Monthly Archives: 11月 2010

解雇15(ネスレ日本事件)

おはようございます。

さて、今日は、長期間経過後の懲戒処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

ネスレ日本事件(最高裁平成18年10月6日・労判925号11頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系食品メーカーである。

Xらは、Y社の従業員として工場に勤務していた。

Y社は、Xらを諭旨退職処分とし、退職願を提出すれば自己都合退職とし退職金全額を支給するが、提出しないときは懲戒解雇するとした。

Xらは、退職願を提出しなかったため、Y社から懲戒解雇された。

本件懲戒解雇の理由とされたのは、7年以上前の暴行、暴言、業務妨害などである。

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、Y社に対して労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 懲戒処分が本件事件から7年以上経過した後になされたことについて、Y社は、警察および検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから、これらの操作の結果を待って処分を検討することとしたという。
しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる

3 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない

最高裁判例です。

1審は、Y社のXらに対する諭旨退職処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとしました。

これに対し、原審は、事件発生から諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関による捜査の結果を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではないから、本件懲戒解雇は有効であるとしました。

原審(東京高裁)では、Y社の主張通りに判断されています。

不起訴処分の通知を受けてから懲戒処分をするまで1年程経過していますが・・・。

いずれにせよ、長期間経過後の懲戒処分が直ちに懲戒権の濫用となるわけではありません。

とはいえ、長期に及べば及ぶほど、懲戒処分に着手しないことの正当性はどんどん乏しくなっていきます。

労働判例百選[第8版]60では、以下のとおり解説されています。

濫用の成否については、長期の経過に至った諸般の事情や必要性を苦慮する必要があり、(1)長期の経過に至った必然性、(2)その間の当事者の姿勢、(3)長期の経過による企業秩序の形成、(4)長期の経過による事実関係の把握の困難などの要素について慎重に検討されるべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間12(変形労働時間制その5)

おはようございます。

さて、今日は、変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本レストランシステム(割増賃金等)事件(東京地裁平成22年4月7日・労判1002号85頁)

【事案の概要】
 Y社は、多業態型レストランチェーンの経営を主な目的とする会社である。Y社は、「洋麺屋五右衛門」「にんにくや五右衛門」「卵と私」などを経営している。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている。

Xは、Y社のアルバイト店員として、接客・調理を担当していた。

Xは、Y社に対し、未払残業代・賃金を請求した。

Y社は、「半月単位の変形労働時間制」を適法に導入しており、その点は労基署にも確認してもらったので、残業代の未払いはない、実労働時間はタイムカードではなくシフト表で把握しているので本給の未払いはない、と主張し争った。

【裁判所の判断】

未払残業代、未払時間給、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、変形労働時間制を採用していた旨主張する。しかしながら、Y社が採用していた変形労働時間制は就業規則によれば1か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を事前に定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もないから、変形労働時間制の適用があることを前提としたY社の主張は採用できない。

1か月単位の変形労働時間制の導入要件については、こちらを参照してください。

Y社(に限りませんが)としては、当日の来客数等に応じて、アルバイト従業員を臨機応変に使いたいと考えたのでしょう。

そのように考えるのは、使用者としては当然です。

ただ、残業代を支払いたくないからといって、要件を満たさないのに変形労働時間制を採用したのがまずかったわけです。

Y社が主張している労基署の確認ですが、労基署は、「就業規則にある1ヶ月単位の変形としては無効だが、実態としての半月単位の変形労働としては有効の可能性がある」と判断したそうです。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている以上、実態がどうであろうと関係ありません。

会社としては、できるだけ残業代を支払いたくないという気持ちはわかります。

でも、要件を満たしていないで、形だけ変形労働時間制を採用しても、いつか従業員から裁判を起こされます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

管理監督者14(チェーン店における管理監督者に関する通達)

