Monthly Archives: 9月 2010

労働時間5(事業場外みなし労働時間制その5)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

和光商事事件(大阪地裁平成14年7月19日・労判833号22頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業を営む会社である。

Xは、Y社の営業社員として外勤勤務を行っていた。

Xは、Y社退職後、未払いの時間外労働割増賃金の支払いなどを求めた。

Y社は、事業場外みなし労働時間制により所定労働時間労働したものとみなされるから、Xに時間外労働時間は存在しないと主張した。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社では、営業社員について勤務時間を定めており、基本的に営業社員は朝Y社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤勤務に出て、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となる。

2 Xは、メモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記入した予定表を会社に提出し、外勤中に行動を報告したときは会社が予定表の該当欄を抹消していた。 

3 営業社員全員に会社所有の携帯電話を持たせている。

以上の事情から、裁判所は、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないと判断しました。

なお、Y社は、上記の携帯電話の件について、「顧客から担当者にかかってきた電話を転送するためである」と主張しました。しかし、裁判所は、Y社が営業社員に対して携帯電話を使用して指示を与えていたこともあったことをX本人の尋問内容から認定し、Y社の主張を認めませんでした。

やはりよほど自由な外勤勤務でないと、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないようです。

これまでの裁判例を参考に、「うちの会社もこの程度だったら把握しているな」と思われる場合には、事業場外みなし労働時間制は使わないほうが無難です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

有期労働契約1(有期労働契約研究会報告書)

厚労省から「有期労働契約研究会報告書」が公表されました。

報告書では、「有期労働契約の不合理・不適正な利用を防止するとの視点を持ちつつ、雇用の安定、公正な待遇等を確保するためのルール等について検討すべき」としています。

「具体的には、契約締結事由の規制、更新回数や利用可能期間に係るルール、雇止めに関するルール、有期契約労働者と正社員との均衡待遇及び正社員への転換等」について整理されています。

現状についての報告。

「『臨時雇(1ヶ月以上1年以内の期間を定めて雇われている者)』「日雇(日々又は1ヶ月未満の契約で雇われている者)」の合計で見たとき、昭和60(1985)年の437万人から平成21(2009)年には751万人雇用者総数の13.8%)に量的に増加し」ている(有期労働契約研究会報告書2頁)。

有期労働契約に関する問題についても、後日、検討していきたいと思います。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労働時間4(事業場外みなし労働時間制その4)

さらに裁判例をもう1つ見てみましょう。

サンマーク事件(大阪地裁平成14年3月29日・労判828号86頁)

【事案の概要】

Y社は、教育機器等の販売、通信販売業務等を行う会社である。

Xは、Y社の営業社員であり、情報誌の広告企画、営業活動、取材活動、原稿依頼等の職務を行っていた。 

 Xは、Y社に対し、時間外割増賃金の支払いを求めた。 

 
Y社は、Xの職務はそのほとんどが事業場外で行うものばかりであり、「労働時間が算定し難いとき」に該当し、時間外手当が発生する余地はないと主張して争った。

【裁判所の判断】

事業場みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。  

【判例のポイント】

1 Xの事業場外における業務は、前日提出の報告書や当日の打合せで上司に把握されており、その結果も、訪問先における訪問時刻と退出時刻を報告するという制度によって管理されている。 

2 同報告書には、訪問先すべてについて、訪問時刻と退出時刻、訪問の回数、見込み、結果、今後の対策等を記載するとされていたことから、Xが事業場外における営業活動中にその多くを休憩時間に当てるなど自由に使えるような裁量はなかった


以上の事情から、裁判所は、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないと判断しました。


本件のような詳細な報告書の提出を義務付けている場合には、「労働時間が算定し難いとき」には該当しないようです。
 

やはりそう簡単には認められないようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間3(事業場外みなし労働時間制その3)

おはようございます。

もう1つ裁判例を見てみましょう。

千里山生活協同組合事件(大阪地裁平成11年5月31日・労判772号60頁)

【事案の概要】

Y社は、消費生活協同組合。

Xらは、Y社の支所、倉庫等において、物流業務、共同購入業務等に従事していた。

Y社の就業規則には、配達業務への事業場外みなし労働時間制が規定されている。

Xらは、時間外労働等に対する割増賃金の支払いを求めた。

Y社は、就業規則を根拠に、配達からの帰着時間が所定終業時間を超えても時間外勤務手当の対象とはならないと主張した。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社においては、配達業務に従事する職員を含めて、その労働時間をタイムカードによって管理しており、労働時間を算定しがたい場合に当たらない。

