Monthly Archives: 11月 2010

競業避止義務10(消防試験協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

消防試験協会事件(東京地裁平成15年10月17日・労経速報1861号14頁)

【事案の概要】

Y社は、消防用設備等の試験検査等を目的とする会社である。

Xは、Y社に入社し、10年程勤務し、自己都合で退社した。

Y社の就業規則には、競業避止義務(退職後2年間)、機密保持義務に関する規定がある。

また、Xは、Y社に対し、退職直後に、誓約書を提出している。

誓約書の内容は、退職後5年間の競業避止義務が記載されている。

Xは、Y社退職後、約1ヶ月後に、A社を設立し、A社の取締役となった。

A社は、建物の消火設備についてのコンサルタント業務等を目的とする会社である。

Y社は、X及びA社に対し、第一時的には債務不履行、第二次的には、共同不法行為による損害賠償及び競業行為の差止めを求めた。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。

【判例のポイント】

1 本件特約は、退職後のXに対し、事後の職業選択の自由を制約する内容のものである。これに対し、Xにとっては本件特約の見返りとなるものは何もない。そうすると、本件特約は、既に退職したXに対し、Y社が新たに一方的な義務をおわせるものにほかならないところ、本件において、Xが上記のような内容の本件誓約書を真実その自由意思に基づいて作成したとみられるような状況はなく、かえって、Y社が退職金請求に必要な書類等を交付する条件と精神に照らすと、そのようにして作成された本件誓約書に法的効力を認めることはできないと解するのが相当である
したがって、本件誓約書を根拠にXが原告に対し、競業避止義務を負うということはできない。

2 就業規則改訂による退職後2年間の競業避止条項新設につき、改訂およびその内容をXを含む従業員らに示して同意を得たことを認める証拠はなく、それが合理的なものと評価しうる事情の必要を肯定できる事実関係は認められない。

3 契約に基づく競業避止義務が否定される場合であっても、社会通念上相当とされる自由競争の枠を超え、不正な手段・方法・態様等によって競業を行うなどし、同業他社の営業活動その他の権利を侵害ないし妨害した場合は、その行為者に不法行為が成立する余地がある。しかし、Xらの行為は、自由競争社会において当然容認される経済活動の範囲を逸脱するものとはいえず、その他本件において、Xらに違法な行為があったことを認めるに足りる証拠はない。

退職金の支払いと誓約書の支払いがリンクしていて、会社から「誓約書を出してもらえないなら退職金を支払わない」という形になっている場合には無効になる可能性があるということです。

会社としては、注意しなければいけません。

なお、退職金制度に、競業の場合に減額、あるいは不支給にするという制度を設けておくことで、実質的に退職後の競業避止を抑止する効果を得ることができます。

具体的な制度設計については顧問弁護士に相談しながら検討しましょう。

守秘義務・内部告発3(骨髄移植推進財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

骨髄移植推進財団事件(東京地裁平成21年6月12日・労判991号64頁)

【事案の概要】

Y財団は、骨髄移植の仲介事業を行い、骨髄移植を推進するために設立許可を受けた財団である。

Xは、Y財団の総務部長の地位にあり、事務局長を補佐し事務局の運営を統括する立場にあった。

Xは、Y財団代表者である理事長に対し、A常務理事のパワハラ、セクハラとも言える言動により、体調を崩したり退職を考慮する職員も出てきており、事務局運営に障害が発生しないよう早急に改善措置を講ずることを要望するなどと記載された報告書を提出した。

その後、Y財団はXに対し、総務部長の職を解き、システム改善担当参事に異動を命じる(本件降格人事)旨の内示を行った。

この内示に納得ができなかったXは、理事長に再考を促し面談を求めるファックスを送信し、Y財団の常務理事らにも人事異動の凍結を求める要請をするなどし、Xの支持者である職員やボランティア団体の幹部らも、Y財団や厚労省幹部に人事異動の凍結を求める働きかけをした。また、新聞に「骨髄バンク”迷走”」、「骨髄バンクセクハラ 厚労省に調査要請へ」といった見出しの記事が掲載された。

