おはようございます。
さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。
セントラル・パーク事件(岡山地裁平成19年3月27日・労判例941号23頁)
【事案の概要】
Y社は、ホテルや駐車場等を経営し、軽食喫茶店も、一時経営していた会社である。
Y社は、社長、専務らを中心とするいわゆる同族会社である。
Xは、Y社との間で、料理長として勤務する旨の期間の定めのない雇用契約を締結した。Xの業務内容は、Y社が経営するホテルのレストラン等の料理の企画、実行及び他の料理人の指揮・監督であった。
Xは、Y社退職後、時間外労働手当、付加金等の支払いを求めた。
これに対し、Y社は、Xが労基法41条2号の管理監督者であるから、時間外労働手当を請求できる地位にない等と主張し争った。
【裁判所の判断】
管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。
付加金の支払いも命じた。
【判例のポイント】
1 Xは出退勤について厳格な規制を受けずに、自己の勤務時間について自由裁量を有しているとは認めがたい。
2 現場での料理人の配置を決める以上に、各料理人の昇給の決定やY社の労務管理方針の決定への参画など、特段の労務管理についての権限があったわけではない。
3 Xの給与面での待遇は、Y社内においては高いものであったとしても、その待遇の故をもって管理監督者に該当するとはいえず、その待遇も管理監督者に該当しないとしても、不自然に高いものということはできない。
勤務時間について、Y社では、料理人であるXの作成したシフト表に基づき他の料理人は勤務し、Xは、その勤務時間割もシフト表によって自ら決定していたし、自己の出退勤時間や休日について、社長や専務に対し、逐一報告や了承をとっていなかったようです。
しかし、裁判所は、以下のように判断し、Xの出退勤に厳格な規制がないと評価することはできないとしました。
「しかし、Xは、他の料理人と同様の勤務時間帯に沿ってシフト表に自らを組み込み、他の料理人と同様に、ホテルレストラン等において料理の準備、調理、盛り付けといった仕事を行っていたのであって、Xを含む5人の料理人がそれぞれ月5日以上の休日を取っているため、4人の料理人でホテルレストラン等の調理を担当する日も多く、Xがシフト表を作成するからといって、自己についてのみ、自由に出退勤時間を決めたり、その都合を優先して休日をとったりすることが実際には困難であったことは容易に推認できる。」
形式よりも実質を重視したわけです。
また、Y社が料理人を採用する際、Xの関与の程度について、裁判所は以下のように判断しています。
「Xは、Y社が料理人を採用する際には、Y社社長に候補者を推薦したり、募集や採用の手続を自ら行ってはいたが、Xの判断のみで採用や解雇が決定されたということはないし、Xが採用を推薦することが直ちにY社の採用につながるものではなかった。」
う~ん・・・Xは社長ではありませんので、Xの判断のみで決定できるわけがありません。
その他、裁判所は、以下のとおり判断し、付加金の支払いを命じました。
「Y社は、かつてはタイムカードによって従業員の出退勤時刻の把握をしていたにもかかわらず、労働基準監督署から法定労働時間外労働に対する割増賃金の不払等について是正勧告を受けた後間もなく、タイムカードを廃止し、その後は、出勤した従業員に出勤簿に押印させるのみとして、従業員の出勤時刻はもちろん退勤時刻を客観的に記録、把握する仕組みを何ら設けていないことが認められ、Y社は、労働時間の適正な把握という使用者の基本的な責務を果たしていないと評価するほかない。そして、Y社において労働時間を適正に把握していれば、本件紛争もより早期に的確に解決し得たものと考えられるし、Xが本件請求期間においてシフト表記載の時刻よりも早く出勤し、又は遅く退勤したことがあったことについては、証明には至らないものの、相当程度の可能性が存在するのである。
そうすると、……本件ではY社に付加金の支払を命ずることが相当である。
そして、本件では、裁判所の裁量によって付加金を減額するのが相当というまでの事情は認められない。」
未払残業代等の請求をする際、会社がちゃんとタイムカード等で労働時間を管理していないことがあります。
今回のケースは、労基署による是正勧告後に、あえて労働時間の管理を放棄したもので、悪質と言わざるを得ません。
そのため、裁判所も、付加金の支払いを満額認めたようです。
付加金は、裁判所の裁量により減額されたり、支払わなくてもよいと判断されることがあります。
付加金について満額支払われるべきであると主張する際の理由づけとして参考になりますね。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。