Monthly Archives: 11月 2010

労災12(NTT東日本北海道支店事件)

おはようございます。

今日は、午前中1件裁判と外部の法律相談。

午後は、外部の法律相談、打合せ3件という流れです。

そのため、ほとんど事務所におりません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本北海道支店事件(札幌地裁平成21年11月12日・労判994号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の札幌での研修期間中、夜に帰省し、翌々日、先祖の墓参りに出かけた際に急性心筋梗塞を発症し、死亡した(死亡当時58歳)。

Xは、平成5年5月の職場定期健診で心電図の異常が見つかっており、同年8月には冠状動脈血管形成術の入院手術を受けているほか、継続して診察・投薬を受けていた。

Xは、基礎疾患があったが、研修に際し、管理医と面談し、体調に特別の問題がなかったことから、研修に参加できると判断した。

【裁判所の判断】

旭川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 業務上の死亡とは、業務と死亡に至らせた負傷又は疾病との間に相当因果関係が認められるものをいう。
心筋虚血(虚血性心臓疾患)は、通常、基礎となる血管病変等が、日常生活上の種々の要因により、徐々に進行・増悪して発症に至るものであるが、労働者が従事した業務が過重であったため、血管病変等をその自然の経過を超えて増悪させ、急性心筋虚血を発症させた場合には、業務に内在する危険が現実化したものとして、業務と急性心筋虚血との相当因果関係を認めることができる

2 構造改革に伴う雇用形態の選択について、Xは、平成13年4月のNTT東日本の事業構造改革が発表されてから、雇用形態の選択について悩み、健康状態を悪化させたことが認められる

3 研修の内容については、本件研修中は時間外労働はなく、労働時間の点では大きな負荷はなかったし、心臓に疾患を抱えるXにとって、50歳を過ぎて全く新しい分野の知識の習得を強いられる本件研修は、心身に負担のかかるものであったことは否定できないけれども、新しい業務分野の研修が参加者にとって通常業務以上の負担になることは通常のことであり、本件研修はその内容面で過重なストレスであったとは認められない。

4 研修中の宿泊状況について、東京研修中には4人部屋で、札幌研修中の一部の時期には2人部屋での宿泊であったところ、Xは普段の生活リズムが乱され、心身が休まらない状態にあったことがうかがえるが、東京研修中の宿泊環境が死亡につながるほど大きなストレスを与えるものであったとは考えにくく、死亡直前の札幌での研修中は1人部屋に宿泊していたことからすれば、それまでの宿泊によるストレスが残存して死亡につながったとは認められない。

5 しかし、本件研修の日程や場所については、本件研修は、4月末からの連休後は札幌での10泊11日に続いて東京での11泊12日、さらに札幌での4泊5日の研修が続くという日程であったところ、Xは、心臓手術を受けた後、医師の指導に従い、レジャーとしての旅行も避けていたのであって、出張の連続はXの心臓にとって大きな負担となったことがうかがわれる。
本件研修は、その日程や実施場所に照らし、Xの心臓疾患を自然的経過を超えて増悪させ、急性心筋虚血を発生させたものというべきである

6 Xの危険因子につき、Xの心臓は比較的安定していたこと、事業構造改革発表前はコレステロール値を下げてきていたことから、業務とは関係なく家族性高コレステロール血症等の危険因子が心疾患を突然悪化させたとは認められない。

本件については、行政訴訟とは別に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟も提起されています。

民事訴訟では、以下の結論となっています。

第一審 逸失利益3086万余円、慰謝料2800万余円

第二審 同上

上告審 Xの死亡は基礎疾患の存在が原因の大半を占めているものとし長期間にわたる出張の連続がXの有していた基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させたことは死亡の原因のうち30%を占めるとした

民事訴訟に関しては、最高裁で過失相殺されています。

しかも、70%の過失相殺です。

この最高裁判例以前にも、交通事故事案において、最一判平成4年6月25日が既往症の斟酌を認めていますが、上記NTT東日本・最高裁判決により初めて労災の場面においても既往症が斟酌されることが明らかになりました。