その後、Y財団では、内部調査委員会及び外部調査委員会による調査を経て、セクハラ、パワハラに当たる事実があったとは認められないとの結果を発表した。

Y財団は、Xに対して諭旨解雇を通告し、Xが自主退職に応じなかったため、Xを解雇した。

解雇理由は、(1)報告書の報告内容に事実に反する虚偽の部分があると判断されたこと、および報告書が内部告発文書の枠を超えて、個人に対する誹謗中傷文書ともいえる内容となっていること、(2)報告書について十分な情報管理が行われず、結果的には新聞報道にも発展して、財団の社会的信用を著しく損なわせるととともに財団内部に混乱をもたらし、財団の運営に重大な支障を生じさせたこと、(3)人事の内示を外部に漏らして人事凍結の働きかけを行ったこと、業務懈怠により財団の信用を損なったこと、上司の指示に従わず、会議の場で暴言を吐いたことである。

Xは、本件解雇の不当性を主張し、提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 Y財団において、A常務理事の不適切な言動について改善措置を求める旨の報告書を作成し理事長に提出したXのに対し、総務部長解任の後、懲戒処分としての諭旨解雇がなされた件につき、常務理事に、真実、パワハラ、セクハラとも解される問題行動があるのであれば、これをY財団の理事長に伝え是正を図ること自体は、総務部長の職責というべきものであり、かえってこれを認識しながら放置し、適切な措置をとることを阻害した場合には、そのことが総務部長の任務懈怠として問責されることもありうる。

2 本件報告書提出は内部告発そのものではないが、Xが総務部長の職責として報告をした場合であっても、事実でない事柄を、不当な目的で、不相応な方法で行うものであれば、違法なものとなり懲戒事由ともなりうるから、本件においては、X主張の内部告発の適法性の判断要素(1)内部告発の真実性、2)目的の正当性、3)手段・方法の相当性)から検討するのが相当である。

3 内部告発の真実性については、本件報告書のような文書を提出する場合には、慎重な配慮が必要ではあるものの、その内容中に客観的事実と一致していない部分があるとしても、それゆえに当該報告書提出が直ちに違法であって懲戒事由に該当するということはできないとして検討がなされ、報告書は、基本的に真実性のある文書と評価できる。

4 目的の正当性、手段・方法の相当性についても違法性は認められず、Xによる本件報告書提出は、懲戒事由に該当しない。

5 報告書に記載された内容は、パワハラやセクハラに関するものであり、とりわけセクハラに関する情報はプライバシーに深く関わる情報であって、細心の注意を払う必要のあるものといえるところ、Xはかかる情報を収集し管理する総務部長として、当該情報の外部漏出がないようにすることはもちろん、Y財団内部においても、必要な範囲に当該情報が保持されるように努める義務(情報管理義務)を負っていた。

6 Xにおいては、上記情報管理義務に基づいて、報告書記載の情報が、本来、保持されるべき範囲内にとどまるように慎重な配慮をすることが求められていたところ、その具体的な情報管理の方法としては、単に報告書の写しを第三者に交付しなければよいというものではなく、第三者に報告書の写しを閲読をさせたり、その内容を口頭で告げたりすることも、当該義務に違反した行為となる。

7 本件事実に照らすと、Xは上記義務に反して、本来、情報を保持すべきでない多数の者に報告書記載の情報を伝達していたといわざるを得ず、また、少なくともXの情報管理の不十分さによって本件各新聞報道に至ったものといえ、この点につきXには懲戒事由に該当須する事実が認められるが、他方、Y財団は、基本的に真実性のある報告書を無視し、的確な調査を行わないまま、Xに対し降格人事を行おうとしたのであり、XがY財団への対抗措置として外部への働きかけを強めていった結果、当該各報道に至ったともいえ、Xの本件情報管理義務違反およびそれによるY財団内部の混乱等については、Y財団にも責任の一端はあり、これらを総合考慮すれば、Xの情報管理義務違反を理由として本件解雇をすることは重きに失する

