おはようございます。
さて、今日も引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。
ディバイスリレーションズ事件(京都地裁平成21年9月17日・労判994号89頁)
【判例のポイント】
1 時間外・深夜労働の手当を支払わないことについて、使用者に不法行為が成立し得るのは、使用者がその手当(賃金)の支払義務を認識しながら、労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったり、賃金債権発生後にその権利行使をことさら妨害したなどの特段の事情が認められる場合に限られる。
2 もっとも、Xらは、消滅時効が成立しない期間の未払時間外・深夜労働の手当については、労働契約に基づきY社に賃金請求権に基づいて請求できるのであるから、未払時間外・深夜労働の手当相当額の損害が発生したとはいえず、不法行為が成立する余地はない。
3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせるなどした後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解される。
→Y社にこのような事情は認められない。
4 付加金の請求について、Y社は、Xらの実労働時間を少なく算定したり、Xらの就業月報を改ざんするなど、Xらの実労働時間を短くする悪意うな行為をしており、Xらに支払うべき賃金を不当に少なくしようという姿勢が顕著である。そして、Y社は、現在に至るまでXらに対し、時間外・深夜労働に対する賃金を支払っていない。
もっとも、証拠によれば、Y社は、Xら代理人からの請求に応じ、本来支払われるべき額よりも低い額ではあるが、一定程度の金額を支払おうとする意思もあったことは認められる。
以上の諸事情を考慮し、Y社に対し、未払賃金の8割に相当する付加金の支払いを命じるのが相当である。
この裁判例は、参考になる点がたくさんあります。
割増賃金を支払わないことが不法行為に該当するかについて判断しており、参考になります。
杉本商事事件と比較すると、不法行為が成立する範囲は狭いです。
このケースでは、結果的には、不法行為の成立を認めませんでした。
・Y社は、時間外・深夜労働に対する手当の支払義務を認識していた。
・Y社は、実労働時間や休憩時間がXらに不利に算定していた。
・Y社は、Xらの就業月報を改ざんし、Xらの未払時間外・深夜割増手当の請求を妨害した。
このような事情があったにもかかわらず、裁判所は不法行為の成立を認めませんでした。
付加金も全額ではなく、8割のみ認められています。
残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。