最高裁のこの判断には、賛否があるところです。

その後、差戻審の札幌高裁でも、同様の判断がされています。

なお、本件労災に関する判決は、民事訴訟の差戻審の判決より後に出されたものです。

有期労働契約7(京都新聞COM事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

京都新聞COM事件(京都地裁平成22年5月18日・労判1004号160頁)

【事案の概要】

Y社は、京都新聞社の事業部門である京都新聞の販売、広告等の各業務について、京都新聞社の委託によりそれらを行うために京都新聞社の全額出資により設立された子会社である。

Xらは、Y社との間で、雇用契約期間6ヶ月とする雇用契約を締結した。

X1は、勤続年数7年9か月、更新回数10回、X2は、勤続年数4年11か月、更新回数4回に及ぶ。

Y社は、Xらに対し、雇用契約を更新しない旨の通知をした。

Xは、本件雇止めは無効であるとして提訴した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 使用者と労働者の間で期限の定めのある雇用契約が締結された場合であっても、(1)更新が繰り返され、更新手続が形式的であるなど、当該雇用契約が期間の定めのない契約に転化したり、実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状況になった場合には、普通解雇の要件に準じた要件がなければ使用者において雇用契約を終了させることができず、(2)労働者が継続雇用の合理的期待を有するに至ったと認められる場合には、期間の満了により直ちに雇用契約が終了するわけではなく、使用者が更新を拒絶するためには、社会通念上相当とされる客観的合理的理由が必要とされると解される。

2 XらとY社との雇用契約の更新が形式だけのものであったということはできず、XらとY社との雇用契約が、期間の定めのない雇用契約に転化した、又はそれと実質的に異ならない関係が生じたと認めることはできない。

3 Y社は、契約社員については3年を超えて更新されないという「3年ルール」が存在すると主張する。
京都新聞社グループにおいて、正社員と契約社員との採用方法や勤務体系の違い等からすると、「3年ルール」は一定の合理性を有しているということができる。
しかし、Y社においては、「3年ルール」が厳格に守られ、契約社員に周知されていたとは考えられず、Xらに対してもその旨の説明がされていたと認めることはできない。
したがって、「3年ルール」について説明をしていたことを理由としてXらにおいて契約期間満了後も雇用継続を期待することは合理的ではないとするY社の主張は採用できない。

4 契約期間であるが、X1については、勤続年数7年9か月、更新回数10回、X2については、勤続年数4年11か月、更新回数は4回に及んでいること、Xらの業務は、広告記事の作成やイベントの運営など、新聞編集等の業務と比べると軽いものではあるが、ほぼ自分の判断で業務を遂行しており、誰でも行うことができる補助的・機械的な業務とはいえないこと、Xらは、契約の満了時期を迎えても、翌年度に継続する業務を担当しており、当然更新されることが前提であったようにうかがえることなどからすると、Xらとしては、契約の更新を期待することには合理性があるといえる。

この裁判例をみても、そう簡単に雇止めはできないことがよくわかります。

会社のみなさんも、「期間雇用だから、いつでも解雇できる」と思っていると、裁判で負けてしまいます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労働時間14(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(東京地裁平成22年7月2日・労判1011号5頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、フランス等への募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xを雇用した。日当は1万6000円であり、就業条件明示書には、労働時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあった。

Y社では、従業員代表との間で事業場外みなし労働時間制に関する協定書が作成されており、そこでは、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす旨の記載があった。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 事業場外みなし労働時間制は、事業場外業務に従事する労働者の実態に即した合理的な労働時間の算定が可能となるように整備されたものであり、言い換えると、事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨である。これは、労働の量よりも質に注目した方が適切と考えられる高度の専門的裁量的業務について実際の労働時間数にかかわらず一定労働時間だけ労働したものとみなす裁量労働制(労基法38条3)とは異なった制度である。

2 みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準(平成13.4.6基発339号)が原則とする、使用者による現認およびタイムカード等の客観的な記録を基礎とした確認、記録により労働時間を確認できない場合を指し、自己申告制によって労働時間を算定できる場合であっても、「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合がある