内部告発そのものではないですが、同様の判断基準に基づき判断されています。

内部告発の正当性が認められ、懲戒解雇は無効となりました。

会社としては、参考にすべき点が非常に多いと思います。

日頃から顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ慎重に対応することが大切ですね。

競業避止義務9(プロジェクトマネジメント事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

プロジェクトマネジメント事件(東京地裁平成18年5月24日・判タ1229号256頁)

【事案の概要】

Y社は、企業、団体、個人に対してプロジェクトマネジメント(PM)に関する講座を提供することを主な業務とする会社である。

Xは、Y社に入社し、PM研修の講師と顧客に対する営業活動に従事していたが、その後、退職した。

Xは、Y社入社にあたり、雇用契約書を取り交わした。

雇用契約書には、秘密保持義務、競業禁止等が記載されている。

Xは、Y社退職時、競業禁止について約束したことを暗黙の前提にしながら、「わたしも生きていかなくちゃいけないので。」と述べ、Y社と競業する仕事に就くこともありうることを臭わす発言をした。

そこで、Y社は、Xに対し、Y社におけるPMの教育業務に関する教材及びその電子データの全部又は一部を第三者に開示及び提供してはならないこと、雇用契約に記載されている競業禁止の合意に基づき、退社から2年間、PMの教育業務及びコンサルティング業務に関する自己又は第三者の営業又は勧誘のために、Y社の顧客に対し接触してはならない、自ら又は第三者のためにPMの教育業務及びコンサルティング業務をしてはならないなどの仮の差止めを求めた。

Xは、競業禁止合意が公序良俗に違反し無効である等と主張し争った。

【裁判所の判断】

本件の競業禁止に関する合意は公序良俗に違反せず有効である。

【判例のポイント】

1 会社が、労働者を雇用するに際し、、比較的高度な情報に接する部署に勤務させる労働者との間で、退職後の競業を禁止する旨の合意をすることは世上よく見られる出来事である。このような競業禁止条項を締結する目的は、当該労働者が退職後に会社の顧客を奪うことを防止する点に狙いがあり、利益を追求することを目的とする会社にとっては、必要な防衛手段といえよう。しかし、競業禁止条項を設けることは、労働者の職業選択の自由を奪うことにつながることから、競業禁止条項を無制限に認めることはできず、無制限に認める競業禁止条項は、公序良俗に反し無効というべきである。結局、競業禁止条項が合理的な内容であれば、その範囲内でかかる条項の内容は有効と考えるのが相当であり、また、合理的内容であるか否かを判断するに当たっては、(1)競業禁止条項制定の目的、(2)労働者の従前の地位、(3)競業禁止の期間、地域、職種、(4)競業禁止に対する代償措置等を総合的に考慮し、労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているかどうか等に照らし判断するのが相当と考える。

2 競業禁止条項制定の目的は、Y社の教材等の内容やノウハウを保持し、他の競業業者の手に渡らないようにすることにあり、正当な目的であると評価できる。

3 XはY社入社前にはPMの教育業務及びコンサルティング業務に従事した経験がなく、また、当該業務のノウハウを持っておらず、退職後2年間Y社において身につけたPMの前記業務を行うことを制限することには合理的理由があり、Xの職業選択の自由を不当に制限す結果になっているとまでは言い難い。

4 競業禁止期間はY社退職後2年間であり、同業他社も同様の規定を設けており、期間が長期間でXに酷に過ぎるとまでは言い難い。

5 営業・勧誘活動を行ってはならない対象となる顧客は、これまでY社の研修を受けるなど既に取引関係が形成されている会社を指し、そうだとすると、対象範囲が余りに広すぎるとはいえない。

6 XがY社から支給された報酬の一部には退職後の競業禁止に対する代償も含まれているといえる。

本件は、競業の差止めを認める珍しいケースです。

具体的な代償措置は講じられていませんでしたが、Xの給料が約1500万円と高額であったため、その中に代償措置分も含まれていると解釈されています。

判決理由を読むと、差止めが認められた理由がよくわかります。

訴訟の是非を含め、日頃から顧問弁護士に相談しながら対応することが大切です。

守秘義務・内部告発2(大阪いずみ市民生協(内部告発)事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

大阪いずみ市民生協(内部告発)事件(大阪地裁堺支部平成15年6月18日・労判855号22頁)

