Daily Archives: 2010年11月9日

解雇15(ネスレ日本事件)

おはようございます。

さて、今日は、長期間経過後の懲戒処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

ネスレ日本事件(最高裁平成18年10月6日・労判925号11頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系食品メーカーである。

Xらは、Y社の従業員として工場に勤務していた。

Y社は、Xらを諭旨退職処分とし、退職願を提出すれば自己都合退職とし退職金全額を支給するが、提出しないときは懲戒解雇するとした。

Xらは、退職願を提出しなかったため、Y社から懲戒解雇された。

本件懲戒解雇の理由とされたのは、7年以上前の暴行、暴言、業務妨害などである。

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、Y社に対して労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 懲戒処分が本件事件から7年以上経過した後になされたことについて、Y社は、警察および検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから、これらの操作の結果を待って処分を検討することとしたという。
しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる

3 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない

最高裁判例です。

1審は、Y社のXらに対する諭旨退職処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとしました。

これに対し、原審は、事件発生から諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関による捜査の結果を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではないから、本件懲戒解雇は有効であるとしました。

原審(東京高裁)では、Y社の主張通りに判断されています。

不起訴処分の通知を受けてから懲戒処分をするまで1年程経過していますが・・・。

いずれにせよ、長期間経過後の懲戒処分が直ちに懲戒権の濫用となるわけではありません。

とはいえ、長期に及べば及ぶほど、懲戒処分に着手しないことの正当性はどんどん乏しくなっていきます。

労働判例百選[第8版]60では、以下のとおり解説されています。

濫用の成否については、長期の経過に至った諸般の事情や必要性を苦慮する必要があり、(1)長期の経過に至った必然性、(2)その間の当事者の姿勢、(3)長期の経過による企業秩序の形成、(4)長期の経過による事実関係の把握の困難などの要素について慎重に検討されるべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。