3 Xは単独で業務を行い、Y社が貸与した携帯電話を所持していたものの、随時連絡等はしていないこと、直行直帰していること、Xは現場の状況により予定変更をしており、アイテナリー(行程表)等による具体的指示があったとは評価できないことなどから、本件添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」に該当する

4 労基法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」は、平均的にみて当該業務の遂行に必要とされる時間を意味すると解されるところ、本件では、Xの添乗日報の記載を重視してこれを算定するべきである。
→空港発着および搭乗前後、食事、オプショナルツアー等の時間を検討のうえ、本件における「業務に通常必要とされる時間」は11時間であるとして、8時間を超える部分についての時間外割増賃金支払義務、および法定休日の労働の存在と休日割増賃金の支払義務を認めた。

5 Y社は、時間外割増賃金及び休日割増賃金合計12万3700円を支払っていないところ、これに対し制裁としての付加金を課することを不相当とする特段の事由は認められず、同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。

事業場外みなし労働時間制の適用が肯定されました。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件では、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されています。

もっとも、本件では、割増賃金と付加金の請求を命じています。

労基法38条の2第1項は以下のとおり。

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

裁判所は、この「業務の遂行に通常必要とされる時間」がXの場合、11時間であると判断しました。

つまり、1日あたりの残業時間は3時間となるため、その分の割増賃金の支払いを命じたわけです。

この点、Y社は、Xの日当に3時間分の時間外割増賃金が含まれていると主張しました。

しかし、裁判所は、所定労働時間8時間分の賃金と時間外労働3時間分の割増賃金に当たる部分との明確な区分、および割増賃金がこれを上回る場合の差額支払いについての合意がないとして否定しました

事業場外みなし労働時間制を採用している会社として参考にすべき点ですね(注:明確な区分が必要であるという点は、事業場外みなし労働時間制特有の問題ではなく固定残業代を採用している場合にも問題となります)。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労災11(神戸屋事件)

おはようございます。

今日は早朝ウォ-キングに行く予定でしたが、昨夜から体調が悪くお休みしました

昨夜は薬を飲んで早めに寝たため、回復しました。

今日は、午前中1件打合せ、午後は接見と書面作成です。

現在、7件の刑事事件は担当しているので、接見に行くのも大変です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例について見てみましょう。

神戸屋事件(平成22年3月15日・労判1010号84頁)

【事案の概要】

Y社は、パン、洋菓子等の製造販売を業とする大手食品メーカーである。

Xは、Y社東京事業所業務課物流係係長として勤務していたが、持病である気管支喘息を悪化させ、その発作により心臓停止に至り死亡した(死亡当時41歳)。

Xは、小児喘息の既往があり、一旦は寛解していたが、その後、気管支喘息を発症した。33歳頃までの喘息の病状は、週1回程度、吸入薬を使用する程度であり、発作というほどのこともなく、軽症であった。

【裁判所の判断】

川口労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である。そして、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実かしたものであると評価し得ることが必要である。

2 Xの死因は、本件喘息死であった。上述の理は、労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」の認定においても、当然に妥当するものである。そうすると、本件喘息死が本件会社におけるXの業務に内在する危険が現実化したものと評価できるかを、経験則及び科学的知見に照らして、検討することになる。
この検討に当たっては、Xは喘息を基礎疾患として有していたところ、喘息の増悪が、業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えたものであったといえるかという観点から、検討を加えることになる

3 過労・ストレスが喘息の増悪因子となることを肯定する医学的見解は多数存在する一方で、これらが喘息の増悪因子となることを積極的に否定する医学的見解は存在しないのであり、過労・ストレスは、喘息の増悪因子であると認めることができる。

