競業避止義務7(ピアス事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例について見ていきましょう。

ピアス事件(大阪地裁平成21年3月30日・労判987号60頁)

【事案の概要】

Y社は、化粧品販売及び美容サービス等の提供等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員であったが、自己都合で退職した。

Y社は、米国所在のZ社との間で、日本国内での眉に関する美容トリートメント事業について独占代理店になる旨の契約を締結し、その後、本件事業のアジア地域における独占的な営業権を購入する旨の契約を締結している。

本件事業の立上げに際し、Xらは、新規事業開発部事業ディレクターに就任した。Xらは、本件事業における中心的な立場にあった

Xらは、在職中に、Y社に対し、在職中および退職後にわたり、Y社の経営・人事・経理・業務・マーケティング・製品開発・研究・製造・営業に関する情報等を開示・漏洩または使用しないとする機密保持契約書を提出している。

Y社就業規則には、無許可の兼職を禁止する規定および無許可の兼職を懲戒解雇事由とする規定がある。

Xらは、退職届をY社に提出した後(退職する前)、ビューティーサロン及びエステティックサロンの経営等を目的とするA社を設立した。

Xらは、A社の設立当初から、A社の取締役に就任していた。

Y社の賞罰委員会は、Xらに対し、懲戒解雇処分相当ないし懲戒解雇処分とし、Y社退職金規程に基づき、退職金を支給しない旨を通知した。

Xらは、Y社に対し、退職金等の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 A社の設立・取締役就任については、Xらは、Y社在職中に、本件事業と競合する事業を営むことを目的として、A社設立に関する準備行為をし、同社取締役に就任したものと認められ、このようなXらの行為は、無許可の兼職等を禁止するY社就業規則の規定に違反し、無許可の兼職等を懲戒解雇事由とする規定に該当し、また、雇用契約上の職務専念義務および誠実義務に反するものである。

2 秘密保持義務違反については、Xらは、機密保持契約書に基づき、Y社における機密情報について、在職中および退職後にわたり、無断で開示・漏洩または使用しない義務を負っており、Xらは、当該誓約書の記載のとおり、競業避止義務を負う。

3 XらがA社で提供している眉の美容トリートメントに関する技術の相当部分は、XらがZ社での研修によって習得した独自の技術を基にして、XらがY社においてさらに習得した技術を加味したもので構成されていると認めるのが相当である。そして、Xらがその保有技術をA社で提供していることは、本件秘密保持義務および本件就業規則の規定に違反し、機密漏洩等を懲戒解雇事由とする規定に該当するものである。

4 Xらの行為は、Y社における職場秩序を少なからず乱すものであり、XらのY社における勤続の功を抹消する程度にまで著しく信義に反する行為であったと認められる。
Xらの退職金請求は、その全額において権利の濫用にあたる

XらがY社において重要な地位にあったことや、A社で提供している商品技術の性質等からすると、このような判断はやむを得ないと思います。

退職金についても全額不支給となっています。

通常、退職金は、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されるので、一般的に賃金の後払い的性格を有しています。他方で、支給基準において自己都合退職と会社都合退職とを区別したり、勤務成績の勘案がなされる場合もあるなど功労報償的性格も有しています。

懲戒解雇が有効とされる場合でも、なお退職金不支給の適法性は別途検討されるべき問題です。

多くの裁判例において、「退職金の全額を失わせるに足りる懲戒解雇の理由とは、労働者に永年の勤労の功を抹消してしまうほどの不信があったことを要する」としています。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。