【事案の概要】

Y社は、消費生活協同組合法に基づき設立された生活協同組合である。

Xらは、いずれもY社の職員であり、役員室室長や総務部次長、共同購入運営部次長の地位にあった。

Xらは、Y社の役員がY社を私物化する背信行為をしているとして摘発行為を行い、組合員の総代会の総代ら500人以上に「組合員への背信行為の実態」等と題する告発文書を匿名で送付した。

Y社は、Xらを出勤停止、自宅待機としたうえで、配転や懲戒解雇等を命じた。

Xらは、懲戒解雇を無効として地位保全の仮処分を申請し、認容されたため、解雇は撤回され職場復帰した。

Xらは、Y社及びY社役員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をしたが、Y社とは和解が成立し、その後取り下げた。

【裁判所の判断】

内部告発は正当なものである。

Y社の損害賠償責任を認めた。

【判例のポイント】

1 内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解するのが相当である。

2 本件内部告発文書等に記載の事項の真実性等については、真実であるか、Xらにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

3 本件内部告発の目的については、専ら公共性の高いY社における不正の打破や運営等の改善にあったものと推認され、極めて正当なものであった。

4 本件内部告発の方法・手段については、本件内部告発文書等が匿名の文書である点については、告発された側が告発内容の真偽の確認が困難である場合がありうるが、Y社の最高実力者およびこれに次ぐ地位にある者に対し、公私混同や私物化を問題とするものであり、氏名を明らかにして告発を行えば、役員らによる弾圧や処分を受けることは容易に想像され、匿名による告発もやむを得なかった
次に、総代会の直前になって総代等に対して郵送されたことで総代会が混乱する危険があったことは否定し難いが、総代会は最高議決機関であるから、業務執行権を有する役員らに期待できない場合、総代会に問題提起するのはむしろ当然であり、この点が相当性を欠くとはいえない。そして、最高責任者の不正行為を正すためには多少の混乱は避けがたいのであり、そうであっても内部告発により不正が正されればY社にとって内部告発がなされない場合よりも遥かに大きな利益をもたらすべきものであるから、多少の混乱を伴うべきことをもってその手段、方法を不相当とはいえない

5 もっとも、内部告発の内容について多少不正確な部分があり、また表現が誇張されていること、刑事告発については不起訴にされているという問題点がなくはないが、本件内部告発が重要な事実を含み、概ね真実と信じるべき根拠があって、その内容自体Y社にとって看過すべからざる問題ばかりを取り上げているのであるから、全体として不相当なものとはいえない

6 また、Xらが業務中にY社内部の資料を他の職員の私物からを含め無断で持ち出し、これをもとに本件内部告発が行われているが、場合により個別の行為について何らかの処分に問われることは格別、本件内部告発全体が直ちに不相当なものになると解すべきではなく、本件内部告発の目的や内容、手段等を総合的に判断して正当かどうかを判断すべきである。本件で無断で複写して持ち出した点は、内部告発のためには不可欠である一方、持ち出した文書の財産的価値自体はさほど高いものではなく、しかも原本を取得するものではないので、Y社に直ちに被害を及ぼすものではない。したがって、Y社を害する目的で用いたり、不用意にその内容を漏洩したりしない限りは、本件内部告発自体を不相当とまではいえないものと解するべきである。

この裁判例では、内部告発の正当性の判断基準が詳細に示されています。

裁判所は、Y社役員によう生協施設の恣意的利用、女子職員へのセクハラ行為、ゴルフ会員権、ハワイコンドミニアム利用等による私物化、公私混同、背任、横領の疑惑(税務調査が行われた)等の事実が真実または真実と信じるに足りるものと判断しました。

また、Xらによる内部告発後の効果として、私物化が阻止され、生協運営に一定の改善があったことも考慮されています。

非常に参考になりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をしながら、労務管理を進めていくことがとても大切です。

管理監督者15(光安建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

光安建設事件(大阪地裁平成13年7月19日・労判812号13頁)