4 Xの本件会社での業務内容を見ると、運行管理・調整、クレーム受付・対応・調整、運送業者との折衝、配送ルートの改善策の考案、部下の教育等多岐にわたるものであり、単調、規則的な業務内容ではないことを、まず指摘しなければならない。その上、トラブル発生の際には、その解消まで居残って処理をしなければならず、その際には、自ら車で工場まで商品を取りに行ったり、直接納入先に配送しなければならないこともある等のさらなる負担が生じることもあり得るのであり、その結果として、まとまった休憩時間も確保されないで、精神的ストレスの生じ得る、かつそれに伴う肉体的な負担が大きな業務であったと評価することができる

5 さらに、認定可能なXの本件喘息死以前の6か月の法定時間外労働時間は、月に79時間32分~95時間52分、月平均87時間58分と非常に長時間である。その前の段階も、この6か月間と同様の業務形態なのであり、遅くとも東京営業所に異動になった平成10年9月以降は、恒常的に上記のような慢性的な長時間勤務を余儀なくされていたと認めるべきであり、Xの業務は、労働時間だけでも、相当程度に過重なものであったといえる

6 その上、Xの業務は、夜勤交代制勤務であり、本件喘息死前6か月をみても、ほぼ全ての勤務が深夜に及び、夜勤の割合は約半分に及んでいたことは、Xの業務の過重性を論じる上では、看過できない事情である。Xの夜勤後退制勤務は、深夜業・交代制勤務の最低の基準であるとする日本産業衛生学会基準の12項目のうち、…7項目において、逸脱する態様であった。夜勤交代制勤務は、医学的知見によれば、深夜に起きて働くことにより生理リズムを乱し、睡眠の質・量ともに不足がちになること、交代勤務による家族生活等でのズレを修正しようとする調整努力を強めてしまうこと等から、疲労を蓄積させ、呼吸器疾患等の症状を進展させる要因となる。そうすると、Xの業務は、夜勤交代勤務という観点からも、相当程度に過重なものであったというべきである
以上によれば、Xの業務は、質、量ともに、通常人にとっても過重なものであり、これが慢性的に継続していたものと評価するだけの十分な根拠があるといわなければならない。

7 …喘息の症状に影響を与えなかったとまではいえない(アレルゲン、喫煙習慣、軽度の肥満)、喘息を増悪させた可能性は否定できない(吸入ステロイドが十分ではなかったこと、短時間作用性β2刺激薬の多用)、本件喘息死の誘因となった可能性も否定することはできない(本件喘息死の4、5日前の気道感染)。しかし、Xが元来持っていた基礎疾患が、業務上の質、量ともに過重な負担により重症化し、本件喘息死に近接する過程で、業務上の負担がさらに増加して、本件喘息死に至ったという経緯に鑑みて、Xの喘息増悪から本件喘息死に至る過程での過重な業務上の負担があったことにより、Xの喘息は、その自然の経過を超えて増悪して、本件喘息死に至ったものと評価することが相当である

日本産業衛生学会基準の12項目は以下のとおりです。

1 交代勤務による週労働時間は、通常週において40時間を限度とし、その平均算出時間は2週間とする。時間外労働は、原則として禁止し、あらかじめ予測できない臨時的理由にもとづくものに限り、年間150時間程度以下とすべきである。
2 深夜業に算入する時間は、現行の22時から5時までの規定を更に拡張し、21時から6時までを

有期労働契約6(日本郵便輸送(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便輸送(雇止め)事件(大阪地裁平成21年12月25日・労判1004号174頁)

【事案の概要】

Y社は、郵便物および通信事業に関連する物品の運送事業を目的とする会社である。

Xは、平成7年に期間臨時社員としてY社に雇用され、以降、平成20年までの間、約13年間にわたって勤務してきた。

Y社の業務は、その大半を郵便事業会社からの受託に依存し、郵便輸送自体、業務量の確実な予測が難しいという特殊性があること等から、非正規雇用への依存によらざるを得ない状況であった。他方、期間臨時社員について、雇用契約の反復継続が多数回にわたり、必ずしも「期間臨時」とは言い難い雇用状況にあり、また、待遇の安定を求める意見が出るなど問題が生じていた。

