労災10(大正製薬事件)

おはようございます。

今日は、午前中は刑事裁判1件と打合せ数件。

午後は、東京で弁護団会議があります

なんかおいしいものでも食べてこようかな。

そんな時間はないか・・・。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

大正製薬事件(福岡地裁平成22年2月17日・労判1009号82頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬品製造ならびに販売業を営む会社である。

Xは、Y社入社後、Y社福岡支店営業部のナショナル部(全国展開している大手スーパーやドラッグストアなどの取引先を担当する部署)に配属され、九州各県(鹿児島県を除く)所在のスーパー等の約30店舗を訪問する業務に従事していた。

Xは、出張中の宿泊先であるホテルにおいて脳内出血により死亡した(死亡当時42歳)。

Xは、C型慢性肝炎を患っており、インターフェロン治療を受けたものの完治せず、以後死亡するまで、外来で診療を継続した。しかし、Xが発症したC型肝炎は、肝硬変ではなく、出血傾向や他の合併症はなく、日常生活に支障のないものであった。

また、Xは、細菌性髄膜炎と診断され、入院治療をしたことがある。Xが退院した際、出血傾向はなかった。なお、入院中、Xに対して血液検査、頭部CT検査、MRI検査や血圧の測定等が行われたが、特段の指摘がされた事実はない。

【裁判所の判断】

福岡労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 「業務上死亡した場合」とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、当該業務と当該死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は、業務に内在ないし随伴する各種の危険が現実化して労働者に傷病等をもたらした場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の填補の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記相当因果関係の有無は、当該傷病等が当該業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである

2 そして、脳血管罹患発症の基礎となり得る素因又は疾病を有していた労働者が、脳血管疾患を発症する場合、様々な要因が上記素因等に作用してこれを悪化させ、発症に至るという経過をたどるものであるから、その素因等の程度及び他の危険因子との関係を踏まえ、医学的知見に照らし、業務による過重な負荷が上記素因等を自然の経過を超えて増悪させ、疾病を発病させたと認められる場合には、その増悪は当該業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である

3 被告が依拠する新認定基準は、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価でき、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6カ月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている

4 Xの時間外労働時間は、年末年始の長期休暇を含む発症6か月前の1か月間以外は、45時間を大幅に超え、発症前1か月間は100時間をわずかに下回る程度であり、さらに、発症6か月前の1か月間及び発症5か月前の1か月間を除く4か月間の平均が84時間40分、更にゴールデンウィーク及び細菌性髄膜炎による長期休暇がなければ、発症前6か月間の平均が80時間を超えるものとなっていたであろうことは容易に推認することができる。
したがって、Xの時間外労働時間は、新認定基準に照らしても、この基準を超えているか、これに極めて近いものとなっているというべきであり、Xの業務は、労働時間の点だけみても、精神的・肉体的に負荷の大きいものであったといえる

5 一般に出張業務、特に遠方への出張は、長距離・長時間の移動を伴うため拘束時間も長く、特に、自ら自動車を運転して高速道路等を走行する場合には、相当程度の精神的緊張を強いられるものであり、また、宿泊を伴う出張業務の場合には、生活環境や生活リズムの変化等、自宅での就寝と比較して疲労の回復が十分にできず、疲労が蓄積する可能性が高い

6 Xは、危険因子である高血圧症が進行し、本件疾病発症当時に脳血管疾患を発症する可能性が一定程度認められる状態にあったと考えられるものの、Xの有していた素因等が、本件疾病当時、他の確たる発症因子がなくてもその自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに脳血管疾患を発症させる程度にまで増悪していたとみることは困難である。