競業避止義務9(プロジェクトマネジメント事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

プロジェクトマネジメント事件(東京地裁平成18年5月24日・判タ1229号256頁)

【事案の概要】

Y社は、企業、団体、個人に対してプロジェクトマネジメント(PM)に関する講座を提供することを主な業務とする会社である。

Xは、Y社に入社し、PM研修の講師と顧客に対する営業活動に従事していたが、その後、退職した。

Xは、Y社入社にあたり、雇用契約書を取り交わした。

雇用契約書には、秘密保持義務、競業禁止等が記載されている。

Xは、Y社退職時、競業禁止について約束したことを暗黙の前提にしながら、「わたしも生きていかなくちゃいけないので。」と述べ、Y社と競業する仕事に就くこともありうることを臭わす発言をした。

そこで、Y社は、Xに対し、Y社におけるPMの教育業務に関する教材及びその電子データの全部又は一部を第三者に開示及び提供してはならないこと、雇用契約に記載されている競業禁止の合意に基づき、退社から2年間、PMの教育業務及びコンサルティング業務に関する自己又は第三者の営業又は勧誘のために、Y社の顧客に対し接触してはならない、自ら又は第三者のためにPMの教育業務及びコンサルティング業務をしてはならないなどの仮の差止めを求めた。

Xは、競業禁止合意が公序良俗に違反し無効である等と主張し争った。

【裁判所の判断】

本件の競業禁止に関する合意は公序良俗に違反せず有効である。

【判例のポイント】

1 会社が、労働者を雇用するに際し、、比較的高度な情報に接する部署に勤務させる労働者との間で、退職後の競業を禁止する旨の合意をすることは世上よく見られる出来事である。このような競業禁止条項を締結する目的は、当該労働者が退職後に会社の顧客を奪うことを防止する点に狙いがあり、利益を追求することを目的とする会社にとっては、必要な防衛手段といえよう。しかし、競業禁止条項を設けることは、労働者の職業選択の自由を奪うことにつながることから、競業禁止条項を無制限に認めることはできず、無制限に認める競業禁止条項は、公序良俗に反し無効というべきである。結局、競業禁止条項が合理的な内容であれば、その範囲内でかかる条項の内容は有効と考えるのが相当であり、また、合理的内容であるか否かを判断するに当たっては、(1)競業禁止条項制定の目的、(2)労働者の従前の地位、(3)競業禁止の期間、地域、職種、(4)競業禁止に対する代償措置等を総合的に考慮し、労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているかどうか等に照らし判断するのが相当と考える。

2 競業禁止条項制定の目的は、Y社の教材等の内容やノウハウを保持し、他の競業業者の手に渡らないようにすることにあり、正当な目的であると評価できる。

3 XはY社入社前にはPMの教育業務及びコンサルティング業務に従事した経験がなく、また、当該業務のノウハウを持っておらず、退職後2年間Y社において身につけたPMの前記業務を行うことを制限することには合理的理由があり、Xの職業選択の自由を不当に制限す結果になっているとまでは言い難い。

4 競業禁止期間はY社退職後2年間であり、同業他社も同様の規定を設けており、期間が長期間でXに酷に過ぎるとまでは言い難い。

5 営業・勧誘活動を行ってはならない対象となる顧客は、これまでY社の研修を受けるなど既に取引関係が形成されている会社を指し、そうだとすると、対象範囲が余りに広すぎるとはいえない。

6 XがY社から支給された報酬の一部には退職後の競業禁止に対する代償も含まれているといえる。

本件は、競業の差止めを認める珍しいケースです。

具体的な代償措置は講じられていませんでしたが、Xの給料が約1500万円と高額であったため、その中に代償措置分も含まれていると解釈されています。

判決理由を読むと、差止めが認められた理由がよくわかります。

訴訟の是非を含め、日頃から顧問弁護士に相談しながら対応することが大切です。