そこで、Y社は、期間臨時社員の身分の安定・向上を目的として、期間臨時社員の正社員化に向け、期間臨時社員制度そのものを廃止し、「地域社員制度」の創設に際し、期間臨時社員の全員を原則として正社員に移行することとした。

Y社は、Xに対し、地域社員制度に応募するよう促したが、Xは、地域社員制度の条件等に不満があるから応募しないと返答した。

Xは、応募期間内に応募しなかったことから、契約期間満了により、雇用関係が終了した。

Xは、Y社の対応に不満があるとして、提訴した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 有期期間雇用労働者に関する雇止めについては、(1)期間の定めのない契約に転化しているか、(2)雇用契約継続に対する合理的な期待が存在する場合に、期間の定めのない契約に適用される解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用されると解されるところ、XとY社におけるこれまでの期間臨時社員有期雇用契約の更新回数及びXの業務内容(大型トラックによる郵便物の輸送業務)等からすると、XとY社の有期期間雇用契約が期間の定めのない契約に転化しているとは認められないものの、Xには同契約更新に対する合理的な期待が存在していたと認めるのが相当である

2 本件地域社員制度の導入には合理性が認められること、期間臨時社員に比して地域社員のほうが退職金、各種手当等の点において優遇されていること、制度移行に際しXには応募するか否かを検討する機会が保障されていたこと、Xにはパート従業員としての雇用継続の選択肢も用意されていたことなどを総合考慮すれば、本件雇止めには客観的な合理性があり社会通念上相当である。

結論は妥当であると考えます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

継続雇用制度14(JALメンテナンスサービス事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

JALメンテナンスサービス事件(平成22年4月13日・判時2089号154頁)

【事案の概要】

Y社は、航空機整備用工器具類の受払、貸出及び保管に関する事業等を目的とする会社であり、「JMS」と略称されることがある。

X1は、Y社に、57歳で入社し、X2は、54歳で入社し、それぞれ羽田事業所で器材サービス部器材グル―プに所属して、上記工器具類の受払、貸出等の業務を担当していた。

Y社では、従業員は、60歳(定年)までが一般職、定年後65歳までが嘱託社員、それ以上が特別嘱託社員と扱われている。

Xらは、Y社との間で、特別嘱託雇用契約を締結した。

Y社は、Xらを、特別嘱託雇用の更新をする予定はなく、契約期間満了により終了させると通告し、雇止めをした。

Xらは、特別嘱託社員についてもXらの希望に応じて雇用契約が更新されるという労使慣行が存在する、この慣行は雇用契約の内容になっていたのであり、仮にそうでなくても、Xらは雇用契約が更新されることについて合理的期待を有していたものであり、雇止めは無効であると主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 労使慣行とは、労働条件等について就業規則等の成文の規範に基づかない一般的取扱い等が長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して事実上の行為準則として機能するものをいう。
このような取扱い等が、その反復・継続によって雇用契約の内容となっているというべき場合には、その取扱い等には労働契約の効力が認められる。

2 Y社は、平成15年から17年にかけてのころ、エイジフリーの実現等を積極的に広報して就業者の上限年齢を撤廃し(再雇用期間を67歳までに限定することを見直した)、そのころ、特別嘱託社員を増員している。
しかし、従業員には、特別嘱託社員として再雇用されなかった者や、再雇用されても67歳までに退職した者も少なくないし、特別嘱託社員数は、平成18年以降減少に転じており、現在は全社で3人にすぎない。そうだとすると、時間の長短は相対的なものではあるが、3年程度の間に生じた事実によって、ただちに「一般的取扱い等が長い間反復・継続して行われた」とまで認めることはできない

3 特別嘱託社員は、60歳定年後さらに5年経過後の、原則として6か月間の有期雇用契約にすぎず、従業員には特別嘱託社員として再雇用されない者もあり、されたとしても67歳に達する前に退職した者も少なくない。
このような事実によれば、上記期待は、Xらの主観的なものにすぎず、Y社に契約更新(ないし新たな再雇用契約の締結)を事実上義務付けるような強い効果を有するものとは認められない。