おはようございます。

さて、今日は、少し古いですが、チェーン店における管理監督者に関する通達をチェックします。

多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について

この中で、具体的な判断要素を示した資料はこちらです(PDF)

日本マクドナルド事件判決を受けたものです。

注目すべきなのは、以下の文章です。

管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない

通常、裁判例を見ていると、タイムカード等により、労働時間を管理されている場合には、管理監督者性を否定する要素として考慮されています。

しかし、コトブキ事件判決で見たとおり、管理監督者であっても、午後10時以降の業務に対しては深夜労働の割増賃金を支払わなければいけません。

そのため、会社としては、何らかのかたちで午後10時以降の業務を管理しなければなりません。

裁判になり、従業員側から「労働時間を管理していたから管理監督者ではない」と主張された場合に、会社としては、この通達を反論の材料にすることが考えられます。

あくまで健康障害防止と深夜勤務の管理が目的であると。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

賃金5(日本セキュリティシステム事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。

日本セキュリティシステム事件(長野地裁佐久支部平成11年7月14日・労判770号98頁)

【判例のポイント】

1 Y社の賃金規定は、時間外手当および深夜手当について、基本給のみを基準とする旨の規定があるが、労基法37条に照らし、基準賃金に基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、常駐手当、食事手当を含めて算定すべきである

2 時間外手当及び深夜手当は、賃金台帳、タイムカード、現実の勤務を記載した警備勤務表に基づいて、就業規則に基づく賃金規定に定められた複雑な計算方法により算定すべきものであるところ、これらの書類はY社において所持し、XらはY社から交付された各月の給料明細書を所持しているに過ぎないから、Xらにおいて容易に算定することができないことは明らかである。このような場合、消滅時効中断の催告としては、具体的な金額及びその内訳について明示することまで要求するのは酷に過ぎ
請求者を明示し、債権の種類と支払期を特定して請求すれば時効中断のための催告として十分である

3 Xらは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、催告の手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも、権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。
その上、Xらには、給与明細書のほかは時間外手当、深夜手当を算出すべき資料がなく、時間外手当、深夜手当の計算に相当程度の準備期間を要することはY社においても十分に了知していたはずである。
このような経過のなかで、Y社が、提訴後2年4か月を経て時効を援用することは信義にもとり権利濫用として許されないものというべきである

このケースでは、裁判所は、Xらの請求を全面的に認容し、Y社に総額約3000万円の支払いを命じました。

参考になる点は、消滅時効中断の催告に関する点と消滅時効を援用することを権利濫用とした点です。

この裁判では、Xらは、在職当時の平成2年11月支払分から平成5年4月支払分までの間の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を請求しています。

とても参考になる裁判例ですね。

不法行為という主張と時効援用は権利濫用であるという主張は、従業員にとっては大きな武器になります。

会社にとっては、予め防御しておかなければいけない重要なポイントです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

管理監督者13(播州信用金庫事件)

おはようございます。

さて、今日は管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。

播州信用金庫事件(神戸地裁姫路支部平成20年2月8日・労判958号12頁)

【事案の概要】

Y社は、姫路市内に本店を置く信用金庫である。

Xは、Y社K支店の代理職にあり、店舗外に出て行う、いわゆる渉外業務の責任社であり、主として部下である渉外担当職員に対する指示・相談を行っていた。

K支店の管理職は、支店長、代理職のX、調査役という3名で構成されていた。

Xは、Y社退職後、Y社に対し、時間外割増賃金、付加金等の支払いを求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金(約350万円の支払いを命じた。

付加金として、100万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの出勤時刻や退勤時刻は、金庫の開閉という仕事があるため、それを全く自由に決められるということはなく、また、出社中に関しても、渉外担当職員に対する指示・相談という業務があること、Xの机が支店長の斜め前にあることからして、自由にいわゆる中抜けということができたとも考えられない。したがって、Xが自己の勤務時間について自由裁量を有していたとは評価することはできない。

