おはようございます。
さて、今日は、部下が不正行為をしたとして、上司を懲戒解雇したケースを見てみましょう。
関西フェルトファブリック事件(大阪地裁平成10年3月23日判例・労判736号39頁)
【事案の概要】
Y社は、フェルトの製造、加工、販売を主たる事業内容とする株式会社である。
Y社は、XがY社営業所長であった際、経理担当社員Aが多額にわたる金銭横領行為を行ったことについて、以下の理由で、Xを懲戒解雇した。
(1)Xは、Aが反復継続して多数回にわたり、Y社の金銭を横領している事実を少なくとも未必的に知りながら、Aとともに着服金で飲食等をした。
(2)Xは、Aの監督者としての職務を怠り、Aの業務上横領行為に注意を払うことなく漫然と放置した重大な過失により、Aの行為を未然に防止し得なかったばかりか、Aとともに漫然と飲食を繰り返すなどしてその発覚を遅延させて損害を拡大させた。
Aが横領した金額は、約2年間で、合計約3800万円以上である。
Xは、懲戒解雇の効力を争い、あわせて名誉毀損による慰謝料請求とY社の社報などへの謝罪文の掲載等を求めた。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効。
【判例のポイント】
1 XがAの横領行為に積極的に加担ないし関与したとは断定できないが、Aが営業所の経理手続を一手に握っている以上、Xが健全な常識を働かせればAの行為に不審の念を抱き、金銭を横領していることを知り得る状況にあった。
2 Xが営業所長として経理関係のチェックを著しく怠ったためにAの横領行為の発見が遅れ、Y社の被害額が増大した。
3 Aの横領額は、Xの営業所長在任中に目立って増加し、かつ、XとAは多数回にわたり飲食を共にするなどして、かえってAの横領行為を助長したふしがある。
なお、Xは、本件懲戒手続が、Xに対する十分な弁明の機会を与えることなく行われ、かつ事前の警告もなく懲戒解雇が行われたものであって、適正手続に違反すると主張しました。
これに対し、裁判所は、事情聴取の方法がある程度詰問調であったとしても、横領という不祥事の真相解明のためにはことの性質上ある程度やむを得ないと考えられ、とくに強制にわたっていたとは認められないとして、Xの主張を認めませんでした。
上司のみなさんは、自分が不正行為をしないのは当然のこととして、部下が不正行為をしているのを発見した、もしくは発見しえた場合には、適切に対応することが求められています。
積極的に加担ないし関与しなくても、責任を問われることがありますので、ご注意を。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。