この事案は、労使慣行に関する裁判例として区分すべきでしょうが、継続雇用制度のグループに入れておきます。

この裁判例では、労使慣行の存否について、上記判例のポイント1のように定義づけました。

菅野先生の基本書を参考にしたものと思われます。

労使慣行は、そう簡単には認められません。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

労災10(大正製薬事件)

おはようございます。

今日は、午前中は刑事裁判1件と打合せ数件。

午後は、東京で弁護団会議があります

なんかおいしいものでも食べてこようかな。

そんな時間はないか・・・。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

大正製薬事件(福岡地裁平成22年2月17日・労判1009号82頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬品製造ならびに販売業を営む会社である。

Xは、Y社入社後、Y社福岡支店営業部のナショナル部(全国展開している大手スーパーやドラッグストアなどの取引先を担当する部署)に配属され、九州各県(鹿児島県を除く)所在のスーパー等の約30店舗を訪問する業務に従事していた。

Xは、出張中の宿泊先であるホテルにおいて脳内出血により死亡した(死亡当時42歳)。

Xは、C型慢性肝炎を患っており、インターフェロン治療を受けたものの完治せず、以後死亡するまで、外来で診療を継続した。しかし、Xが発症したC型肝炎は、肝硬変ではなく、出血傾向や他の合併症はなく、日常生活に支障のないものであった。

また、Xは、細菌性髄膜炎と診断され、入院治療をしたことがある。Xが退院した際、出血傾向はなかった。なお、入院中、Xに対して血液検査、頭部CT検査、MRI検査や血圧の測定等が行われたが、特段の指摘がされた事実はない。

【裁判所の判断】

福岡労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 「業務上死亡した場合」とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、当該業務と当該死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は、業務に内在ないし随伴する各種の危険が現実化して労働者に傷病等をもたらした場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の填補の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記相当因果関係の有無は、当該傷病等が当該業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである

2 そして、脳血管罹患発症の基礎となり得る素因又は疾病を有していた労働者が、脳血管疾患を発症する場合、様々な要因が上記素因等に作用してこれを悪化させ、発症に至るという経過をたどるものであるから、その素因等の程度及び他の危険因子との関係を踏まえ、医学的知見に照らし、業務による過重な負荷が上記素因等を自然の経過を超えて増悪させ、疾病を発病させたと認められる場合には、その増悪は当該業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である

3 被告が依拠する新認定基準は、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価でき、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6カ月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている

4 Xの時間外労働時間は、年末年始の長期休暇を含む発症6か月前の1か月間以外は、45時間を大幅に超え、発症前1か月間は100時間をわずかに下回る程度であり、さらに、発症6か月前の1か月間及び発症5か月前の1か月間を除く4か月間の平均が84時間40分、更にゴールデンウィーク及び細菌性髄膜炎による長期休暇がなければ、発症前6か月間の平均が80時間を超えるものとなっていたであろうことは容易に推認することができる。
したがって、Xの時間外労働時間は、新認定基準に照らしても、この基準を超えているか、これに極めて近いものとなっているというべきであり、Xの業務は、労働時間の点だけみても、精神的・肉体的に負荷の大きいものであったといえる

5 一般に出張業務、特に遠方への出張は、長距離・長時間の移動を伴うため拘束時間も長く、特に、自ら自動車を運転して高速道路等を走行する場合には、相当程度の精神的緊張を強いられるものであり、また、宿泊を伴う出張業務の場合には、生活環境や生活リズムの変化等、自宅での就寝と比較して疲労の回復が十分にできず、疲労が蓄積する可能性が高い

6 Xは、危険因子である高血圧症が進行し、本件疾病発症当時に脳血管疾患を発症する可能性が一定程度認められる状態にあったと考えられるものの、Xの有していた素因等が、本件疾病当時、他の確たる発症因子がなくてもその自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに脳血管疾患を発症させる程度にまで増悪していたとみることは困難である。

有期労働契約5(東京都自動車整備振興会(嘱託職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期雇用契約における期間途中での解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京都自動車整備振興会(嘱託職員)事件(東京高裁平成21年11月18日・労判1005号82頁)