というわけで、タイムカードで労働時間を管理している場合には、事業場外みなし労働時間制を使うことはできないようです。

なお、時間外労働の有無について、タイムカードの記載によって、これを認定できるかについて争われることがあります。

本件でも争点の1つになっています。

裁判例の中にも、タイムカードの記載によって時間外労働時間を認定するものと、タイムカードの記載は現実の労働時間を記載したものではないとするものがあります。

この点については、別の機会に見ていきたいと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間2(事業場外みなし労働時間制その2)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

ほるぷ事件(東京地裁平成9年8月1日・労判722号62頁)

【事案の概要】

Y社は、書籍等の訪問販売を主たる業務とする会社である。

Xらは、Y社のプロモーター社員(就業規則上、事業場外みなし規定が適用されるものとされている)であり、土曜または日曜の休日に、展覧会での販売業務に従事したとして、時間外及び休日手当を請求した。

Y社は、展覧会での労働が、事業場外みなし労働時間制の適用の対象である等として、Xらの請求に応じなかった。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 展示販売は、業務に従事する場所及び時間が限定されていた。

2 Y社の支店長等も業務場所に赴いていた。

3 Xらの会場内での勤務は、顧客への対応以外の時間も顧客の来訪に備えて待機していたものであり、休憩時間とはいえない。

1~3のような事情から、裁判所は、「労働時間を算定し難いとき」とはいえないと判断しました。

1、2からすると、労働時間は把握できたと判断されても仕方がありません。

みなし労働時間制の要件を満たしていない場合には、原則に戻り、実労働時間で労働時間を計算して割増賃金を支払うことになります。

もっとも、残業時間が何時間であるかについては、労働者が立証しなければなりません。

そのため、従業員のみなさんは、事業場外みなし労働時間制が採用されている場合でも、実労働時間を記録化しておくことをおすすめします。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間1(事業場外みなし労働時間制その1)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制について見ていきます。

この制度を使うべきか否かについて、現在、ある会社から相談を受けております。

労働基準法38条の2第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

事業場外で業務を行うために、管理者の具体的な指揮監督が及ばない場合には、労働時間について、一定の時間働いたものとみなす、という制度です。

したがって、単に事業場外で仕事をするだけでは、この制度を使うことはできません。

この制度を使う場合には、以下の要件をみたすことと、労使協定を締結することが必要となります。

また、就業規則にも定めておく必要があります。

この制度を使う場合、労基法38条の2第1項で定めているとおり、「労働時間を算定し難い」ことが要件となります。

具体的には、使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に、利用することができます。

そのため、例えば、
1 グループで仕事をする場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

2 携帯電話等によって随時使用者の指示を受けながら仕事をしている場合

3 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた際、指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合

等の場合には、労働時間の算定が困難であるとはいえず、この制度を使うことはできません。

そのため、訪問先を決めるのも帰社時間を決めるのも従業員の裁量となっており、逐一外出先からの報告が義務づけられていないような場合にしか使うことができません。

この制度は、あくまで例外的なものなので、そう簡単には使えないわけです。

次回、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

メンタルヘルス3(メンタルヘルス対策の新たな枠組み)

「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」の報告書取りまとめ
~プライバシーに配慮しつつ、職場環境の改善につながる新たな枠組みを提言~
(厚労省)

「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」が対策の新たな枠組みを発表しました。

具体的な枠組みは以下のとおり。

1 一般定期健康診断に併せて医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認、必要と認められるものについて医師による面接を受けられるしくみの導入

2 医師は労働者のストレスに関連する症状・不調の状況、面接の要否等について事業者に通知しない

3 医師による面接の結果、必要な場合には労働者の同意を得て事業者に意見を提出

4 健康保持に必要な措置を超えて人事・処遇等において不利益な取扱を行ってはならない

このうち、2、3は、労働者のプライバシー保護の観点が含まれています。

メンタルヘルス不調には、特に医療関係者以外の者に知られたくないという要素があり、個人情報の保護に慎重な対応が必要とされます。

担当者のみなさん、メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談しながら1つ1つ丁寧に進めていくことが肝心です。

労災④(団体定期保険・生命保険に基づく保険金と死亡退職金)

