おはようございます。
さて、今日は、内部告発と懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。
カテリーナビルディング事件(東京地裁平成15年7月7日・労判862号78頁)
【事案の概要】
Y社は、建築請負工事、不動産の売買、賃貸および仲介、有料老人ホームの経営などを業とするA社の子会社である。
Xは、Y社に採用され、A社に出向し、以後、A社の建設部に所属していた。
Y社は、(1)Xが会社の仕事をせずに無断外出を繰り返したり、(2)就業時間中にカラオケ店でカラオケの練習をする等の勤務怠慢があったこと、(3)XがA社の専務取締役からの指示・命令を無視したり、社長に同人の悪口を言ったこと、(4)監査法人や日本証券協会に対し、A社の上場承認を妨害する目的で、A社を誹謗中傷する発言をしたり、(5)文章を交付・送付したこと、(6)日報への虚偽記載、(7)無断早退、(8)同僚に対する不適切な発言、(9)週刊誌などにA社を誹謗中傷する記事を掲載するよう依頼したこと等を理由に、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした。
さらに、Y社は、弁論準備期日において、(10)XがA社の監査法人の公認会計士に対し、A社の上場承認を妨害する目的でA社を誹謗中傷したことおよび(11)恐喝未遂を理由に、Xを懲戒解雇する旨の意思表示をした。
これに対し、Xは、Y社が主張するような事実はなく、Y社はXが労基署にA社の労基法違反の事実を申告したことに対する報復として解雇したものであり、労基法104条2項に違反し無効であるとして、地位確認、賃金と賞与の支払いを求めるとともに、慰謝料請求をした。
【裁判所の判断】
本件解雇は無効。
慰謝料請求については棄却。
【判例のポイント】
1 解雇事由のうち(2)、(3)、(4)、(5)、(10)を認めたうえで、(2)については勤務怠慢の程度はさほど重大なものではなく、また(3)については、Xの発言はA社の業務改善を図るためにしたもので、その動機・目的は不当とはいえず、Xも反省の態度を示していることから、解雇の理由とするのは相当ではない。
2 解雇事由(4)、(5)、(10)について、Xの行為は企業秩序維持の観点からも問題があるが、(ア)Xは、当時新宿労政事務所や新宿労基署に労働条件の相談や調査を申し入れており、監査法人に対する文書の交付または送付行為は、このような行為の一環として行われていたものであること、(イ)A社はその後、労基署の調査を受け、従業員の労働時間や管理の方法や時間外賃金の支払いについて改善指導を受けたことを合わせると、Xの行為は労基法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められるのであり、本件各解雇は、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することはできず、解雇権を濫用したものとして無効である。
3 本件各解雇につき、Y社は、Xに対し、不法行為責任を負うが、一般に、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるというべきであり、本件において解雇無効および賃金の支払いを命じる以上、本件各解雇によるXの精神的苦痛は填補される。
内部告発と解雇の問題は、どうしても感情的に判断してしまいがちです。
日頃から顧問弁護士に相談し、慎重に対応することが求められます。