2 Xが行っていた渉外担当職員に関する人事評価についての支店長に対する意見の伝達も、書面として残るものではないので、その重要性は高いとはいえず、また、かかる意見伝達が、制度的組織的なものであるとは認められない。また、Xが内勤業務に関し、調査役に対し、指揮命令していたことも認められない。更に、Xが参加していた経営者会議も懇親会という色彩が強く、Xが支店長不在の時、参加したことがある支店長会議も各支店の報告会というものである。そして、Xが支店長不在の時、2回ほど代行した残業命令という業務も、K支店にはタイムカードがなく、出勤簿に出勤退勤時刻が記載されていないことからして、形骸化していると評価できる。したがって、XがK支店の経営方針の決定や労務管理に関し、Y社経営者と一体的な立場にあったとは評価することはできない。

3 Xの給与を、時間外勤務手当等が支給されている調査役と比較するに、Xが、本俸、役付手当及び特別残業手当を併せて36万5000円であるのに対し、調査役が、本俸及び役付手当を併せて35万8000円であり、その差はわずか7000円であり、管理監督者たる地位にふさわしい給与が支給されているとは評価することができない

4 付加金については、付加金制度は、法114条に規定する金銭給付について、その支払を確保することを目的とした制裁的性質を基本とするものである。
すると、本件において、労働基準監督署が、Xが管理監督者に該当しないこと及びXの労働実態について、どこまで正確に認識した上でのことかは疑問ではあるが、臨店調査をした労働基準監督署がXに対する時間外勤務手当等不支給に関し、指導・是正勧告をしたことはないこと、及びX自身、Y社在職中は、自分に時間外勤務手当等が支給されないことに関し疑問を感じていなかったこと等、本件に現れた諸事情を考慮すると、付加金は100万円の限度で支払を命ずるのが相当である

この程度では、残念ながら管理監督者とは認定してもらえません。

付加金は、約3分の1に減らされています。

労基署から指導・是正勧告をされたことが1つの理由となっています。

また、興味深い理由としては、X自身、Y社在職中は、自分に時間外勤務手当等が支給されないことに関し疑問を感じていなかったことがあげられています。

Y社の問題だと思うのですが、X自身の主観によって付加金の金額は変わってくるのですかね・・・。

会社側代理人としては、尋問で聞いてみてもいいかもしれませんね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

賃金4(ディバイスリレーション事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ディバイスリレーションズ事件(京都地裁平成21年9月17日・労判994号89頁)

【判例のポイント】

1 時間外・深夜労働の手当を支払わないことについて、使用者に不法行為が成立し得るのは、使用者がその手当(賃金)の支払義務を認識しながら、労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったり、賃金債権発生後にその権利行使をことさら妨害したなどの特段の事情が認められる場合に限られる

2 もっとも、Xらは、消滅時効が成立しない期間の未払時間外・深夜労働の手当については、労働契約に基づきY社に賃金請求権に基づいて請求できるのであるから、未払時間外・深夜労働の手当相当額の損害が発生したとはいえず、不法行為が成立する余地はない

3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせるなどした後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解される。
→Y社にこのような事情は認められない。

4 付加金の請求について、Y社は、Xらの実労働時間を少なく算定したり、Xらの就業月報を改ざんするなど、Xらの実労働時間を短くする悪意うな行為をしており、Xらに支払うべき賃金を不当に少なくしようという姿勢が顕著である。そして、Y社は、現在に至るまでXらに対し、時間外・深夜労働に対する賃金を支払っていない。
もっとも、証拠によれば、Y社は、Xら代理人からの請求に応じ、本来支払われるべき額よりも低い額ではあるが、一定程度の金額を支払おうとする意思もあったことは認められる