【事案の概要】

Y社は、国土交通省関東運輸局管轄の公益社団法人であり、道路運送車両法により、自動車の整備に関する設備の改善及び技術の向上を促進し、並びに自動車の整備事業の業務の適正な運営を確保するとの趣旨の下に、意見の公表等を行うこと、必要な調査研究等を行うこと等を事業目的とすることが法定されている。

Xは、Y社との間で、嘱託雇用契約書により雇用契約を締結し、専任講師として勤務してきた(期間1年。更新可)。

Y社の就業規則上、正職員には60歳定年制度が導入されているのに対し、1年間の嘱託雇用期間を、65歳まで更新していく者が多かった。

Xは、定年に達するまでに、17回にわたり契約更新をしてきた。

Y社は、Xに対し、Xが満60歳に達し、雇用契約が終了する旨の通知を交付すると同時に、再雇用嘱託契約書(雇用期間1年。65歳まで更新可)を提示した。

Xは、本件雇用契約では、Xが65歳まで勤務することが条件とされていたのであるから、契約終了には納得できない、今後も退職せず勤務を続けていく旨の意思表示をした。

【裁判所の判断】

1 本件雇用契約終了は、契約期間内の解雇にほかならない

2 本件解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社が、満60歳到達日での契約終了を通知したことにつき、本件雇用契約終了は契約期間内の解雇にほかならない。

2 本件解雇事由の存否につき、Y社は、改正高年雇用安定法の施行に伴って、正社員については、60歳での雇用契約終了とその後再雇用契約締結の制度を導入し、経済的事情から再雇用契約の給与額上限を従前の額を問わず月額25万円としたものであり、組織内の均衡を保つために、Xとの本件雇用契約(給与月額35万円)についても、上記上限額での再雇用契約締結を前提に、契約終了の告知をしたのであって、Y社には事業運営上やむを得ない事情があったといえ、本件解雇が客観的合理性あるいは社会的相当性を欠くとは認められない

裁判所の判断は妥当であると考えます。

第一審(東京地裁平成21年1月26日)では、解雇無効と判断されています。

高裁は、最後に以下のとおり判断しています。

「以上のとおりであって、Xの請求はいずれも理由がない。Xは、前記認定の社会経済情勢の変化等の諸制約をみないまま、公益法人であるY社組織全体の今後の在り方を度外視して、法的には本来1年の雇用期間でしかない契約であるにもかかわらず65歳まで継続勤務できる権利があるなどと強弁し、併せてY社の置かれた経済事情を踏まえれば証拠上合理性の認められないことが明らかな高額な給与を要求するという主張に終始して本件紛争を継続してきたものというほかなく、その方針は紛争の合理的解決から著しく外れるものといわなければならない。」

・・・なんか怒ってます?

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

守秘義務・内部告発4(Yタクシー会社(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

Yタクシー会社(雇止め)事件(京都地裁平成19年10月30日・労判955号47頁)

【事案の概要】

Y社は、タクシー会社である。

Xは、Y社に入社し、Y社のA営業所に勤務していた。

XとY社は、嘱託労働契約書をもって、契約期間を1年間とする有期雇用契約を締結した。

Xは、Y社労働組合A支部からA営業所内における従業員およびA営業所所長の白タク営業、メーターの不正操作、営業日誌ねつ造等の疑惑がある旨記載されている文書を入手し、労働組合全支部長、Y社代表へ、真相解明および問題の解決を求める書面を作成し、送付した。

その後、Xは、警察署に対し、白タク行為を把握した旨申告した。

組合は、Xが問題として指摘した点については、問題解決に向け、支部労使会を開催することで対処する旨が決定されていたのに、制裁処分として、Xに対し戒告および罰金を課した。

