おはようございます。
さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。
阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(東京地裁平成22年7月2日・労判1011号5頁)
【事案の概要】
Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。
Y社は、フランス等への募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xを雇用した。日当は1万6000円であり、就業条件明示書には、労働時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあった。
Y社では、従業員代表との間で事業場外みなし労働時間制に関する協定書が作成されており、そこでは、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす旨の記載があった。
Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。
【裁判所の判断】
事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。
付加金として、割増賃金と同額を認容した。
【判例のポイント】
1 事業場外みなし労働時間制は、事業場外業務に従事する労働者の実態に即した合理的な労働時間の算定が可能となるように整備されたものであり、言い換えると、事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨である。これは、労働の量よりも質に注目した方が適切と考えられる高度の専門的裁量的業務について実際の労働時間数にかかわらず一定労働時間だけ労働したものとみなす裁量労働制(労基法38条3)とは異なった制度である。
2 みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準(平成13.4.6基発339号)が原則とする、使用者による現認およびタイムカード等の客観的な記録を基礎とした確認、記録により労働時間を確認できない場合を指し、自己申告制によって労働時間を算定できる場合であっても、「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合がある。
3 Xは単独で業務を行い、Y社が貸与した携帯電話を所持していたものの、随時連絡等はしていないこと、直行直帰していること、Xは現場の状況により予定変更をしており、アイテナリー(行程表)等による具体的指示があったとは評価できないことなどから、本件添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」に該当する。
4 労基法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」は、平均的にみて当該業務の遂行に必要とされる時間を意味すると解されるところ、本件では、Xの添乗日報の記載を重視してこれを算定するべきである。
→空港発着および搭乗前後、食事、オプショナルツアー等の時間を検討のうえ、本件における「業務に通常必要とされる時間」は11時間であるとして、8時間を超える部分についての時間外割増賃金支払義務、および法定休日の労働の存在と休日割増賃金の支払義務を認めた。
5 Y社は、時間外割増賃金及び休日割増賃金合計12万3700円を支払っていないところ、これに対し制裁としての付加金を課することを不相当とする特段の事由は認められず、同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。
事業場外みなし労働時間制の適用が肯定されました。
阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件では、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されています。
もっとも、本件では、割増賃金と付加金の請求を命じています。
労基法38条の2第1項は以下のとおり。
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
裁判所は、この「業務の遂行に通常必要とされる時間」がXの場合、11時間であると判断しました。
つまり、1日あたりの残業時間は3時間となるため、その分の割増賃金の支払いを命じたわけです。
この点、Y社は、Xの日当に3時間分の時間外割増賃金が含まれていると主張しました。
しかし、裁判所は、所定労働時間8時間分の賃金と時間外労働3時間分の割増賃金に当たる部分との明確な区分、および割増賃金がこれを上回る場合の差額支払いについての合意がないとして否定しました。
事業場外みなし労働時間制を採用している会社として参考にすべき点ですね(注:明確な区分が必要であるという点は、事業場外みなし労働時間制特有の問題ではなく固定残業代を採用している場合にも問題となります)。
労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。