以上の諸事情を考慮し、Y社に対し、未払賃金の8割に相当する付加金の支払いを命じるのが相当である

この裁判例は、参考になる点がたくさんあります。

割増賃金を支払わないことが不法行為に該当するかについて判断しており、参考になります。

杉本商事事件と比較すると、不法行為が成立する範囲は狭いです。

このケースでは、結果的には、不法行為の成立を認めませんでした。

・Y社は、時間外・深夜労働に対する手当の支払義務を認識していた。
・Y社は、実労働時間や休憩時間がXらに不利に算定していた。
・Y社は、Xらの就業月報を改ざんし、Xらの未払時間外・深夜割増手当の請求を妨害した。

このような事情があったにもかかわらず、裁判所は不法行為の成立を認めませんでした。

付加金も全額ではなく、8割のみ認められています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金3(ゴムノイナキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ゴムノナイキ事件(大阪高裁平成17年12月1日・労判933号69頁)

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であると解すべきところ(最高裁判所平成12年3月9日判決参照)、Xの超過勤務自体、明示の職務命令に基づくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないためやむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のものであるため、Xの作業のやり方等によって、残業の有無や時間が大きく左右されることからすれば、退社時刻から直ちに超過勤務時間が算出できるものではない

 しかし、他方、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専らY社の責任によるもので、これをもってXに不利益に扱うべきではないし、Y社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員の存在を把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない

3 以上によれば、本件で提出された全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働時間を推認するほかない
Xが主張する午後7時30分以降の業務は毎日発生するものではないこと、X自身、繁忙期以外の時期には、やろうと思えば午後10時には退社できたことを自認していること、Xの上司である営業所所長作成の文書では、Xは、午後9~12時頃には退社していた旨の記載があること等から、Xは、平成13年5月以降平成14年6月までの間、平均して午後9時までは就労しており、同就労については、超過勤務手当の対象となるとされ、概ね午後7時30分までの超過勤務を認定した一審判決が変更された。

4 Xは、休日に出勤していたとしても、休日に超過勤務手当の対象となる労基法上の労働がされたとまでは認めがたい。

5 Y社自身、タイムカードを導入しないなど自ら出退勤について手当が支給されずに放置されていたこと、現に、労働基準監督署からその旨の是正勧告も受けていることなどの事情を考慮すると、Y社が主張する事由を考慮しても、付加金の支払いを命ずる

タイムカード等により労働時間の管理が正確になされていない場合には、日記やメモにより始業時間と終業時間を残しておきましょう。

従業員のみなさんは、この裁判例を大いに参考にするべきです。

労働時間の管理をしっかりしていない社長は、対策を講じましょう。

多くの裁判例を見ていると、いろんなヒントが出てきます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金2(杉本商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金についての裁判例を見てみましょう。

杉本商事事件(広島高裁平成19年9月4日・労判952号33頁)

【判例のポイント】

1 Y社の広島営業所においては、平成16年11月21日までは出勤簿に出退勤時刻が全く記載されておらず、管理者において従業員の時間外勤務時間を把握する方法はなかったが、時間外勤務は事実としては存在し、Xの時間外勤務時間は1日当たり平均約3時間30分に及ぶものであった。
同営業所の管理者は、Xを含む部下職員の勤務時間を把握し、時間外勤務については労働基準法所定の割増賃金請求手続を行わせるべき義務に違反したと認められる。
Y社代表者においても、広島営業所に所属する従業員の出退勤時刻を把握する手段を整備して時間外勤務の有無を現場管理者が確認できるようにするとともに、時間外勤務がある場合には、その請求が円滑に行われるような制度を整えるべき義務を怠ったと評することができる。
Xは、不法行為を理由として平成15年7月15日から平成16年7月14日までの間における未払時間外勤務手当相当分をY社に請求することができるというべきである