所長は、Xに対し、雇止めにする旨を通告した。

この際、所長は、有期労働契約の期間が経過したという理由を述べただけで、なぜ更新しないのかについては理由を説明しなかった。

Xは、雇止めは無効であるとして、地位保全等仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

雇止めは、無効であり、地位保全および賃金仮処分の必要性を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社就業規則には、組合によって制裁を受けた者を再雇用しない旨が規定されているが、こうした規定に基づいて使用者が組合に対して雇止めをすべき義務負うのは、組合による処分が有効な場合に限られ、当該処分が無効と解される場合には使用者は雇止めをすべき義務を負わない。

2 使用者が労働組合に対する義務の履行として行う雇止めは、雇止めの義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして是認できるのであって、処分が無効な場合には、他に解雇の合理性を基礎づける特段の事情がない限り、解雇権の濫用として無効であり、このことは、Y社就業規則が、所定の基準に該当している場合であっても、状況に応じては再雇用をする場合がある旨規定していることからも明らかである。

3 公益通報者保護法が制定された趣旨にかんがみても、Xの行動は組合による処分に相当するものとは評価すべきではなく、ユニオン当該行動が、組合が告発等をしない方向性を打ち出している状況の下で告発等をしたという意味で、形式的には権限を越えて行動した場合に該当するとはいえても、本件統制処分は、もともとの問題行動への関与者を処分せずに、これを指摘したXのみを処分するものとして不平等であり、著しく裁量を濫用したものとして無効といわざるを得ない。

本来は、有期雇用における雇止めの問題です。

この裁判例は、内部告発に関する問題以外にも、たくさんの重要な問題が含まれています。

上記判例のポイント2は、重要です。

この点は、ユニオンショップ協定に基づく解雇の効力に関する日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日・労判227号32頁)と同様の判断です。

なお、ユニオンショップとは、使用者が労働協約において自己の雇用する労働者のうち当該労働組合に加入しない者、および当該労働組合の組合員ではなくなった者を解雇する義務を負う制度です。

その他、使用者が、雇止めの意思表示の際に明示していなかった理由を訴訟上主張することは許されるが、雇止めが懲戒解雇事由の存在を根拠として、実質的に懲戒解雇の趣旨でなされた場合においては、懲戒解雇事由以外の普通解雇事由に該当するにすぎないような解雇理由を主張することは許されない、という点も参考になります。

この点は、山口観光事件(最一小判平成8年9月26日・労判708号31頁)と同様の判断です。

同事件は、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできないと判断したものです。

懲戒解雇をはじめとする懲戒処分を行う際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることを習慣にしましょう。

労災9(日本電気事件)

おはようございます。

今日も書面を作成します。

最後の追い込みです!!

がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本電気事件(東京地裁平成22年3月11日・労判1007号83頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ、通信機器、電子デバイス、ソフトウエアなどの製造販売を含むインターネット・ソリューション事業を主要な事業とする会社である。

Xは、Y社においてミドルウェア事業部第2技術部の部長等の地位にあったが、経営危機により事業の収益性が厳しく追求されるようになる中で、うつ病を発症し自殺した(死亡当時52歳)。

【裁判所の判断】

三田労基署長による遺族補償給不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の精神障害の発病等について業務起因性の有無を判断するに当たっても同様に解することになるところ、精神障害の発病については、環境からくるストレス(心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることが認められることからすると、業務と精神障害の発病との間の相当因果関係、すなわち、ストレス(これには業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷がある。)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮して、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発病させる程度に過度であるといえるかどうかを検討し、その過重性が認められる場合には、業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 上記の危険責任の法理にかんがみれば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者を基準とすべきであり、このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における業務による心理的負荷が上記内容の危険性を有しているということができ、業務以外の心理的負荷及び個体側の要因がない場合には、当該労働者の精神障害の発病等について業務起因性を肯定することができるというべきである。

3 Xは、責任者として事業を遂行するうえで強い心理的負荷を受けていたうえ、それ自体がうつ病発症原因となるおそれがある極度の長時間にわたる時間外労働を行っていたことも認められることからすると、Xの業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重であったというのが相当である。

4 Xのうつ病発症および自殺に至る一連の過程は、業務に内在する危険が現実化したものというべきであり、Xの自殺には業務起因性が認められる。