【事案の概要】

Y社は、土木工事等を業とする会社である。

Xは、土木施工技術者としてY社に入社したXは、現場監督であり、その業務は工事現場における施工の管理、監督等と工事の見積もりなどである。

Y社は、Xを解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇は無効であると争うとともに、時間外・深夜・休日労働にかかる割増賃金約302万円と同額の付加金の支払いを求めた。

Y社は、Xは、管理監督者に該当するなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、休日労働割増賃金及び同額の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められ、現実の勤務形態もこの規制になじまないような地位にある者を指すから、その判断にあたっては、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的立場にあり、出社退社などについて厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者と解するべきであり、単にその職名によるのではなく、その者の労働実態に即して判断すべきものである。また、賃金においても、労基法の規制を超えて活動をするに見合った役職手当等その地位にふさわしい待遇がされているか、賞与等において一般従業員に比較して優遇措置が取られているかもいわゆる管理監督者にあたるか否かの判断の一要素となる。

2 XはY社において、工事現場においては他の従業員を指揮監督する権限及び現場において生じる費用等についての決裁権限を有していたといえる。

3 しかし、一方で、Xの勤務時間は、午前8時から午後5時までと定められており、求人票においても、現場監督人について勤務時間を指定して募集している

4 Xの賃金は入社時から基本月給50万円であって、諸手当は支給されていない
この点について、Y社は、Xの賃金は他の従業員と比較して高額であることをXがいわゆる管理監督者であることの理由の一つとして主張しているが、Xの賃金が仮に他の従業員の賃金と比較して高額であったとしても(他の従業員の賃金を明らかとする証拠はない。)、Xが他の現場監督人より経験年数が長いことが認められることからすれば、Xの賃金額をもって直ちにXがいわゆる管理監督者の地位にあったと推認することはできない。

5 Xが単に工事現場従業員の考課、Y社の労務管理方針の決定に参画し、または労務管理上の指揮権限を有し経営者と一体的な立場にあった、あるいは、Y社の経営を左右するような立場にあったと認めるに足りる証拠はない。

Xは、「工事現場において」は、指揮監督権限を持っていたようです。

あくまで工事現場において、です。

また、Xは、勤務時間と賃金の点でも管理監督者と判断するには十分とはいえないと判断されています。

なお、この裁判例は、判決では、時間外労働等の割増賃金について、Xが作成した工事日報記載の労働時間が、工事が行われていた時間とは認められるものの、Xの労働時間と全く同一であったとまで認めることはできず、請求の基礎となる労働時間の特定に欠けるとして、棄却しています。

とても厳しい判断です。

労働時間を管理する義務を負うのは、Xではなく、Y社です。

Xが、自己の労働時間を完全に把握するところまで必要なのでしょうか・・・。

結局、2日間の休日出勤について、1日8時間の限度で、割増賃金及び同額の付加金請求だけを認めました。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

守秘義務・内部告発1(カテリーナビルディング事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発と懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

カテリーナビルディング事件(東京地裁平成15年7月7日・労判862号78頁)

【事案の概要】

Y社は、建築請負工事、不動産の売買、賃貸および仲介、有料老人ホームの経営などを業とするA社の子会社である。

Xは、Y社に採用され、A社に出向し、以後、A社の建設部に所属していた。

Y社は、(1)Xが会社の仕事をせずに無断外出を繰り返したり、(2)就業時間中にカラオケ店でカラオケの練習をする等の勤務怠慢があったこと、(3)XがA社の専務取締役からの指示・命令を無視したり、社長に同人の悪口を言ったこと、(4)監査法人や日本証券協会に対し、A社の上場承認を妨害する目的で、A社を誹謗中傷する発言をしたり、(5)文章を交付・送付したこと、(6)日報への虚偽記載、(7)無断早退、(8)同僚に対する不適切な発言、(9)週刊誌などにA社を誹謗中傷する記事を掲載するよう依頼したこと等を理由に、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした。

