おはようございます。
さて、今日も引き続き、管理監督者に関する裁判例を見ていきましょう。
東和システム事件(東京高裁平成21年12月25日・労判998号5頁)
【事案の概要】
Y社は、ソフトウェア開発等を営む会社である。
Xは、Y社において、SEとして勤務していた。
Xは、課長代理の職位にあり、職務手当(1万5000円)の支給を受けていた。
Y社では、管理職には職務手当のほか、基本給の30%に相当する「特励手当」が毎月の所定内賃金として支払われていた。
Xは、Y社に対し、時間外手当および付加金等を請求した。
(Xが一定量の時間外労働をした事実については争いがない。)
Y社は、(1)Xは管理監督者にあたる、(2)仮に管理監督者でなくても、「特励手当」を時間外手当の算定基礎に含めるべきである、などと主張し、争った。
【裁判所の判断】
管理監督者性を否定し、割増賃金、付加金の支払いを命じた。
【判例のポイント】
1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理につき、経営者と一体的な立場にあるものをいい、名称にとわられず、実態に即して判断すべきであると解される。
具体的には、
(1)職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
(2)部下に対する労務管理上の決定権等につき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること
(3)管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
(4)自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があること
以上の要件を満たすことを要すると解すべきである。
→Xは、上記要件をみたさない。
2 Xに支給されていた本件「特励手当」は、超過勤務手当の代替または補填の趣旨を持つものであって、特励手当の支給と超過勤務手当の支給とは重複しないものと解せられるから、Xが受給しうる未払超過勤務手当から既払いの特励手当を控除すべきである。
3 Y社に対し、付加金の支払いを命じるのが相当ではあるが、Y社の態度がことさらに悪質なものであったとはいえず、その額は未払超過勤務手当額の3割が相当である。
昨日、見た「日本マクドナルド事件」と規範が異なります。
マクドナルド事件では、「企業全体の事業経営」に関与することが要件とされていました。
ところが、東和システム事件では、「ある部門全体の統括的な立場」にあることが要件となっています。
企業全体か部門全体か、かなり要件が異なります。
管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。
付加金について。
労働基準法第114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。」
つまり、会社としては、未払金の倍額を支払わなければならない可能性があるわけです。
あくまで可能性です。
裁判所は、会社による労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度等諸般の事情を考慮して、支払義務の存否、額を決定します。
本件裁判例では、付加金として3割の支払いを命じました。
20条・・・解雇予告手当
26条・・・休業手当
37条・・・時間外・休日・深夜労働の割増賃金
39条6項・・・年次有給休暇中の賃金
上記4つのほかは、付加金の請求はできません。
また、付加金については、判決確定の日の翌日から民事法定利率である年5%の遅延損害金も請求できます(江東ダイハツ自動車事件・最一小判昭和50年7月17日・労判234号17頁)。
そして、付加金の請求は違反のあったときから2年以内にしなければなりません。この期間は除斥期間であると解されています。