解雇13(和光商事事件)

おはようございます。

今日も引き続き、部下が不正行為を行った場合における上司の責任に関する裁判例を見ていきます。

和光商事事件(大阪地裁平成3年10月15日・労判598号62頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業等を目的とする株式会社である。

Xは、Y社の常務取締役として、代表取締役に次ぐ地位にあり、Y社の主たる営業である貸付業務の全体を統括し、併せて従業員に対する教育管理等を行っていた。

Xの部下は、抵当権設定登記を行わないまま顧客に貸付けを実行し、その結果、946万3740円を回収することが不可能となった。

Y社は、Xが常務取締役として、Y社に対し、部下の業務遂行を監督し、これを指導すべき職務上の義務を負っていたにもかかわらず、部下の報告を虚偽と知りながら黙認し、さらに、事実の報告を押しとどめることによって未回収金を発生させるに至った行為は、上記義務に違反する行為であるとして、Xを懲戒解雇した

Xは、懲戒解雇の効力を争った。

Y社は、これに対抗し、Xに対し、未回収金相当額の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

Y社のXに対する損害賠償請求は、請求額の3分の1の限度で認容。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務体制が整備されていれば、抵当権未設定の事実はXからの報告がなくても容易に知り得たはずであるとして、Xの義務違反の程度は軽微であったと主張した。
これに対し、裁判所は、「仮にY社の業務体制に不備があったとしても業務を統括する立場にあったXの責任がこれを理由に軽減されるはずがない。体制に不備があれば、X個人が果たすべき役割はそれだけ重大になりその責任は重くなる。」と判断した。

2 Xが賠償すべき具体的金額については、雇用関係における信義則及び公平の見地から諸事情を慎重に検討し、決定すべきである。

(1)Y社のように金銭貸付を業務とする企業の従業員は、その給与からみて容易に返済できない額の貸付を担当しているのが通常であることから、仮に従業員の落ち度で未回収となった金銭のすべてを当該従業員個人が賠償すべきとすることは、従業員にとって余りにも酷な結果をもたらす。

(2)Y社就業規則にも「従業員が故意または過失によって会社に損害を与えたときは、その全部または一部の損害賠償を求めることがある」との規定があり、全額請求することが原則であるとは定められていない。

(3)Y社の貸付金利は、利息制限法に違反するものであった疑いが強い。

(4)本件懲戒解雇が有効であり、これによりXは本件貸付について十分な制裁を受けたと評価できる。

やはり、上司が部下の不正行為を黙認し、会社に報告せず、会社に損害が発生した場合には、責任を負うことになってしまいます。

もっとも、よほどのことがない限り、会社が被った損害の全部を賠償する、ということにはなりません。

上司のみなさん、くれぐれも黙認しないようにしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。