さらに、Y社は、弁論準備期日において、(10)XがA社の監査法人の公認会計士に対し、A社の上場承認を妨害する目的でA社を誹謗中傷したことおよび(11)恐喝未遂を理由に、Xを懲戒解雇する旨の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が主張するような事実はなく、Y社はXが労基署にA社の労基法違反の事実を申告したことに対する報復として解雇したものであり、労基法104条2項に違反し無効であるとして、地位確認、賃金と賞与の支払いを求めるとともに、慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 解雇事由のうち(2)、(3)、(4)、(5)、(10)を認めたうえで、(2)については勤務怠慢の程度はさほど重大なものではなく、また(3)については、Xの発言はA社の業務改善を図るためにしたもので、その動機・目的は不当とはいえず、Xも反省の態度を示していることから、解雇の理由とするのは相当ではない。

2 解雇事由(4)、(5)、(10)について、Xの行為は企業秩序維持の観点からも問題があるが、(ア)Xは、当時新宿労政事務所や新宿労基署に労働条件の相談や調査を申し入れており、監査法人に対する文書の交付または送付行為は、このような行為の一環として行われていたものであること、(イ)A社はその後、労基署の調査を受け、従業員の労働時間や管理の方法や時間外賃金の支払いについて改善指導を受けたことを合わせると、Xの行為は労基法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められるのであり、本件各解雇は、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することはできず、解雇権を濫用したものとして無効である。

3 本件各解雇につき、Y社は、Xに対し、不法行為責任を負うが、一般に、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるというべきであり、本件において解雇無効および賃金の支払いを命じる以上、本件各解雇によるXの精神的苦痛は填補される。

内部告発と解雇の問題は、どうしても感情的に判断してしまいがちです。

日頃から顧問弁護士に相談し、慎重に対応することが求められます。

労働者性1(新国立劇場運営財団事件)

おはようございます。

今日は、労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

新国立劇場運営財団事件(東京高裁平成19年5月16日・労判944号52頁)

【事案の概要】

Xは、合唱団などにおいて歌唱演奏をしていた者である。

Xは、Y財団との間で、平成11年以降、毎年、期間を1年とする出演基本契約を締結するとともに、個別公演毎に出演契約を締結して、新国立劇場合唱団のメンバーとしてY財団の主宰するオペラ公演等に出演していたが、平成15年2月、Y財団から、同年7月末実をもって契約関係を終了し、次シーズンの出演基本契約は締結しない旨の通知を受けた。

Xは、出演基本契約は労働契約であり、その更新拒絶は、労基法18条の2の類推適用、労組法7条1号により無効であるなどと主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

本件出演基本契約は労働契約ではない。
→Xは、労基法上の労働者には当たらない。

【判例のポイント】

1 出演基本契約の契約の定め方や運用の実態等に照らすと、同契約は、契約メンバーに対して、今後Y財団から出演公演一覧のオペラ出演に優先的に出演申込みをすることを予告するとともに、契約メンバーとの間で個別公演出演契約が締結される場合に備えて、各個別出演契約に共通する、報酬の内容、額、支払方法等をあらかじめ定めておくことを目的とするものであると解される

2 出演基本契約の締結に当たって、Y財団は、契約メンバーが出演公演一覧のオペラに出演することを当然期待し、契約メンバーも、それらに出演する心づもりで契約メンバーになるのが通常であると推認されるが、それはあくまでも事実上のものにとどまり、Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーは最終的に諾否の自由を有していた

3 個別公演出演契約をY財団と締結して初めて、特定の公演に参加したり、それに必要な稽古に参加する義務が生じ、逆に、報酬を請求する権利が発生するものというべきで、本件出演基本契約を締結しただけでは、XはいまだY財団に対して出演公演一覧のオペラに出演する義務を負うものではなく、また、オペラ出演の報酬を請求する具体的な権利も生じないものであるから、XとY財団との間に労基法、労組法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているといえないことは明らかである

第一審同様、X(オペラ歌手)の労働者性を認めませんでした。

裁判所の判断としては、契約メンバーに「諾否の自由」があったことが重視されています。

Y財団からの個別の出演申込みに対して、契約メンバーが諾否の自由があったとすれば、前提となる出演基本契約では、労務提供が義務づけられていないことになります。

労基法上の労働者性が否定されたため、解雇権濫用法理は適用されないことになります。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働時間13(労基法上の労働時間該当性その1)

