おはようございます。
さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。
PE&HR事件(東京地裁平成18年11月10日・労判931号65頁)
【事案の概要】
Y社は、ベンチャー企業に対する投資、経営コンサルタント業、有料職業紹介事業などと目的とする会社である。
Xは、Y社の「パートナー」の職種に応募して採用された。
Y社は従業員数が10名に満たない規模の会社であって、就業規則を制定していなかった。
Xは、Y社入社後、会社の管理部門としては経理・労務を担当し、営業部門にあってはオフィス担当の職にあったが、部下はいなかった。
Xは、退職後、Y社に対し、時間外割増賃金の支払い等を求めた。
Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。
【裁判所の判断】
管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者と定義されるところ、一般的にはライン管理職を想定しているが、他方、企業における指揮命令(決定権限)のライン上にはないスタッフ職をも包含するものとされる。Y社における人員構成からすると、Xがライン管理職に該当しないのは明らかであるから、管理監督者に該当するスタッフ職にXがあるといえるのかどうかが問題となる。
2 会社に雇用される労働者のうちで、時間外勤務に関する法制の適用が除外される理由としては、当該仕事の内容が通常の就業時間に拘束される時間管理に馴染まない性質のものであること、会社の人事や機密事項に関与するなどまさに名実ともに経営者と一体となって会社の経営を左右する仕事に携わるものであることが必要とされる。そして、このような労働時間の制限及び時間管理を受けないことの反面ないし見返りとして、会社における待遇面で勤務面の自由、給与面でのその地位にふさわしい手当支給等が保障されている必要があるものというべきである。
3 XについてのY社からの出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認しあっている実態からすると、Xには実際の勤務面における時間の事由の幅はあまりないか相当狭いものであることが見受けられる。
4 時間外手当が付かない代わりに管理職手当であるとか特別の手当が付いている事情が見受けられず、月額支給の給与の額もそれに見合うものとはいえない。
5 Y社における人員構成からは管理職と事務担当者の職分が未分化であり、Xが経理・労務の責任を負っていたといっても社内でXしかそれを担当する者がいないことなどの勤務実態が認められる。
6 XのY社における地位・就業面・給与面での待遇に照らすと、Xが労基法の労働時間、休憩及び休日を規制する法の適用の除外を受けるに値する管理監督者の職にあるものとは認めることができない。
Xはいわゆる「スタッフ管理職」です。
この事件では、部下がいないスタッフ管理職が管理監督者に該当するかが問題となり、否定されました。
今後、スタッフ管理職の管理監督者性を肯定する裁判例も出てくるのでしょうか・・・。
部下がいない管理監督者!? よくわからないですね。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。