守秘義務・内部告発4(Yタクシー会社(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

Yタクシー会社(雇止め)事件(京都地裁平成19年10月30日・労判955号47頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシー会社である。

Xは、Y社に入社し、Y社のA営業所に勤務していた。

XとY社は、嘱託労働契約書をもって、契約期間を1年間とする有期雇用契約を締結した。

Xは、Y社労働組合A支部からA営業所内における従業員およびA営業所所長の白タク営業、メーターの不正操作、営業日誌ねつ造等の疑惑がある旨記載されている文書を入手し、労働組合全支部長、Y社代表へ、真相解明および問題の解決を求める書面を作成し、送付した。

その後、Xは、警察署に対し、白タク行為を把握した旨申告した。

組合は、Xが問題として指摘した点については、問題解決に向け、支部労使会を開催することで対処する旨が決定されていたのに、制裁処分として、Xに対し戒告および罰金を課した。

所長は、Xに対し、雇止めにする旨を通告した。

この際、所長は、有期労働契約の期間が経過したという理由を述べただけで、なぜ更新しないのかについては理由を説明しなかった。

Xは、雇止めは無効であるとして、地位保全等仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

雇止めは、無効であり、地位保全および賃金仮処分の必要性を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社就業規則には、組合によって制裁を受けた者を再雇用しない旨が規定されているが、こうした規定に基づいて使用者が組合に対して雇止めをすべき義務負うのは、組合による処分が有効な場合に限られ、当該処分が無効と解される場合には使用者は雇止めをすべき義務を負わない。

2 使用者が労働組合に対する義務の履行として行う雇止めは、雇止めの義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして是認できるのであって、処分が無効な場合には、他に解雇の合理性を基礎づける特段の事情がない限り、解雇権の濫用として無効であり、このことは、Y社就業規則が、所定の基準に該当している場合であっても、状況に応じては再雇用をする場合がある旨規定していることからも明らかである。

3 公益通報者保護法が制定された趣旨にかんがみても、Xの行動は組合による処分に相当するものとは評価すべきではなく、ユニオン当該行動が、組合が告発等をしない方向性を打ち出している状況の下で告発等をしたという意味で、形式的には権限を越えて行動した場合に該当するとはいえても、本件統制処分は、もともとの問題行動への関与者を処分せずに、これを指摘したXのみを処分するものとして不平等であり、著しく裁量を濫用したものとして無効といわざるを得ない。

本来は、有期雇用における雇止めの問題です。

この裁判例は、内部告発に関する問題以外にも、たくさんの重要な問題が含まれています。

上記判例のポイント2は、重要です。

この点は、ユニオンショップ協定に基づく解雇の効力に関する日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日・労判227号32頁)と同様の判断です。

なお、ユニオンショップとは、使用者が労働協約において自己の雇用する労働者のうち当該労働組合に加入しない者、および当該労働組合の組合員ではなくなった者を解雇する義務を負う制度です。

その他、使用者が、雇止めの意思表示の際に明示していなかった理由を訴訟上主張することは許されるが、雇止めが懲戒解雇事由の存在を根拠として、実質的に懲戒解雇の趣旨でなされた場合においては、懲戒解雇事由以外の普通解雇事由に該当するにすぎないような解雇理由を主張することは許されない、という点も参考になります。

この点は、山口観光事件(最一小判平成8年9月26日・労判708号31頁)と同様の判断です。

同事件は、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできないと判断したものです。

懲戒解雇をはじめとする懲戒処分を行う際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることを習慣にしましょう。