おはようございます。

さて、今日は、手待ち時間の労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

山本デザイン事務所事件(東京地裁平成19年6月15日・労判944号42頁)

【事案の概要】

Y社は、広告・印刷物に関する企画・製作、グラフィックデザインの制作及び販売等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社し、コピーライターとして勤務し、入社から約2年半後、解雇された。

Xは、Y社に対し、時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めた。

【判例のポイント】

1 作業の合間に生じる空き時間は、広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であると認められ、広告代理店の指示に従うことはY社の業務命令でもあると解されるから、その間はY社の指揮監督下にあると認めるのが相当であり、労働時間に含まれると認められる。

2 作業と作業の合間に一見すると空き時間のようなものがあるとしても、その間に次の作業に備えて調査したり、待機していたことが認められるのであり、なおY社の指揮監督下にあるといえるから、そのような空き時間も労働時間であると認めるべきであり、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていたとしても、これを休憩と認めることは相当ではない。

いわゆる「手待ち時間」も、労基法上の労働時間です。

問題は、待機している時間が「手待ち時間」といえるか否かです。

使用者の指揮命令下から現実に解放されているか否かがポイントですが、この基準も明確とはいえません。

どのような場合に、指揮命令下から現実に解放されているといえるのかについては、裁判例を検討し、把握するしかありません。

本件では、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていても、労働時間であると判断しました。

賛否両論あるところだと思います。

なお、このケースでは、未払割増賃金として、約910万円の支払いを命じられています(既払額控除前は約990万円)。

さらに、これに加えて、付加金として、500万円の支払いを命じられています。

合計約1500万円・・・すごい金額ですね

付加金に関する裁判所の判断は以下のとおりです。

Xをはじめとする従業員からY社に対して時間外勤務手当の支給及び人員不足の改善についての申入れがされていたにもかかわらず、ごく少額の休日手当等を支払ったことがあるだけで、Y社がそのいずれにも応じてこなかったこと、他方、労働基準監督署の是正勧告を受けた後は時間外勤務についての届出をするとともに、時間外勤務手当の支給についての是正が図られるに至ったこと等の事情に照らすと、労基法114条に基づく付加金として、500万円の支払を命ずるのが相当である。

労基署の是正勧告に従ったことから、付加金は約半分になりました。

やはり、労基署には逆らわない方がいいようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

競業避止義務8(新日本科学事件)

おはようございます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

新日本科学事件(大阪地裁平成15年1月22日・労判846号39頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬、農薬、食品、化粧品などの開発研究のための薬理試験、一般毒性試験などの実施を業とする会社で、製薬会社等から医薬品等の開発業務を受託する開発業務受託機関(CRO)として医薬品等の治験を行っている。

Xは、薬科大学を卒業し、薬剤師の資格取得後いくつかの製薬会社に勤務し、その後、Y社に入社したが、入社後2年弱で退職した。

Xは、Y社入社時には、競業避止義務の契約書および誓約書を、退職時には、同内容の合意書を提出した。

内容は、退職後1年以内は、Y社およびY社グループと競業関係にある会社に就職せず、これに反した場合は損害賠償義務を負うというものであった。

なお、Xには、Y社から秘密保持手当として月額4000円が支給されていた。

Xは、Y社を退職した翌日、Y社と同業のA社に入社し、新薬の開発に関する治験の実施およびモニタリング業務に従事するようになった。

Y社は、X及びA社に対し、競業行為の中止を求める内容証明郵便を送付した。

Xは、本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反して無効であるとして裁判を起こした。

【裁判所の判断】

本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。

【判例のポイント】

1 従業員の退職後の競業避止義務を定める特約は従業員の再就職を妨げその生計の手段を制限してその生活を困難にするおそれがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであるところ、一般に労働者はその立場上使用者の要求を受け入れてこのような特約を締結せざるを得ない状況にあることにかんがみると、このような特約は、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要か合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である