会社が保険契約者(保険料負担者)兼保険金受取人、従業員が被保険者とする団体生命保険を結ぶことがあります。

この場合、被保険者が死亡した場合、保険金の大部分を会社が取得し、従業員の遺族には、一部しか支払われないことになります。

この状況に納得できない従業員の遺族が、会社に対して保険金の全部又は相当部分の支払いを求めて裁判を起こすことがあります。

この点について、最高裁判決が出されるまでの間、下級審判決においては、労使間の利害調整を図るために、会社と従業員との間に保険金引渡の黙示の合意があったことを理由として、従業員の遺族に対して保険金のうち社会的に相当な金額の範囲で支払うように判断するものもありました(住友軽金属工業事件:名古屋高判平成13年3月6日・労判808号30頁など)。

会社と従業員との間の合意という構成は、完全にフィクションです。

結論ありきです。

そして、平成18年にとうとう最高裁判決が出されました。

住友軽金属工業事件(最三小判平成18年4月11日・労判915号51頁)において、最高裁は、団体定期生命保険契約を公序良俗違反とはせず、会社と従業員との間に保険金引渡の黙示の合意があったことを否定して、遺族の会社に対する請求を認めませんでした。

最高裁としては、フィクションの構成は採用できないというわけです。

というわけで、団体保険については、判断が分かれていましたが、法的論争に一応の解決がつきました

労災③(労災保険と損害賠償の関係)

労災が起こった場合、損害賠償について、労災保険だけでは賠償のすべては補償されません。

以下、簡単にまとめておきます。

1 治療費、休業補償、逸失利益などに対する既払の保険給付

既に支払われた保険給付の額は、会社が支払うべき損害賠償から控除されます。

そうでないと、二重払いになってしまいます。

ただし、保険給付は、主として治療費、休業補償や将来の逸失利益の補償だけを行うものであり、慰謝料や入院雑費・付添看護費等の補償は保険とは別に賠償しなければなりません

つまり、労災保険ではカバーされていない損害については、会社が自ら手当てをしなければいけません。

2 将来の年金給付

死亡事故や障害等級7級以上の重い後遺障害の場合に、年金で支給されます。

将来給付分の年金給付については、会社が支払うべき損害賠償から控除されません!

これが現在の最高裁の判断です(三共自動車事件:最三小判昭和52年10月25日)。

ここは要注意です

また、この場合、会社が損害賠償義務を履行した場合、国に対して未支給の労災保険金を会社に支払えと代位しても、認められません(三共自動車事件:最一小判平成元年4月27日)。

3 特別支給金

労災保険では、被災者の所得補償として、通常の保険給付で約6割を、特別支給金で約2割を補償し、合計約8割をカバーしています。

この特別支給金については、将来分はもちろんのこと、既払分についても、損害額から控除することは認められませんコック食品事件:最二小判平成8年2月23日)。

4 遺族厚生年金

死亡した被災労働者の相続人が、その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得した場合には、支給を受けることが確定した遺族厚生年金は控除されます(最二小判平成15年12月17日)。

このように、労災保険でカバーされない部分がかなりあります。

会社としては、労災保険だけで労災についての賠償問題が解決するとは考えないほうがいいということです

労災は、事前の準備がカギとなります。

労災②(過労死・過労自殺事案における会社の予見可能性)

おはようございます。

今日は、今から石川に1泊2日で出張に行ってきます

おいしいもの食べてこよっと

さて、過労死・過労自殺事案において、会社が損害賠償責任を負うのは、会社に帰責事由、すなわち予見可能性がある場合です。

つまり、なんでもかんでも会社が責任を負うわけではありません。

では、会社は、どこまで予見することが必要とされているのでしょうか。

日鉄鉱業事件(福岡高裁平成元年3月31日判決・労判541号50頁)で、裁判所は以下のとおり判断しています。

会社が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである

つまり、

会社が、従業員の死の結果を予見することまでは必要ないということです。

会社(具体的には、上司など)が、

1 従業員が長時間労働などの過重な業務に従事していること

2 従業員の健康状態が悪化していること

の2つの事情を認識し、または、認識することができた場合には、予見可能性があったと認められます。

また、1について、過重業務が顕著であれば、2の健康状態の悪化の認識可能性があった認められることになります。

つまり、実際に認識していたかどうかよりも、客観的に業務が過重である場合には、予見可能性が認められてしまうというわけです。

くれぐれも、昨日のテーマである安全配慮義務を怠らないようにしてください