2 付加金支払義務は、裁判所の命令が確定することによって発生するものである。そして、裁判所が付加金の支払を命ずるには、過去のある時点において不払事実が存在することが必要であると解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決、同第二小法廷昭和51年7月9日判決参照)。なぜなら、付加金制度は、労働基準法違反に対する制裁という面とともに、手当の支払確保という目的を有するものであるから、同法違反があっても、義務違反状態が消滅した後においては、裁判所は付加金支払を命ずることはできないと解するのが相当であるからである。
本件において、原判決後、Y社が未払時間外勤務手当の全額を支払ったことは先に述べたとおりである。 
よって、Xの付加金請求は理由がない

この裁判例のポイントは2つです。
1 時間外手当請求権が労基法115条によって時効消滅した後においても、使用者側の不法行為を理由として未払時間外勤務手当相当損害金の請求が認められた
2 使用者が口頭弁論終結時点までに未払時間外勤務手当全額を支払った場合には、裁判所は、労基法114条の付加金の支払を命ずることができない。 

特に1が大きいですね。

割増賃金の請求権の時効は2年です。

不法行為の時効は3年です。1年分多く請求できるわけです。

裁判においても、時効を考慮して2年分を請求する例が多いので、非常に大きな意義があります。

従業員としては、この裁判例を大いに参考にすべきです。

すべての割増賃金未払い事件で、会社の不法行為責任が認められるわけではありませんが、本件で、不法行為と判断される特段の事情があったかというと、それほど特殊な事情はありません。

よくあるケースだと思いますが・・・。

それゆえに会社としては、嫌な裁判例です。気をつけましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

管理監督者12(PE&HR事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

PE&HR事件(東京地裁平成18年11月10日・労判931号65頁)

【事案の概要】

Y社は、ベンチャー企業に対する投資、経営コンサルタント業、有料職業紹介事業などと目的とする会社である。

Xは、Y社の「パートナー」の職種に応募して採用された。

Y社は従業員数が10名に満たない規模の会社であって、就業規則を制定していなかった。

Xは、Y社入社後、会社の管理部門としては経理・労務を担当し、営業部門にあってはオフィス担当の職にあったが、部下はいなかった

Xは、退職後、Y社に対し、時間外割増賃金の支払い等を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者と定義されるところ、一般的にはライン管理職を想定しているが、他方、企業における指揮命令(決定権限)のライン上にはないスタッフ職をも包含するものとされるY社における人員構成からすると、Xがライン管理職に該当しないのは明らかであるから、管理監督者に該当するスタッフ職にXがあるといえるのかどうかが問題となる

2 会社に雇用される労働者のうちで、時間外勤務に関する法制の適用が除外される理由としては、当該仕事の内容が通常の就業時間に拘束される時間管理に馴染まない性質のものであること、会社の人事や機密事項に関与するなどまさに名実ともに経営者と一体となって会社の経営を左右する仕事に携わるものであることが必要とされる。そして、このような労働時間の制限及び時間管理を受けないことの反面ないし見返りとして、会社における待遇面で勤務面の自由、給与面でのその地位にふさわしい手当支給等が保障されている必要があるものというべきである。

3 XについてのY社からの出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認しあっている実態からすると、Xには実際の勤務面における時間の事由の幅はあまりないか相当狭いものであることが見受けられる。

4 時間外手当が付かない代わりに管理職手当であるとか特別の手当が付いている事情が見受けられず、月額支給の給与の額もそれに見合うものとはいえない。

5 Y社における人員構成からは管理職と事務担当者の職分が未分化であり、Xが経理・労務の責任を負っていたといっても社内でXしかそれを担当する者がいないことなどの勤務実態が認められる。

6 XのY社における地位・就業面・給与面での待遇に照らすと、Xが労基法の労働時間、休憩及び休日を規制する法の適用の除外を受けるに値する管理監督者の職にあるものとは認めることができない。

Xはいわゆる「スタッフ管理職」です。

この事件では、部下がいないスタッフ管理職が管理監督者に該当するかが問題となり、否定されました。

今後、スタッフ管理職の管理監督者性を肯定する裁判例も出てくるのでしょうか・・・。

部下がいない管理監督者!? よくわからないですね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。