競業避止義務5(エーディーアンドパートナーズ(アルケ通信社)事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

エーディーアンドパートナーズ(アルケ通信社)事件(東京地裁平成20年7月24日・労判977号86頁)

【事案の概要】

Y社は、主として不動産に関する広告・印刷業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、営業企画部に配属され、営業活動に従事し、退職した。退職時の役職は営業企画部課長である。

Y社就業規則には、会社の機密事項等に関する守秘義務が規定されていた。

また、Xは、Y社退職時に、同内容の誓約書をY社に提出した。

Xは、Y社を退職し、約1カ月後、広告関連事業を目的とするA社を設立し、A社の代表取締役となった。

Y社は、Xが、Y社在職中に営業企画部課長として関与した取引先会社B社から受注予定の広告事業について、Y社から受注を奪うべく在職中又は退職後にB社に対して働きかけを行い、退職後に自ら設立したY社と競業するA社において、当該受注を受けるとともに、B社を奪いY社に損害を与えたとして、X及びA社に対し、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求をした

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの退職の理由は、二女が誕生し、妻が自宅療養中であるなどの家庭事情がある中で、Y社の勤務環境および当該家庭事情を理由とする研修不参加に対する幹部らの対応に失望したことにある。

2 Xは退職の時点では、会社を設立するか同業他社に転職するかについて決めかねていた。

3 引継ぎの際、Xは、最終段階できちんとした企画書を提出さえすれば受注はほぼ間違いないであろうと考えたことから、Y社従業員に対し、企画書さえ出せば受注は取れる、最初から企画書はかちっとしたものでなくてもよい、などと発言した。

4 B社は当初からコンペにより発注先を決定する方針であった

5 XがY社在職中はもとより退職後も、B社から企画書提出の要請を受けるまでの間に、B社に接触を図ったり、B社に提出するA社企画書の作成に当たり、Y社在職中に知り得た情報等を使用したことなどは認められず、引継ぎについても、ことさらにY社従業員を油断させるようなものとはいえない

 Xは、Y社退職後、A社設立準備中にB社担当者からコンペ参加の打診を受け、Y社在籍中に知り得た業務上または技術上の秘密等を利用することなく、退職後に自ら行った現地調査や周辺環境の調査等をもとに、それまで培った経験・知識等を生かして企画書を作成・提出し、、受注に至ったのであり、これを自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできない

このように、裁判所は、Xが代表取締役を務めるA社が、B社から新規プロジェクトを受注できたのは、B社のコンペにおいて最も高い評価を得たためであり、これを自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできないと判断しました。

妥当な判断だと思います。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。