おはようございます。
さて、今日は、解雇に関する裁判例を見てみましょう。
東京海上損害調査事件(大阪地裁平成12年3月31日・労判788号49頁)
【事案の概要】
Y社は、保険会社A社の子会社であり、A社が発注する自動車等保険事故の損害額見積もり、状況調査等を業としている。
Xは、Y社の従業員であり、自動車事故の原因調査等を行うアジャスターとして22年間勤務してきた。
アジャスターは、調査報告書の作成・提出および個人所有の業務使用車両の総走行距離・業務走行距離の申告に基づき、調査料および車両経費等をY社から支払われることになっていた。
A社の検査部がY社の調査業務等を抽出検査した際に、Xの車両経費請求書記載の走行距離に不審な点が判明し、Xは、事情聴取を受けた後、同事情聴取の際に虚偽説明をしたことを認める旨の始末書をY社に提出した。
さらに、Xは、事情聴取を受ける中で、通勤交通費の過剰請求、調査料の不正取得、虚偽の明細書や整備請求明細書の作成等を認めた。
Y社は、Xを懲戒解雇することに決め、Xに弁明を求めたが、弁明がなかったため、即日懲戒解雇した。
Xは、Y社主張の解雇事由の存在を否定するとともに、懲戒解雇の相当性を争い、訴訟を提起した。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効。
【判例のポイント】
1 アジャスターの行う調査の結果はA社の支払う保険金の認定の際の資料等に使用され、これに誤りがあればY社の信用喪失のみならず、発注元のA社の信用喪失、保険金過払い等の不利益につながることから、各アジャスターが作成する調査報告書の適正と正確性はY社存立の根幹に関わるものである。
2 Xの解雇事由のうち、走行距離の虚偽説明や通勤交通費の不正請求のみであれば懲戒解雇を相当と認めるに逡巡されるが、その主眼は、面談調査した旨記載した虚偽の調査報告書の作成および調査料不正取得の点にあり、Y社の信用を毀損し背信性が強いものである。
なお、Xは、解雇事由が存在するとしても、本件解雇は、
(1)処分が重すぎるということ(相当性の原則に反する)
(2)始末書提出はけん責処分であり、本件懲戒解雇は二重処分となる(一事不再理の原則)
(3)過去の同種事案のすべてが懲戒解雇になっているわけではなく、処分の均衡を欠く(平等取扱いの原則に反する)
(4)事情聴取は一方的で、弁明の機会が与えられていない(適正手続に反する)
と主張しました。
これらは、懲戒処分の有効要件ですので、Xは、基本に忠実な主張をしたわけです。
参考までに、(2)一事不再理の原則についての裁判所の判断を見てみましょう(一部修正)。
「Xは、・・・本件始末書を提出したことで処分済みであると主張するところ、就業規則四五条には、懲戒として、譴責等の場合には始末書を提出させることとなっているから、原告がこれを懲戒と受け止めたということも全く考えられないことではない。
しかしながら、Y社としては、これを懲戒処分として行ったものではないというのであり、原告の陳述書等にも、譴責処分として始末書の提出を求められた等の事情は全く記載されておらず、本件始末書提出を真にXが懲戒処分として受け止めていたかははなはだ疑問というべきであるし、本件始末書には岡山に行ったと虚偽説明したことのみについての謝罪等しか記載されておらず、仮にこれが譴責処分に当たるとしても、解雇事由の全貌(特に調査料の不正取得や内容虚偽の整備明細請求書を作成させたこと)が明らかになったのは、前記認定のとおり、その後のことであるから、本件解雇については、その一部に重複があるというに過ぎないことになるだけであって、そのために本件解雇が無効になるとは解されない。」
このような主張をされることが予想されますので、会社としては、「始末書」ではなく、事実だけを記載した「報告書」を提出させるにとどめたほうがよいと思います。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。