2 Xが従事した治験の実施に関するノウハウについては、CROによって手続が異なるということはなく、また、Y社独自のノウハウといえるものはなかった

3 XはY社に入社したばかりで、新GCP(厚労省令の「医薬品臨床試験の実施基準」)に従った治験手続に参加した経験はなく、それぞれの治験薬ないし治験手続についてのすべての知識やノウハウを得ることができる地位にあったとはいえず秘密保持義務と競業避止義務とを課すことにより担保する必要性は低い

4 Xは、大学卒業以降Y社を退職するまでの約17年5カ月間の職業生活のうち12年近くの期間にわたって新薬の臨床開発業務に従事し、治験のモニター業務を行ってきたことに照らすとXの再就職を著しく妨げるものである

5 Xが受ける不利益が、競業避止義務によって守ろうとするY社の利益よりも極めて大きく、Xには在職中月額4000円の秘密保持手当が支払われていただけで退職金その他の代償措置は何らとられていない

6 これらの事情に鑑みると、XがY社を退職する際にした競業避止義務に関する合意は、競業回避義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、その制限は必要かつ合理的な範囲を超えるものであり、公序良俗に反して無効である。

妥当な結論だと思います。

総合考慮により、結論が決まるので、会社としては、「競業避止義務違反だから損害賠償請求」という形式的な判断は避けなければいけません。

競業避止義務違反に関する裁判の場合、「会社独自のノウハウや企業秘密の存否」については会社・従業員ともに十分に検討する必要があります。

競業避止義務を課す必要性に大きく関わってきます。

なお、このケースは、XがY社に対し、競業避止義務不存在確認請求をしたものです。

確認の利益の有無について争点となったのですが、この点について裁判所は以下のとおり判断しました。

Y社は、Xに対して未だ損害賠償を請求しておらず、また請求する予定もないから本件の訴えには確認の利益はないと主張するが、Y社はXおよびA社い対し競業行為の中止を求めたこと、および本件において「請求棄却の判決を求めるとともに、将来、本件訴訟の対象となっている損害賠償義務の存在を前提としてXにその履行を求める可能性があることを示唆しているから、本件の訴えには確認の利益がある

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

賃金6(リンガラマ・エグゼティブ・ラングェージ・サービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。

リンガラマ・エグゼクティブ・ラングェージ・サービス事件(東京地裁平成11年7月13日・労判770号120頁)

【事案の概要】

Y社は、語学研修等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、全国一般労組を通じてY社に対し残業代を請求した。

Y社は、Xに残業を命じたわけではないとして、割増賃金の支払義務を負わないと主張し争った。

【判例のポイント】

残業代の請求は棄却。

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対し労働時間を延長して労働することを明示的に指示していないが、使用者が労働者に行わせている業務の内容からすると、所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないという場合には、使用者は当該業務を指示した際に労働者に対し労働時間を延長して労働することを黙示に指示したものというべきであって、したがって、当該労働者が当該業務を完遂するために所定の勤務時間外にした労働については割増賃金の支払を受けることができるというべきである。

2 Xが行っていた業務の内容からすると、Xの所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないということは困難であり、仮に所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得なかったと認め得るとしても、Xが果たしてXの主張するとおりの時間数だけ残業したことあるいは少なくともXが確実に残業をしていたといえる残業時間数を認めることはできないというべきである
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、Xの残業代の請求は理由がない。

この裁判例は、いろんな点で参考になります。

まずは、時間外労働を「黙示」に指示したと判断される場合があり得るという点。

この点は、従業員としては、認識しておくメリットが高いですね。

問題は、訴訟になった場合の立証方法です。

実際には、「黙示」の指示なんてものは存在しないわけですから、裁判所に認定してもらう必要があるわけです。

今回のケースでも、一般論としては、裁判所は、「黙示」の指示という解釈があり得ると判断しましたが、本件に関しては、「黙示」の指示の存在を否定しています。

そんなに簡単ではないということです。

少なくともざっくりとした立証では、「黙示」の指示は認定してもらえないということですね。

この点は、従業員、会社双方にとって重要なポイントです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。