亡した(死亡当時34歳)。

Xの両親は、事故の原因は、XがY病院において演習名目で過重な勤務に従事させられ、過労状態で自動車を運転することを余議なくされたことにあるとして、Y病院に対し安全配慮義務違反または不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xの損害として、逸失利益1億0263円、慰謝料2000万円、葬祭料150万円の合計1億2413円を認めたが、6割の過失相殺を認め、さらに労災認定により支給された遺族一時金にかかる損益相殺を行ったうえで、弁護士費用を加えた2000万円9000円の支払いをY病院に命じた。

【判例のポイント】

1 Xの時間外業務従事時間は1週間平均40時間を超え、非常に長時間に及んでいたうえ、完全な休日は3か月間に3日間のみであって、Xの業務が量的に過重であったことは明らかである

2 Y病院の組織内で、Xを含む大学院生らが勤務医に比して重い責任を負担していたとは考えにくいものの、医療業務そのものの精神的負荷は基本的に大学院生らも勤務医と変わるものではないこと、経験等に劣る大学院生らにはより精神的、肉体的負荷がかかり得ること、当直における負担は、少なくとも肉体的には勤務医よりかなり重いものであったこと等から、Xの業務内容は一般の社会人が従事する業務に比して責任と緊張の強いものであったことは明らかである。

3 Xは、本件事故の直前に、長時間の業務等により極度に睡眠が不足し過労状態にあったと認められ、本件事故の原因はそのことによる居眠り運転にあったと認めるのが相当である。

4 Y病院は、Xが極度の疲労状態、睡眠不足状態に陥ることを回避すべきことを具体的な安全配慮義務として負っていたというべきところ、Xに、本件事故の直前1週間には極度の睡眠不足を招来するような態様で業務に従事させ、事故前日には徹夜の手術に従事させたものであって、安全配慮義務違反があり、これと本件事故との因果関係も認められる

5 安全配慮義務の発生が肯定される場合でも、その履行補助者に、当然に同様の不法行為上の注意義務が発生するものではない。そして、Xの指導に当たる立場にあった医局長に注意義務違反(過失)は認められないとして、Y病院の不法行為上の責任は否定した。

6 一般に心身の状態は当人が最も良く把握することができ、特に医師であるXは、一般人に比してよい正確に自己の心身の状態を把握し得たと考えられるところ、Xは、本件事故当日、極度の過労状態、睡眠不足にあり、その状態で自動車を運転することの危険性を認識し得たということができる。そして、本件事故当日、JRでは・・・特急列車が運行されており、Xが同日の緊急手術を終えた後、公共交通機関を利用して当直開始時刻までにアルバイト先の外部病院に赴くことは可能であり、徹夜明けとなる本件事故当日だけでも自家用車以外の交通手段を選択する余地は十分にあった。ところが、Xは、自らの判断で自動車を運転して外部病院に赴いたものであり、このことは本件事故の直接的原因となっている
また、Xは、数か月にわたる大学院生としての業務従事の経験から、Y病院における業務に加えてどの程度のアルバイト当直業務に従事することにより、自己がどの程度の過労状態となるかを、ある程度予測することが可能であったと考えられるところ、Xは、自らの希望によりアルバイト当直を続けていたものであり、むしろ医局長は、Xの希望よりアルバイトの割当てを抑えていたものであって、X自身のアルバイト当直希望もXの疲弊を増大させたということができる。 

医師、看護師の過労状態は、周知のとおりです。

この問題は、病院単体の問題ではなく、国全体で緊急に検討しなければいけない問題です。

なお、この判決では、大学院であるXについて、労働者性を認定しないまま、Y病院の安全配慮義務違反を認定しました。

関西医科大学研修医(未払賃金)事件(最二小判平成17年6月3日・労判893号14頁)では、研修医について、病院開設者の指揮監督の下に医療行為等に従事したと評価できる場合は、研修医は労基法上の労働者と認められるとしています。